デモ走行するレーシングチーム「ABT・シェフラー・アウディ・スポーツ」の今期のマシン「ABTシェフラーFE02」
デモ走行するレーシングチーム「ABT・シェフラー・アウディ・スポーツ」の今期のマシン「ABTシェフラーFE02」

 2016年11月23日、東京駅からほど近い丸の内仲通りをフォーミュラEのレーシングカーが駆け抜けた。「エコロジー&モビリティ フェア in丸の内」のプログラムの一つとして行われたもの。主催者によれば、ブランドショップやカフェなどが立ち並ぶ丸の内仲通りの一部を閉鎖した特設コース周辺には、13時と16時の2回のデモ走行で合計約1万1000人が集まったという。

走行音が静かだけど走りは鋭いEVフォーミュラ

 フォーミュラEは、国際自動車連盟(FIA)が管轄する電気自動車によるフォーミュラカーレースで、2014年9月に1stシーズンが開幕。走行音が小さく排出ガスが出ないEVのメリットを生かし、サーキットではなく、市街地の公道を閉鎖した特設コースで全レースを行うのが特徴だ。この9月には第3シーズンが始まったばかりだ。

 今回、デモ走行を行ったのは、レーシングチーム「ABTシェフラー・アウディ・スポーツ」の今季のマシン「ABTシェフラーFE02」だ。ステアリングを握ったのはこのマシンでフォーミュラEを戦うルーカス・ディ・グラッシ選手。彼は1stシーズンから参戦しており、表彰回数は全選手最多という実力派ドライバー。昨シーズンは、総合2位を獲得しており、今季開幕戦の香港でも2位となるなど活躍が期待されている。

 デモ走行を終えたルーカス選手は、「デモランを通して、フォーミュラEがエキサイティングなレースであることを皆さんに感じていただけたと思う。このクリーンなEVレースは、東京のような先端技術の都市にふさわしい。近い将来、私がレースのために日本に戻ってこられるように願う」と、フォーミュラEの日本開催への期待を語った。

 確かに100%電気で走るフォーミュラカーなので、やはり走行音は静か。一方で0-100km/hが2.9秒という高出力モーターを搭載しているだけあり、加速は鋭い。空気を震わせるエンジン音の迫力はないが、走りはレーシングカーそのもので、多くの観客が魅了されていた。

「ABTシェフラーFE02」を運転するのはルーカス・ディ・グラッシ選手
「ABTシェフラーFE02」を運転するのはルーカス・ディ・グラッシ選手
ルーカス・ディ・グラッシ選手は「近い将来、私がレースのために日本に戻ってこられるように願う」と語った
ルーカス・ディ・グラッシ選手は「近い将来、私がレースのために日本に戻ってこられるように願う」と語った

5シーズン目からはメルセデス・ベンツとBMWが参戦

元F1ドライバーの片山右京氏(左から2人目)も登場し、モータージャーナリストの飯田裕子氏(右から2人目)と共にトークショーを行った
元F1ドライバーの片山右京氏(左から2人目)も登場し、モータージャーナリストの飯田裕子氏(右から2人目)と共にトークショーを行った

 フォーミュラEはまだ3シーズン目という新しいレースだが、EVのトップカテゴリーのレースといえる存在だ。各チームが参戦するハードルを下げるために、共通のマシンを使用するワンメイクレース体制でスタートしたが、段階的にマシン各部の変更を可能にし、最終的には各チームがオリジナルマシンで参戦することになると見られる。

 当初は自動車メーカーやサプライヤーのチームへの参戦はかなり限られていたが、シーズンを追うごとにメーカーなどの動きが活発化。今シーズンからはジャガーがパナソニックをパートナーに参戦しているし、デモ走行を行ったABTチームは、アウディとドイツの自動車サプライヤー「シェフラー」の協力を得てマシンを開発しており、次期シーズンからアウディのオフィシャルチームとして参戦することを発表している。さらに5シーズン目からは、メルセデス・ベンツとBMWも参戦するという。

デモ走行はフォーミュラEからの日本への熱烈なラブコール?

 モータースポーツは走る実験室と呼ばれるほど、自動車新技術開発で大きな役割を果たしてきたが、自動車の電動化が加速するなか、フォーミュラEにそうした役割が期待されているといえる。始まったばかりだけに、今後はマシンのカスタマイズが段階的できるようになったり、ワイヤレスチャージングなどの新たな技術投入の構想も出てきたりしており、EVレースが絶好のアピールの場となる可能性も高い。また積極的に参戦することで、各社が次世代EVの舞台で主役となるべく、ブランドのイメージの向上を狙っている部分も大きいだろう。

 現時点では日本の自動車メーカーは関与しておらず、日本でのフォーミュラE開催も未定だ。しかし昨年に続き、開催国ではない日本で今回のようなデモ走行が行われるのは、フォーミュラEからの日本への熱烈なラブコールと受け取ることもできる。

 日本にはEVやハイブリッドカー、そして燃料電池車を開発できる高い技術力を持つ自動 車メーカーやサプライヤーが存在している。パナソニックがジャガーへの協力を表明したことも、各社の背中を押す力になる。今後、多くの日本企業が参画するかどうかが、フォーミュラEの発展を占うポイントにもなりそうだ。

(文・写真/大音安弘)

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