大手への反発から“市民運動”が勃発

 2015年3月~5月に実施されたクラウドファンディングは、目標額の2160万円を超え、最終的には3374人の支援者から約4000万円の資金を調達することに成功した。従来、国内映画関連のクラウドファンディングでは、『ハーブ&ドロシー』が宣伝費として約1400万円調達した事例が有名だったが、それを大きく上回り、金額では国内の映画ジャンルにおいて歴代トップとなった。

2015年3月に募集開始したクラウドファンディングのプロジェクト画面。大手の「Makuake」を活用した
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―― 目標を超えて多額の資金が集まったわけですが、支援者はどのような人たちだったのでしょうか?

真木: 支援者のプロフィールは分からないから確かなことは言えませんが、こうのさんのファン、片渕監督のファンに加えて、感覚的にプラスアルファの支援があったなと。「この映画が見たい」「こういう映画を応援したい」という、日本映画ファンというか、一種の応援団という気がしました。

 大手映画会社が作る今の映画作品は、アニメに限らず方程式のようなものがあるでしょう。ベストセラーの原作があって、テレビのスポットCMもガンガン放映して、タイアップもやってという、エンターテインメントの送り手の方程式を、受け手としての映画ファンは享受せざるを得ない。でも「そればっかりかよ」と不満を持つ受け手もいた。そこに、クラウドファンディングでこの作品のプロジェクトが立ち上がったのを知り、「これって、もしかして自分たちが求めていた映画じゃないの?」と、映画ファンが“発見”して、応援団になってくれた。そこから、こうのさんのファン、片渕監督のファン、そして映画ファンが束になって、大手がバックに付いていない映画を世に送り出すための、いわば“市民運動”が始まったのではと思っています。

 こうしてクラウドファンディングで集めた応援団には、ほぼ週1回メールマガジンを送って、「ここまでできた」という経過報告を行ったこともポイントです。絵がここまでできたとか、色が付いたとか、スタッフルームの様子はこうだとか、写真も一杯貼り付けて、ものすごく丁寧に対応してきました。支援者はそれを見て、自分もスタッフの一員としてこの映画を一緒に作っているような感覚を味わえたと思います。

片渕監督が作り上げた絵コンテの数々。史実を踏まえて詳細に作り込まれている
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―― 片渕監督は作品を作る過程でミニイベントを開いてファンとコミュニケーションを図るタイプという話がありましたが、同様のことをメルマガでも行った。

真木: そうです。結局クラウドファンディングはきっかけに過ぎないんですよ。支援者と実行者がクラウドファンディングという手法で単につながっただけ。僕たちはそのつながりを大事にしようと考えたわけです。もちろん、その3000人以上の支援者たちが周りの10人にこの映画の良さを宣伝してくれれば、3万人以上に届くという計算もありましたけど。でも、それは支援者たちもわかっていることですし、むしろいわずもがなで積極的に宣伝してくれたと思います。

―― メルマガによって支援者と実行者の結びつきが強固になって、“市民運動”にさらに拍車がかかった。

真木: 昔、『この世界の片隅に』の舞台の一つである広島で、広島東洋カープが球団創設直後の資金不足を補うために、広島市民から寄付を募った「昭和の樽募金」によって存続が可能になりましたが、それと似たようなものです。広島カープが市民球団といわれるなら、この映画は、まさしく市民運動による「市民映画」。クラウドファンディングによって、自分たちが見たい映画を「発見」した支援者は、メルマガによってその思いが「確信」に変わり、市民映画としての原動力になったのだと思います。だから、ものすごい数のクチコミがSNSなどを通じて拡散していったわけです。

(後編に続く)

(文/高橋 学、写真/古立康三)