2017年12月初旬、それまで一般には無名だった女性アイドルグループがミュージックステーション(以下、Mステ。テレビ朝日系列)に出演して話題となった。アイドルグループの名前は「BiSH(ビッシュ)」。その名の由来は「Brand-new idol SHiT(新生クソアイドル)」である。つい先日までは、いわゆる「地下アイドル(ライブアイドル)」と呼ばれていたアイドルだ。なぜ、そのように無名なアイドルが、一般の視聴者が観る地上波のゴールデンタイムの音楽番組に大抜擢されたのか? その背景には、停滞するアイドル界をブレークスルーしようとする本質的な流れがあった。

本格的な制作陣の参入

 BiSHのような無名なライブアイドルが、ゴールデンタイムの地上波音楽番組に出るようになったのは、時代の最先端を行く女性アイドルが、その魅力にルックスだけではなく音楽性を加えるようになってきたことが理由といえる。ここ2~3年でアイドル界にはこうした本格的な「楽曲派」アイドルが台頭しており、今年に入ってその傾向がますます顕著になってきた。もはや、そうしたアイドルが主流になっているのが、現在のアイドルシーンといえる。

 これまでのアイドル曲の制作については、言ってしまえば、先進のアーティストの“模倣”に近いような曲作りが多かった。しかしここに来て、過去にヒットを飛ばしたり、音楽界で話題になったりした実力派の制作陣が続々とアイドルの楽曲作りに関与し始めている。また、コアなファンもステレオタイプないわゆる「アイドル曲」に飽き始めており、ステージ上のダンスなどのアクトも含めて、よりアーティスティックなパフォーマンスを求めるようになってきた。

 冒頭のBiSHは、その楽曲派アイドルの1グループといえる。その楽曲ジャンルは、いわゆる「アイドルらしい曲」ではなく、パンクロックと呼ばれるロックカテゴリーの中でもかなり過激な種類の楽曲である。しかし一方で、メンバーの見た目やトークにはアイドルらしい所作が目立つ。それがいまや、ロックファンのみならず一般人をも巻き込んで、大きなうねりを作ろうとしている。

楽曲派アイドルのBiSH。写真は@JAM×ナタリーEXPO2016のステージ
楽曲派アイドルのBiSH。写真は@JAM×ナタリーEXPO2016のステージ

幅広い楽曲を取り込み始めた

 こうした流れの先鞭をつけたのは、かわいらしいルックス・声質と対照的に過激な楽曲をアイドル界に持ち込んだ2010年結成のBABYMETALと言っていいだろう。ヘヴィメタルと呼ばれる英国で発展した激しい曲調のロックと、アイドルを融合させた異端さで、海外を含め、今もなお絶大な人気を誇っている。このBABYMETAL以降、さまざまな分野の楽曲を積極的に取り込むアイドルが現れてきた。それも安易なマネゴトではなく、本格的な制作陣の下で。

 ロック分野では、過去に日経トレンディネットに登場してもらった大阪☆春夏秋冬(大阪☆春夏秋冬 実力派アイドル「大阪」へのこだわり)も楽曲派グループの1つとして挙げられる。ダンススクールを母体に持つ所属事務所が育てた、ボーカル&ダンスユニットとして攻撃的なロックを展開してアーティストばりの活躍を見せている。2015年にTOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)で「見つかったアイドル」として注目を浴び、今年に入ってからメジャーデビュー(エイベックス)や相次ぐシングル曲のリリースと活躍が目覚ましい。

大阪☆春夏秋冬。「カタヤブリ」をテーマにしたダンス&ボーカルアイドルグループ。写真は2017年10月に発売した「Travelin'Travelin'」
大阪☆春夏秋冬。「カタヤブリ」をテーマにしたダンス&ボーカルアイドルグループ。写真は2017年10月に発売した「Travelin'Travelin'」

 また、去年から今年にかけて、楽曲派の代表として異色の活躍を見せたのはsora tob sakana。聴いた誰もがアイドル曲とは信じられない技巧派の曲を引っ提げて現れ、今年に入ってますますその人気が上昇している。音楽プロデューサーにオルタナティブロックバンド「ハイスイノナサ」のメンバーである照井順政を迎え、特に音楽性を重視したパフォーマンスを特徴としている。そのかわいらしい容姿や歌い方、ダンスとは対照的に、最先端の曲を展開することで新たなファン層を開拓中である。

sora tob sakana。ポストロック、エレクトロニカを基調とする楽曲は今までのアイドルにない斬新な選曲。「楽曲派」の代表格といえる。写真はアイドル横丁夏まつり!!~2017~のステージ
sora tob sakana。ポストロック、エレクトロニカを基調とする楽曲は今までのアイドルにない斬新な選曲。「楽曲派」の代表格といえる。写真はアイドル横丁夏まつり!!~2017~のステージ

 一方、ファンクなどのブラックミュージックを持ち歌として活動しているフィロソフィーのダンスは、ステージパフォーマンスやグラビアへの展開など活動自体はアイドルそのものだが、80~90年代のソウルミュージックを愛した世代から若者まで広いファン層を取り込み、ノリの良い楽曲で人気を博している。氣志團や相対性理論などをプロデュースする加茂啓太郎が初めて手掛けたアイドルグループである。

 先の大阪☆春夏秋冬に続き、今年のTIF2017で「見つかった」と言われたのがTask have Funである。2016年に結成されたばかりの3人の新生ユニットだが、5月に発表した新曲「3WD」で、それまでとは大きく異なる激しいビートの曲と斬新なミュージックビデオで一気に人気を集め、この夏の大型フェスで注目を浴びたアイドルグループだ。夏フェスの1つ@JAM EXPO 2017では、アイドル注目度ランキングで総合トップを獲得している。

Task have Fun。今年の夏フェスで「見つかった」と呼ばれ、人気急上昇中の3人アイドルグループ。新曲「3WD」がスマッシュヒット。写真はTIF2017のステージ
Task have Fun。今年の夏フェスで「見つかった」と呼ばれ、人気急上昇中の3人アイドルグループ。新曲「3WD」がスマッシュヒット。写真はTIF2017のステージ

 そのほか、冒頭のBiSHの派生元グループのメンバーを起用したMaison book girlや、オルタナティブロックをベースに展開するヤなことそっとミュート、ヲルタナティヴ、@JAM×ナタリー EXPO 2016で歌唱力の高さをうたい文句に選抜された「NATASHA」など、楽曲派の系譜はここに来て増殖する一方である。

Maison book girl。音楽プロデューサーのサクライケンタが、元BiSのメンバーを中心に手掛けた音楽性の強い4人組アイドルグループ
Maison book girl。音楽プロデューサーのサクライケンタが、元BiSのメンバーを中心に手掛けた音楽性の強い4人組アイドルグループ
NATASHA。2016年の@JAM×ナタリーEXPO 2016で、アイドルグループのボーカルを集めて結成されたユニット。「超攻撃的」なロックを主軸に展開する。写真はTIF2017のステージ
NATASHA。2016年の@JAM×ナタリーEXPO 2016で、アイドルグループのボーカルを集めて結成されたユニット。「超攻撃的」なロックを主軸に展開する。写真はTIF2017のステージ

アイドルを「見つける」フェス、メディア

 こうしたアイドルコンテンツの傾向に合わせて、「TOKYO IDOL FESTIVAL」(TIF)といった大型アイドルフェスやテレビ番組も様変わりし始めた。具体的には、それぞれが「次世代アイドルを見つける」目的に向かい始めたことである。楽曲派の台頭によって、より一般にも認知されやすいアイドルが相次いで現れたため、新規ファンの取り込みに苦労しているアイドル界は、ここに活路を見いだすかたちになった。

 先に紹介した大阪☆春夏秋冬は、2015年のTIFでアイドルファンに「見つかった」。さらに2017年は、同じく楽曲派アイドルで紹介したTask have Funが「見つかった」といわれている。このように、夏フェスが単に「見て楽しむ」イベントから、ファンを巻き込んで「アイドルを発見する」場に変わりつつある。そうであれば、その場をもっと新規アイドルの発見の場に利用できないかという考えから、オーディションイベントが活性化している。

 日本最大のアイドルイベントであるTIFは、2017年より「全国選抜LIVE」と「Road to TIF」という新企画を立ち上げた。全国選抜LIVEは、地方選抜を勝ち抜いてきたアイドルを最終的にTIFのステージに上げるイベント。また、Road to TIFは、ストリーミング配信アプリ「SHOWROOM」を使ったアイドルの勝ち抜きイベントである。さらに2018年のTIFに向けて、新たな企画「アザーレコメンドLIVE」がスタートした。こちらは、「アイドルの有識者」と呼ばれる審査員によって選抜を行っていく仕組みだ。

 こうしたアイドルのオーディションは、夏フェスだけではなく地上波テレビでも展開され始めた。2017年8月に放送が始まったテレビ朝日系列の深夜番組「ラストアイドル」がそれだ。こちらは、AKB48グループや乃木坂46、欅坂46などをプロデュースする秋元康が手掛けたオーディション番組である。選抜されたメンバーが最終的にメジャーデビューできるという、これも1つのアイドルを「見つける」ためのコンテンツといえる。

 こうした新たな取り組みは、現在のアイドル界が、ある意味、「頭打ち」状態になっていることに起因して活発化している。これらアイドルビジネスの全体的な動向については、続編で詳しく見てみたい。

(文/野崎勝弘=メディアリード)

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