名前をつけることで、通りへの愛着は深まる
陸路で福岡を訪れた人は、まず博多駅に降り立つことになる。西側の「博多口」が中心市街へ向いた駅前であり、林立する高層ビルは大半がオフィスビルやホテルである。新幹線のホームに近い東側の「筑紫口」方向がいわゆる駅裏に当たる。こちらは飲食ビルや雑居ビルなども混在し、雑多で気取りのない雰囲気である。
今、博多駅周辺はにわかに忙しく動いている。2011年に九州新幹線鹿児島ルートが全線開通の予定であり、駅ビルや新幹線ホームの改造工事などが急ピッチで進められている。これを機に駅周辺のにぎわいを盛り上げようと、今年8月に「博多まちづくり推進協議会」から画期的なアイデアが提案された。複雑で分かりにくいといわれてきた駅周辺の11の通りに、新たに名前をつけるという妙案。通りに名前があれば道案内にも便利であり、自然となじみも深まるというねらいである。この試みにより、筑紫口から正面に伸びる通りは「筑紫口中央通り」、この通りと斜めに交差して南東に伸びる通りは「中比恵公園通り」と呼ばれることになった。
中比恵公園通りは約700mほどの道だが、両側にトウカエデの並木が繁るさわやかな通りであり、これまで名前がなかったのが不思議に思われるほど。沿線には名前の由来となった公園や国の出先機関が集まる合同庁舎、奇抜な外観デザインのハイアットリージェンシーホテルなどがあり、緑のアーチが連なる心地よい散策コースである。秋が深まれば、紅葉した並木が美しい風景を描き出す。

トウカエデの並木道が続く中比恵公園通り。晩秋には紅葉が美しい
並木の通りはやがて市内を東西に結ぶ百年橋通りと交差する。その角には手打ちうどんの店。その1本手前の通りを右に入った先、マンションの1階に郷愁を誘う店構えの居酒屋がある。白壁と板張りの店先に置かれた古びた2人乗り自転車、荷車の車輪が目印。ひさしに揺れる蓮の模様の提灯、その灯りに照らされた入口脇の看板には「はすのうてな」の文字が白く浮かぶ。
ゴトゴトと引き戸を開け、土間で靴を脱ぐ。柱やカウンターの端に下げられた駄菓子の袋が、ほのぼのとした気分を醸し出す。左手のカウンターに6席、右手の2つの座敷に24席。店内のあちこちに時代物の茶箪笥や水屋、桶や釜が置かれていて、何だか田舎家に上がり込んだような気分。「骨董好きなもんで、自然と集まってくるんです」と照れ臭そうに笑う大将の石橋眞さん(35)。自分たちで塗ったという紅色のしっくい壁には、レトロな看板が並んでいる。

田舎家のような、温かな郷愁がただよう店構え




