メジャーではない“エクストリームユーザー”にヒントがある

 もう1つ、見えない“未来価値”を示唆してくれる存在として、宮澤氏が挙げるのは「エクストリームユーザー」だ。エクストリームユーザーとは、平均的ユーザーからかけ離れた特長や行動特性がある人を指す。例えば、商品の使用、保有、購買の数などが極端に多い(少ない)、あるいはまだ一般的になっていないことを、こだわりを持って実践している、といった特徴が挙げられる。

 従来のマーケティングでは、市場の平均的なニーズをつかみ、それに応える商品やサービスを投入するのが1つの勝ちパターンだった。しかし、もはやそうした既存の価値観の延長線上には“宝の山”はない。そこで、カギを握るのがエクストリームユーザーだ。「現在はメジャーではない、常識から外れた嗜好を持つ少数派のユーザーこそが、10~20年後には、未来価値を生む“芽”になり得るのです」と宮澤氏は指摘する。

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 こうした独自の視点やフィールドリサーチをもとに、博報堂ではプロトタイピングからビジネスモデル化までのトータルサポートを実施。企業や自治体が抱える課題に対し、最適なプログラムを提供している。

 新規ビジネスモデルの立案やフィールドリサーチなら、コンサルティングファームでも対応可能だ。同社ならではの強みは、「長く知見、経験を蓄積してきた“生活者発想”の視点から、店舗や商品などに対する具体的なアウトプット、実際にプロダクトを届けるまで、トータルで実践できる点にあります」と宮澤氏。

 国内外の企業や、東大をはじめとする教育・研究機関と連携して「オープン・イノベーション」を積極的に推進しているのも同社ならではの取り組みだ。「非連続的なイノベーションやイノベーション人材を生み出していくには、“外部の視点”“異分子の存在”がポイントとなります」と宮澤氏。企業自らが組織や部署の壁を越え、積極的にエコシステムをデザインしていくことも、事業革新を進めていく上で欠かせないという。

日本こそがイノベーション先進国になり得る可能性大

 また、今後は「日本こそが世界の中でも、イノベーション先進国になる可能性が高い」とも宮澤氏は言う。一般的に「日本企業にはイノベーティブな人材が不足している」などと軽視されがちだが、宮澤氏は「むしろ逆」と断言。アニメや文化、食、サービス業など、ほかに例を見ない創造性に富み、クオリティの高い分野が数多くあり、世界からの注目度も高いと指摘する。

 日本企業の弱点であり、今後取り組むべき課題は、「すでに持っているポテンシャルに“未来視座”を加え、ビジネスの仕組みに取り入れること」と宮澤氏。そこに数多くの企業の事業革新を支えてきた博報堂による“第三者の視点”が貢献できるはずだという。「今後も、従来の送り手発想や現状発想からシフトし、いかに未来発想、受け手発想でイノベーションを起こせるかが、企業の命運を左右するでしょう」と宮澤氏は指摘する。

 目の前のハードルは高いようだが、「シンプルに言えば、どういったビジネス、企業が将来的に生活者のためになるのか。いかに生活者から“好き”になってもらえるかを考えることがポイントです」と宮澤氏は語る。その点では、従来の「BtoC」から「BwithC」、つまり生活者と仲間になって、「一緒にいいものを作っていく」という思考の転換も大事だと言う。

 無論、革新的な非連続的成長は、一朝一夕には実現なし得ない。だが、「最初は小さいジャンプしかできなくても、その積み重ねがいつか大きなジャンプに変革を遂げることもあり得ます」と宮澤氏はエールを送る。いきなり大きな飛躍を狙うより、まずは小さな飛躍から。コツコツと小さなイノベーションへの取り組みのスタートが肝心と心得たい。


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宮澤 正憲氏
株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局長
エグゼクティブマーケティングディレクター
東京大学文学部心理学科卒業。株式会社博報堂に入社後、多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、ブランド及びイノベーションの企画・コンサルティングを行う次世代型専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」を立ち上げ、経営戦略、新規事業開発、商品開発、空間開発、組織人材開発、地域活性、社会課題解決など多彩なビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。イノベーション支援サービスを提供する株式会社SEEDATA非常勤取締役。 主な著書に『東大教養学部「考える力」の教室』『「応援したくなる企業」の時代』など多数。
東京大学教養学部教養教育高度化機構 特任教授。