「素材と仕入れと仕事」にこだわる料理人

そばの実やワラを塗り込めた紅色のしっくい壁に、なぜか心が和む
早速、気になる店名の「はすのうてな」の意味を石橋さんに尋ねてみると、仏教の世界に「蓮の台(うてな)の半座を分かつ」という言葉があるとか。一蓮托生と同じように、運命を共にするという意味であり、転じて、心通う時間を共に過ごす、の意を含んでいるという。居酒屋としてはぴったりのネーミングである。
福岡市内の海際で育った石橋さんは、幼少のころから魚釣りが大好きで、釣った獲物は自分でさばいていたという。一度は電気工事会社に就職したが、魚をさばく仕事がしたい、後で後悔したくない、という思いに駆られて23歳のときに一念発起。思い切って料理の道に飛び込み、活魚専門店で2年間修行。それから料理をもっと学びたいという欲が出て、会席料理店で1年半、居酒屋で3年と腕を磨き、ここに店を構えたのがちょうど30歳。4年半前のことである。当時は繁華街からはずれた場所の、隠れ家のような店が流行していたころであり、あえて駅から10分も離れた場所を選んだのだという。「素材をしっかりと選び、いじり過ぎない。シンプルでありながら、きちんと仕事をする」。そんな店をめざした。ところが、この辺りはマンションとオフィスビルがほとんどの閑静なエリア、はじめの1年間はかなりの苦戦を強いられたそうだ。
「料理は素材の質と値段のバランス。いい素材をいくらで仕入れるか。それをメニューとして組み立て、お客さんにどうアピールするか。それが料理人の腕と眼力」と笑う大将。魚は知り合いの仲買から、季節の野菜は青果市場から、さらに生鮮市場をまめに調べて「足を使って仕入れること」を大事にしてきたという。やがて、料理の美味しさと雰囲気の良さが評判となり、店は次第に繁盛していく。「開店当初からのやり方を、曲げずに貫いてきたからですかね」という大将。この言葉に店の苦楽と自信が感じられる。
メニューは日替わりだというこの店では、確かに何を食べても旨い。なかでもお勧めはと尋ねると、豚の角煮と半熟煮玉子が開店以来の名物だという。豚の三枚肉を7~8時間煮込み、さらに4時間蒸し上げた極上の逸品。その煮汁に2日間漬け込んだ半熟玉子が、トロリとして美味。きざみ野菜とともに漬け込んだ素材を、アウトドア用の薫製機でいぶす手羽先の薫製も人気である。素材それぞれの持ち味を生かした手抜きのない仕事による、ほかにはない創作料理を楽しめる。この店が人気を呼ぶ理由が、このあたりにありそうである。

「気持ちよく酔える」と大将太鼓判の「黒糖焼酎 あまみ長雲」
お勧めの酒を尋ねると、大将は迷うことなく「黒糖焼酎 あまみ長雲」を持ち出して、「私が好きだから」とにっこりする。奄美大島の小さな蔵で作られる黒糖焼酎。もちろん原料は黒糖だけ。30度ものだから、ロックでやるのがいいかも。素朴な味かと思いきや、意外にもすっきりと洗練された口当たりで、上品な黒糖の香りとほのかな甘味が感じられて、すっと飲める。しかも飲み下した後の爽快感がまたいい。「相当飲んでも次の日に残らない。気持ちよく酔えますよ」と激賞する大将。こんな言葉に乗せられて、飲み過ぎてはいけない。危ない、アブナイ…。
博多駅周辺はもちろん市内の各エリアには、当然のことながらビジネス客や観光客を対象にした飲食店が数多くある。はじめて訪れた人は、どこに入ったらいいのか迷うことだろう。そんなときには、この連載記事を活用してほしい。ここなら満足すること間違いなし、とお勧めできる店をチョイスしている。ただし、酔った勢いという場合もあるようで、悪しからず。
■「はすのうてな」
福岡市博多区博多駅東3-9-7
博多ニッコーハイツ アネックス103号
TEL 092-474-6920
営業時間/17:30~1:00(OS 0:00)
定休日/日曜
黒糖焼酎あまみ長雲500円。他にも芋、麦、米、紫蘇など各種焼酎350円~。生ビール550円、日本酒(冷酒)550円~、サワー類350円~。豚の角煮と半熟煮玉子850円、手羽先の薫製(2本)500円、牛ホホ肉のトマト煮陶板仕立て1200円、胡麻サバ780円、銀ダラの味噌漬焼き680円、角煮カツ850円、カリカリベーコンご飯350円 など




