2017年12月18日、定食チェーン「大戸屋ごはん処(以下、大戸屋)」を展開する大戸屋ホールディングスが記者会見を行い、同社の窪田健一社長が今後の戦略について語った。

大戸屋ホールディングスの窪田健一社長
大戸屋ホールディングスの窪田健一社長

 大戸屋の人気メニューを集めたレシピブックの発売や期間限定メニューが発表されたが、なかでも注目は業務効率化に向けたある施策だ。「2018年中に、直営全店の客席にオーダー用のタブレット端末を設置する予定。一部店舗にはセルフレジも導入する」(窪田社長)という。大戸屋はオフィス街や住宅街などに全国展開しており、一人客でも家族でも使いやすい、ファミリーレストラン的位置付けの定食店だ。人気メニューである「チキンかあさん煮定食」に代表されるように、家庭料理のような手作りの味が支持されてきた。だが、注文や会計をとるフロアスタッフがいないとやや温かみにかけるような気がする。

オーダー用タブレット端末で店員を呼ぶことなくテーブルから料理を注文できる
オーダー用タブレット端末で店員を呼ぶことなくテーブルから料理を注文できる
セルフレジは新丸の内センタービル店にはすでに設置済み。今後は直営店の一部に導入予定だという
セルフレジは新丸の内センタービル店にはすでに設置済み。今後は直営店の一部に導入予定だという

従業員不足を改善するために導入

 業務を効率化する背景には、飲食業界全体が抱える人手不足という問題があった。同社では3年ほど前から従業員が集まりにくい状態が続いており、「現場にも疲れが出てきた」と窪田社長は話す。店舗を運営するには調理スタッフとフロアスタッフが必要だが、大戸屋は全てのメニューを店内で調理しているため、まずは調理スタッフの確保が重要。「キッチンは効率化できない」(窪田社長)ことから、フロアの業務改善に着手。一部の店舗でオーダー用のタブレット端末、客の順番受付や呼び出しを管理するアプリを試験導入したところ、「オーダー用端末は業務改善につながっていると感じた」と窪田社長は説明する。

 だが、注文や会計という手順をカットすれば、フロアスタッフの業務は料理提供だけになってしまう。客へのホスピタリティーをどうやって示せばよいか。そこで同社が考えたのが、オープンキッチンの導入だった。「シェアー・リビング・キッチン」をうたうこの施策について、窪田社長は「自宅で母親が料理をしている姿を見ながらご飯の時間を待つワクワク感や幸福感を再現したい」と導入の狙いを語る。

 
新丸の内センタービルディング店のオープンキッチン。オーダーから完成まで一連の工程が見られる。オープンキッチン化に伴い、テーブルよりもカウンター席の割合を増やしたという
新丸の内センタービルディング店のオープンキッチン。オーダーから完成まで一連の工程が見られる。オープンキッチン化に伴い、テーブルよりもカウンター席の割合を増やしたという

 オープンキッチンはすでに新丸の内センタービルディング店で導入されている。大戸屋の通常の店舗では調理場は別室になっているが、フロアと同じ空間に厨房を設けることで、仕込みや調理、盛りつけなど一連の作業が見える構成だ。2018年中に新規・改装店舗を含め、約10店舗を全国のオフィス街を中心に展開していくという。また、大戸屋のフランチャイズ店では200店舗を目標に、徐々にオープンキッチンに切り替えていくという。

窪田社長はオープンキッチンについて「個食でも大勢で食べている楽しさが味わえる」と説明する
窪田社長はオープンキッチンについて「個食でも大勢で食べている楽しさが味わえる」と説明する

値上げよりも業務改善を重視

 また、人員不足だけでなく、人件費の値上がりも飲食業界全体が抱える問題だ。仕入れ価格の高騰も続いている。窪田社長は商品価格について「いずれは値上げせざるを得ない」と話す。だが、業務を効率化して人件費を削減することで、当面は価格に転嫁しない方針だ。まもなく年末年始だが、「年末年始は特に従業員が足りず、時給を上乗せして対応する店舗もあった。高い時給を払って営業するよりも休業したほうがいい」(窪田社長)と考え、2017年の大みそかと2018年の元日は直営の70~80店舗を休業することを決めたという。

2018年1月30日~3月15日限定で提供する「せりと鴨の出汁鍋定食」。鴨の臭みはなく、あっさりした味わい
2018年1月30日~3月15日限定で提供する「せりと鴨の出汁鍋定食」。鴨の臭みはなく、あっさりした味わい

(文/吉成早紀=アバンギャルド)

この記事をいいね!する