「冷え性」といえば、女性の悩みのひとつとして知られていたが、最近は男性も冷えで悩んでいる人が増えているという。

 リンナイが首都圏の20~40代の男女400人を対象に行った調査によると、自身の体質が「冷え性」だと感じている人は男女全体の6割に上り、男性では約4割の人が冷え性だと自覚していることが分かった。

男性200人に調査した結果、約4割が冷え性だと自覚しているようだ(2017年1月、リンナイ調べ「冬場の冷えと暖房事情」から引用)
男性200人に調査した結果、約4割が冷え性だと自覚しているようだ(2017年1月、リンナイ調べ「冬場の冷えと暖房事情」から引用)
冷えていると感じる体の部位は85%が足先という結果が出た(2017年1月、リンナイ調べ「冬場の冷えと暖房事情」から引用)
冷えていると感じる体の部位は85%が足先という結果が出た(2017年1月、リンナイ調べ「冬場の冷えと暖房事情」から引用)

 また、男女ともに冷えを最も感じているのは足先だという。男性では約8割の人が足先の冷えに悩んでいるようだ。

 そこで手っ取り早く冷えを解消するために取り入れたいのが靴下。ただし、冷えを感じている人が必要としているのは、通常のものよりも厚手や温まる機能のあるもの。実は、数年前までは、アウトドア用の厚手の靴下はあったが、手軽に手に入る冷え対策の靴下はほとんどが女性用だった。

 「女性用にしか作っていなかった『まるでこたつソックス』を購入する男性が増え、男性用も作ってほしいという要望が多く寄せられた」(岡本 マーケティング戦略室広報の淺井有希氏)、「女性向けに発売した冷え対策の『つま先インナーソックス』のユーザーの約4割が男性だった」(桐灰化学 マーケティング部ブランド戦略課の山下直子氏)と、冷え対策靴下を出すメーカーには冷えに悩む男性の声が多く寄せられていたのだという。

 そこで各メーカーが男性用を発売したところ、予想以上に売れているのだ。現在では多くのメーカーが男性用の冷え対策靴下を発売している。今回はそのなかでもリピーターが多く、ヒットしている3つのメーカーの靴下が売れているワケを探った。

ツボを刺激して温める「まるでこたつソックス」

オカモトメディカル「靴下サプリ まるでこたつソックス」(税込み1944円)。ハイソックスタイプ、25~27cm対応、色はMグレーとブラックの2色展開
オカモトメディカル「靴下サプリ まるでこたつソックス」(税込み1944円)。ハイソックスタイプ、25~27cm対応、色はMグレーとブラックの2色展開

 靴下専業メーカーである岡本の医療機器ブランド「オカモトメディカル」が2015年から発売している「靴下サプリ」シリーズの1つ「まるでこたつソックス」は、もともと女性の冷え対策商品として展開しているものだった。

 まるでこたつソックスは、岡本が開発した編み方によって足首にあるツボ「三陰交」を刺激して温めるというもの。足首、手首、首は血液が集中して流れるポイントとされ、このポイントが冷えると体全体が冷えやすくなるといわれている。ここを温めることで冷えから守るという。さらに素材は、東レ、東洋紡、岡本の3社共同開発の特殊保温・発熱素材を使用していて、一般的な靴下よりも温かさを感じるのだという。

足首部分の編み方を変えている
足首部分の編み方を変えている

 「2015年から靴下サプリシリーズがスタートした。当初は女性用しか作っていなかったが、それを購入する男性もいて、男性用が欲しいという声が多く寄せられたことから2016年に男性用も発売することになった」と、岡本の淺井氏は話す。男性用といっても機能は女性用と同じだが、色はグレーとブラックの2色展開にした。発売したのは9月だったが、反響は予想以上に高く、当初の目標を上回る売り上げを達成したという。

 「男性ユーザーのメインは40代だが、足もとの冷えに悩んでいる男性は若い人にも多いようで、最近は若い男性にもユーザーが増えている。特に美意識の高い男子が増えている今の流行に合ったのかもしれない」(淺井氏)

 まるでこたつソックスは厚手で、足首にあるツボの三陰交の周囲だけ編み方を変えている。「仕事用にはくというよりも、家でリラックスしているときに使うために開発されている。男性も家ではいている人が多い」(淺井氏)

岡本 マーケティング戦略室広報の淺井有希氏。手前左側に置かれているのが「まるでこたつソックス」。しっかりとした厚みがある
岡本 マーケティング戦略室広報の淺井有希氏。手前左側に置かれているのが「まるでこたつソックス」。しっかりとした厚みがある

 仕事から帰ってから、または休日の寒い日にはきたいという人に適した靴下だ。面白いのは、極寒地方よりも東京や関西地域で売れているということ。「暖房設備がしっかりしている地域では温か過ぎるようだ」(淺井氏)

魔法瓶のような保温効果「足の冷えない不思議なくつ下」

桐灰化学「足の冷えない不思議なくつ下」(レギュラーソックス、約5mm厚手パイル地、税込み1728円)。フリーサイズ(ブラック)
桐灰化学「足の冷えない不思議なくつ下」(レギュラーソックス、約5mm厚手パイル地、税込み1728円)。フリーサイズ(ブラック)

 2005年に発売された桐灰化学の「足の冷えない不思議なくつ下」。2012年に新たに開発した「断熱エアヒート繊維」を用いてリニューアル後、ハイソックスやレギュラーソックス、クルーソックスなどのアイテムを豊富にそろえていることから、さまざまなシーンで使えると人気がある。

 この靴下の特徴は、魔法瓶のように保温効果が持続すること。断熱エアヒート繊維とは、繊維1本1本の中心に穴が開いていて、そこに空気を含むことで、冷気をカットして断熱。魔法瓶のように熱を逃がさずに高い保温力が持続するというものだ。また、2層構造になっていて、表生地は水分を吸収して放出する繊維が使われ、内側に断熱エアヒート繊維を使用。保温による湿気や汗を外に放出するので、肌側はサラサラの状態が保たれるという。

一般的な繊維の断面(写真左)と断熱エアヒート繊維の断面(写真右)
一般的な繊維の断面(写真左)と断熱エアヒート繊維の断面(写真右)

 「防寒するだけではなく、自分の体温を逃がさなくする発想の靴下。繊維1本1本に穴を開ける技術は難しく、また、空洞を大きくするほどに保温効果が上がるので、高い効果を出すためにもなるべく大きめの中空にするのに苦労した。完成までに2年ほどかかっている」と、桐灰化学の山下氏は話す。

 足の冷えない不思議なくつ下は当初から男性用も発売していた。しかも、レギュラータイプ、クルーソックス、ハイソックスなど13種類もある。価格は2000円前後と高めなのだが、名前のインパクトと種類の多さで注目されたという。

 現在の売れ筋は、レギュラーソックス厚手(5mmパイル地)とハイソックス厚手(5mmパイル地)タイプ。また、女性のパンプスの中に履くようにと開発したつま先インナーソックスが意外にも男性に人気だという。

 「パッケージも女性が手に取りやすいようにイラストを入れたりしたが、ユーザーの約4割が男性だということが分かった。しかも、30~40代が多かった。目立たずにこっそりと保温できるので、男性も仕事中に使っているのだと思う」(山下氏)

桐灰化学「足の冷えない不思議なくつ下 つま先インナーソックス」(税込み573円)、フリーサイズ、色はブラック
桐灰化学「足の冷えない不思議なくつ下 つま先インナーソックス」(税込み573円)、フリーサイズ、色はブラック

 男性ユーザーは40~50代の人が多く、寝る前に履いて就寝する人がほとんどなのだそうだ。「この靴下は魔法瓶のような保温力があるので、お風呂上がりなど、足元が温かいときにはくと最も効果を発揮する」(山下氏)。反対に外から帰ってきて足が冷え切った状態でこの靴下をはいても効果は発揮されにくいそうだ。

 ハイソックスからつま先インナーソックスまで長さが選べ、約5mmの厚手タイプのほかに、約1mmの超薄手タイプもあるので、シーンによって使い分けられるのが男性にも受けているようだ。

きっかけは居酒屋。冷凍庫でモニタリングした「ポカポカソックス」

ワシオ「ポカポカソックス」(税込み2160円)。サイズは22~24cm、25~27cm、色はチャコールグレー、ダークグレー、ブラック、ワインレッド、ブラウンの5色
ワシオ「ポカポカソックス」(税込み2160円)。サイズは22~24cm、25~27cm、色はチャコールグレー、ダークグレー、ブラック、ワインレッド、ブラウンの5色

 冒険家の植村直己氏が南極大陸探検の際に使用していたことで知られるワシオの靴下。知る人ぞ知る暖か靴下の老舗だが、そこで、ある居酒屋の店主のひと言から生まれたのが、「ポカポカソックス」だ。

 「開発者の行きつけの居酒屋の店主がどんな靴下をはいても冷えが解消しないというので、開発者が『世界一暖かい靴下を作る』と約束したのがポカポカソックスの始まり」とワシオの担当者は話す。居酒屋の調理場はコンクリートの床にスノコ敷き、冷蔵庫と冷凍庫を頻繁に開閉するので、室内にもかかわらず冬場の気温は5~10度で、その状態の中で毎日8~9時間も立っているのだという。「厳しい環境のなかで冷えを解消するには、データを取り、裏づけがしっかりしていないと納得のいく商品はできない」と開発者がこだわり、日常で一番冷えると考えられる冷凍倉庫でのモニタリングを実施して開発を進めたのだそうだ。

 そして完成したのが、部位によって素材を変えて一気に編み上げる方法だ。冷えを感じやすいつま先やアキレス腱、くるぶし部分には吸湿発熱繊維で集中的に保温し、その繊維が直接肌に触れない特殊編みにした。それ以外の場所は断熱効果の高い非吸湿性繊維を使用。体温で暖まった空気層を起毛がしっかりと蓄え、外からの冷気を遮断するという。特許を取得した独自の編み方だ。

ポカポカソックスの暖かさの仕組み
ポカポカソックスの暖かさの仕組み
濃い色部分が断熱効果の高い非吸湿性繊維、つま先やアキレス腱、くるぶし部分には吸湿発熱繊維が使われている
濃い色部分が断熱効果の高い非吸湿性繊維、つま先やアキレス腱、くるぶし部分には吸湿発熱繊維が使われている

 「靴下の生地は住宅の二重窓と同じような性質。間の空気をいかにたくさん含ませられるかが、防寒・保温効果の決め手になるので、厚みのあるものにした。また、表面と空気層、肌面の3層構造にしたので、編み終えた後にそれぞれに加工処理を施している」(ワシオ担当者)

裏側を見るとクッション性の高さが一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ
裏側を見るとクッション性の高さが一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ

 ポカポカソックスは長い開発期間を経て約20年前に発売。リピーターも多く、累計15万足(2017年12月現在)も売れているロングセラー商品だ。そのうち約4割が男性で年齢も幅広い。釣りやバイクでのツーリングを趣味にしている男性にも人気があるようだ。ただし、クッション性が高く厚みがあるので、外に出かけるときにはゆったりめの靴(通常より1~2サイズ大きめ)が必要かもしれない。

(文/広瀬敬代)

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