現在、世界人口の約30%が肥満になっていると言われるなかで、香川県の産学官プロジェクトが生み出した「希少糖」が世界の注目を集めている。ノンカロリーで、甘さが砂糖の7割程度といわれる希少糖の一つ、アルロース(日本ではプシコース)は、近年の研究で食後血糖値の上昇を抑制する作用や、内臓脂肪の蓄積を抑制する作用が確認されており、メタボの救世主になりうる注目素材。この“夢の甘味料”が今後、世界進出を果たし、20兆円産業といわれる世界の糖類業界の勢力図を一気に塗り替える可能性を秘めている。

 世界展開を担うのは、香川県に希少糖の生産工場を持つ松谷化学工業(兵庫・伊丹)と、希少糖の販売会社であるレアスウィート(香川・高松)、三菱商事が12月に設立した新会社、レアシュガーインターナショナルだ。希少糖のアルロースをカナダ、メキシコを含む北米、アジアのマーケットなどで販売していくという。

 出資比率は松谷化学が70%、レアスウィートが20%、三菱商事が10%。松谷化学は特定保健用食品(トクホ)でシェア30%を占める機能性素材「難消化性デキストリン(食物繊維)」を開発し、それを海外で販売してきた経験がある。

「設立は2年ほど前から検討してきました。難消化性デキストリンを海外展開しようとした時に、製造拠点を独自で造るのは非常にコストがかかるので、海外のメーカーに委託製造をお願いしました。ところが、これでかなり苦労しました。だから今回は、自分たちが直接製造開発に関われるよう、希少糖関連の特許を持っているレアスウィート、投資や海外のマーケティングで実績のある三菱商事と組んで、ジョイントベンチャーを立ち上げたのです」(松谷化学工業の研究所所長、大隈一裕氏)

 そもそも希少糖とは、自然界にごく稀にしか存在しない糖で、その数は50種類以上。90年代以降、香川大学の何森健特命教授が、希少糖の生産戦略の設計図「イズモリング」を作成し、研究レベルでの量産化に成功して機能性を解明する道筋をつけた。前述したように、アルロースには食後血糖値の上昇を抑制する作用などが確認されており、また、次世代の希少糖として期待される「アロース」には、血圧の上昇を抑える作用や、抗酸化作用などのアンチエイジング効果が認められている。こちらの実用化は先の話だが、医薬品や機能性食品、化粧品などの応用開発が進められている。

希少糖「アルロース」の純品(結晶)。海外では、遺伝子組み換えをした微生物が作った酵素を使うことが認められており、国内生産のおよそ10分の1のコストで、安価に大量に作ることができるという
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何森教授が生み出した「イズモリング」。50種類以上におよぶ希少糖を含んだ単糖の分子構造と、生成酵素の関連性を体系化したもの。これを利用することで、希少糖の効率的な生産が可能になった
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 希少糖のアルロースが実用化される原動力となったのが、松谷化学だった。03年4月に、同社の松谷英次郎会長が朝のニュースで何森教授の話を耳にしたのがきっかけで、香川の産学官プロジェクトに参加。その後、アルロースを大量生産して商品化することに成功した。

 一方で2010年には、松谷化学がアルロースやアロースなどの希少糖を含むシロップ「レアシュガースウィート」を世界に先駆けて開発。香川県にある番の州臨海工業団地内に工場を建設し、13年から生産を開始した。15年11月には「第6回 ものづくり日本大賞優秀賞」を受賞するなど、国内の食品業界で注目を集めている。

 そして松谷化学が、今後の主力商品として市場拡大に力を入れているのが、純品の「アルロース」だ。国内では「食後の血糖が気になる人」に向けた特定保健用食品(トクホ)として申請しており、最終段階の審査が行われているという。

希少糖含有シロップの「レアシュガースウィート」。甘みは砂糖の90%程度を確保しながらカロリーは砂糖よりも20%程度低い。この商品自体でも、抗肥満効果などが確認されている
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松谷化学工業が立ち上げた番の州工場。レアシュガースウィートの生産を担う
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