ここ何年か大きな流行がなかった鍋料理。だが、2017年は「チーズタッカルビ」が大ブレーク。タッカルビは鶏モモ肉と野菜を甘辛いタレで煮て食べる韓国の鍋料理で、チーズタッカルビはそれをアレンジしたメニューだ。タレに絡まりながら溶けるチーズの動画が多数SNSにアップされて話題になったが、「インスタ映え」するだけでなく、動きや変化があって「動画映え」する点が受けたということだろう。
2018年はこの「動画映え鍋」が大きなトレンドとなりそうだ。そこで、今後人気を集めそうな鍋を3点紹介し、動画撮影時のポイントも解説する。
割り下の代わりにわたあめ!? 「すき焼きカルビ」(牛角)
全国で600店舗以上を展開している「牛角」にも動画映え鍋は存在する。すき焼き用の肉の上にこんもりとわたあめをのせた「わたあめすき焼きカルビ」だ。もともとは2015年3月から4月までの期間限定で販売したが、「肉の上にのせたわたあめの変化が、まるでイリュージョンのよう」とSNSで話題になったため、期間終了後に定番メニューとして採用したという。
焼き肉の焼き網の上にフワフワのわたあめがのっているビジュアルは、それだけでもSNS映えしそうだ。火にかけて30秒ほどたち、鉄板が熱くなると、わたあめの周囲が少しずつ溶けてくる。スタッフが「割り下をかけます」と声をかけたら、撮影開始の合図だ。わたあめが瞬時に溶けて肉に絡まるところが撮影できる。チャンスは一瞬だが、スタッフが声をかけてくれるのでうっかり見逃す心配がない。今回の取材では、撮影の難易度が最も低い動画映え鍋だった。
わたあめが溶けきったらそのまま焼き続け、生卵に絡めて食べる。わたあめは割り下に入れる砂糖の代わりになっているという。すき焼きのタレ入りの鉄板に残った生卵を加えて熱し、別注文した白飯にかければ「わたあめ卵とじ丼」の完成。シメにももう一度、動画撮影のチャンスがあるのだ。とろりとした半熟のタイミングでご飯にかけるのが、動画映えのポイントだろう。
「すき焼きをどうしたらもっと楽しめるか」と考えたのがわたあめすき焼きカルビ開発のきっかけだったという。特に小さな子どものいる家族に人気で、「『子どもが食べたいと言うから』と来店する人や、『溶けるところをもう一度見たい』とおかわりする人もいる」と、レインズインターナショナル 牛角営業部の安田悠平氏は話す。
撮影までの待ち時間が楽しい 「甘酒香る海鮮ふわふわメレンゲ鍋」(十焼十鍋)
東京・飯田橋にある「十焼十鍋」は鍋と郷土料理の専門店。鍋と鉄板焼きメニューが約50種類ほどあり、夏でも鍋が食べられる。人気鍋メニューのひとつ「甘酒香る海鮮ふわふわメレンゲ鍋」はメレンゲにすり下ろした山芋を練り込んでのせた、日本料理の「薯蕷(じょうよ)蒸し」の鍋バージョンだ。汁が温まるにつれてメレンゲがむくむくと膨らみ、最終的には鍋をドーム状にこんもりとメレンゲが覆う形になる。かなりインパクトがある鍋だ。
つゆが温まるまでに数分から10分近くかかるが(季節により異なる)、膨らみ始めるとあっという間なので、見逃さないように注意が必要だ。筆者も待ち時間の長さについ油断してしまい、スタッフの声かけがなければあやうく見逃すところだった。メレンゲの表面が揺れて少しずつ動き始めたら、いつでも動画撮影できるように構えて待っていたほうがいいだろう。だが、「まだ?」「もういいかな?」と待っている間の緊張感もまた楽しい。一気にメレンゲが膨らむ様子は本当に動画向きで、盛り上がること間違いなしだ。
膨らみ切ったらメレンゲの一部を崩し、中のつゆで魚介や野菜をしゃぶしゃぶ風にする。このメレンゲを具とつゆに絡めて食べるのだが、山芋が入っているせいかすぐにしぼむこともなく、口に入れるまでふわふわのまま。食感は軟らかいはんぺんのようだ。メレンゲの奪い合いになるのは必至だろう。山芋が入っていることで膨らみ切っても噴きこぼれることなく形がキープできて、火にかけたまま最後までメレンゲを楽しめるのだという。
動画撮影チャンスは2回! 「すりおろし自然薯(じねんじょ)とろろ鍋」(裏神田 自然生村)
江戸時代には“山ウナギ”と呼ばれていたほど栄養豊富な自然薯(じねんじょ)。日本原産の野生種で、長イモや大和イモと違い、栽培できないため希少価値が高く、高価なことで知られている。その自然薯をほとんどのメニューに使用しているのが自然薯料理専門店「裏神田 自然生(じねんじょう)村」。なかでも人気は鍋にすりばち1杯分の自然薯とろろを投入する「すりおろし自然生とろろ鍋」だ。夏でも来店客の7割、冬はほとんどの人がこの鍋を注文するという。自然薯を使った料理の多くは自然薯の山掘り職人から教わったものだそうだが、鍋に投入するのは同店のオリジナルとのこと。「鍋に入れることで、自然薯に含まれるアクがうまみに変わる」(裏神田 自然生村の山本康司長老)そうだ。
とろろ鍋には「マグロ入り自家製つくね」「トロ豚とたっぷりみぞれ」「広島産カキとキノコづくし(季節限定)」などもあるが、山本長老のいち押しは「自然薯と最もよく合う」という「和牛のプリプリホルモンとろろ鍋」だ。ぷりぷりの小腸とたっぷりの野菜がほどよく煮えたころを見計らって、スタッフがすりばちから自然薯とろろを投入。鍋に吸い込まれるように大量のとろろが落ちていく様子は大迫力!
「頼んだ人の大半が撮影をする」(山本長老)ということでスタッフも慣れていて、撮影しやすいようにゆっくり流し込んでくれる。仮にこのときに動画撮影に失敗しても、セカンドチャンスがある。シメはとろろご飯と雑炊のどちらかを選べるが、雑炊を選ぶとすでにとろろで満杯の鍋に「追いとろろ」を投入してくれる。とろろご飯と雑炊のいいとこどりのようなこの雑炊は、どんなに満腹でもつるりと入ってしまうおいしさ。
最後に紹介したとろろ鍋のような“流し込み”スタイルの動画映え鍋は、流し込んだ最初の一瞬を逃さないのが迫力ある動画を撮るポイント。だが、スマートフォンではボタンを押してから動画撮影が始まるまでに1~2秒のタイムラグがある。そのため、流し始めと同時に動画ボタンを押すと最初の瞬間を逃してしまうこともあるので注意が必要だ。
また、動画ボタンを押してもカウンターが動くまでに1~2秒のタイムラグがあるため、「カウンターが動いていない」とあせってもう一度ボタンを押して撮影を止めてしまうという失敗パターンもある(筆者も経験済み)。これまで撮り始めの1秒を気にして動画撮影をしたことがなかったので気づかなかったが、「撮りたいシーンより数秒早めにスタート」が、動画映え鍋撮影のコツだろう。
(文/桑原恵美子)