TRENDY EXPO TOKYO 2015の2日目である11月21日、映像の進化、スーパーフード、地方発ヒットをテーマにパネルディスカッションが行われた。

映像の進化がエンターテインメントの可能性を広げる

 TRENDY EXPOの2日目のセッションは、「映像の進化が止まらない!」をテーマにした講演とパネルディスカッションからスタート。ネイキッドの代表、村松亮太郎氏に続き、ソニー・コンピュータエンタテインメントから吉田修平氏、DMM .futureworksから黒田貴泰氏、バンダイナムコエンターテインメントから玉置絢氏が登壇。それぞれの領域で進化を続ける映像の魅力が語られた。

プロジェクションマッピングという表現方法

 日本におけるプロジェクションマッピングは、2012年12月に東京駅で開催された「東京ミチテラス2012」での『TOKYO HIKARI VISION』がブレイクポイントだろう。観客が殺到したために上映中止になったことでさらなる話題を集めることになった。あれから3年、現在のプロジェクションマッピングはどのような進化を遂げたのか。その最前線で活躍する村松氏が、作品や進行中の取り組みとともに見解を語った。

ネイキッド 代表 村松亮太郎氏
ネイキッド 代表 村松亮太郎氏

 ネイキッドの制作実績には、建造物のほか立像などリアルな物体に投影したCG合成のような見え方のもの、三面マッピングを用いて仮想空間を作り出したものなどがある。プロジェクションマッピングを、技術を活用した映像表現と捉えることで、その可能性がさらに広がることに気づく。

 「映画には100年の歴史がある。その間、スクリーンの大小はあれども、映画にはフレームが存在した。プロジェクションマッピングの最大のおもしろさは、このフレームからの解放にあります」(村松氏)

 映像がフレームという枠から飛び出すということは、すべてのものが投影可能な場所になるということ。「枠のない世界に映像が出てくるとどうなるか?」という観点でプロジェクションマッピングという映像表現を考えると、白黒テレビしかなかった時代にカラーテレビが登場した以上の変革であり、その広がりは無限であることに気づかされる。

 特に建造物に投影する場合は、「建築、照明のような感覚を取り入れながら表現を追求することで、プロジェクションマッピングの魅力を最大限に引き出せるのではないでしょうか。映像だが映像ではない、そんな固定観念を覆すような感覚が必要です」と村松氏は語る。

プロジェクションマッピングの未来

 プロジェクションマッピングが転機を迎えたのは、2014年夏に行われた新江ノ島水族館でのナイトアクアリウムという企画という。普段は見られない夜の水族館に“体験型の神秘的な深海”を映像で作り出したのだ。リアルタイムで映像を生成、投影することで、廊下を曲がると足元に波が打ち寄せる仕掛けなどを用意し、さらにメインの大水槽では透過性のフィルムを使った大掛かりなプロジェクションマッピングを展開した。プロジェクションマッピングに企画と演出を持ち込み、新しいエンターテインメントを作り出す契機となった。

 「スペースではなく、人が介在し情景があるSCENE(シーン)を作ることで、トレンドが生まれるのではないか」(松村氏)

 プロジェクションマッピングという表現方法はエンターテインメントとしてブラッシュアップされ、人の心に残るシーンづくりに欠かせないものになりそうだ。

VR(ヴァーチャルリアリティ)の最前線

 エンターテインメント業界で注目を集める3人によるパネルディスカッションは、それぞれのプレゼンテーションから始まった。

 吉田氏は、2016年に発売が予定されているプレイステーションVRを紹介した。プレイステーションVRは、プレイステーション4につないで楽しむヴァーチャルリアリティシステムだ。

 「家庭用ゲーム機の歴史は30年ほどで、その間に変わらなかったことは、ゲームプレイヤーは常にテレビのスクリーンの前にいて、ゲームの世界はテレビ画面の後ろにあるということ。そのため、ゲームプレイヤーはゲームの世界をのぞき込むようにしてプレイしていました。ゲーム制作者の我々は、いかにしてその世界に没入してもらうかを考えてきました。このVRの出現によって、初めてゲームプレイヤーにゲームの世界に入ってもらうことができました。これは全く新しい体験です」(吉田氏)

ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ(SCE WWS)プレジデント 吉田修平氏
ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ(SCE WWS)プレジデント 吉田修平氏

 玉置氏からは、キャラクターコミュニケーションを題材としたVRコンテンツ『サマーレッスン』が紹介された。プレイヤーは、日本の女子高生やアメリカ人女性を教える家庭教師に扮してゲーム内に登場する。サマーレッスンは、コミュニケーションの仕方に特徴があり、ヘッドセットを使って普段のコミュニケーションと同じように、首を縦や横に振るだけで意思表示ができる。また、プレイヤーの視線が認識されるので「よそ見しないで」とか「距離が近すぎない?」などと指摘されることがあり、現実世界で起こりうるコミュニケーションが再現されている。

 「キャラクターをより魅力的に見せることが最も難しい問題でした」と玉置氏。そのため、本当にそこに人がいるような実在感を充実させることに取り組み、「背景のディテールにもこだわるり、さらに没入感を高めることに成功しました」(玉置氏)。

 「日本のコンテンツビジネスでは、キャラクターを好きになってもらうことが重要です。そして、そのキャラクターが、自分と同じ世界に存在してほしいというニーズがトレンドとして強くなっているため『サマーレッスン』が支持された」(玉置氏)とも。

バンダイナムコエンターテインメント CS事業部 第1プロダクション プロデューサー/ゲームディレクター 玉置 絢氏
バンダイナムコエンターテインメント CS事業部 第1プロダクション プロデューサー/ゲームディレクター 玉置 絢氏

 横浜駅西口にDMM VRシアターを作った黒田氏からは、VRの新しい領域としてホログラフィックが紹介された。DMM VRシアターは、ホログラムを使い存在しないキャラクター、人物、風景をステージ上に再現して、ライブパフォーマンスのような演出をする空間だ。ステージに特殊な機材を設置し映像を投影することで、そこにキャラクターがあたかも立っているように見えるという。

 VRシアターでは、リアルとヴァーチャル(ホログラムの)キャラクターがステージに共存できるのが特徴。

 「大きな仕掛けがステージ上にある」と考えるのがシンプルで、舞台演劇の分野では200年ほど前からあった仕掛けを、最新のテクノロジーを使って表現しています。ホログラムの存在感そのものが希薄だった以前のクオリティーから、そこにいるような存在感を実現するまでになった」(黒田氏)と語った。

DMM .futureworks 代表取締役 黒田貴泰氏
DMM .futureworks 代表取締役 黒田貴泰氏

技術がVRの表現に追いついた

 VRに関する興味・関心は世間にも広まりつつある。とはいえVRという言葉自体は以前からあり、現在のVRはどこまで進化したのだろうか?

 「映画やテレビ番組で取り上げられたことで、90年代はセンセーショナルにVRがはやった時代。しかし、当時のコンピューターのパフォーマンス、ディスプレイ技術の拙さが理由で根付くことはありませんでした。研究者や開発者の夢はありましたが、ビジネスとして回収のメドが立ちませんでした。それが、スマートフォンの普及と重なり、一般の方が手に取れる価格でVRを身近に感じられるようになったのが今です。さまざまな環境が整った今回のブームは本物で、体験するとその実力を実感できると思います」(吉田氏)

 「ゲームを作る立場としても、VRが技術により制限されてきた部分が大きいです。一番分かりやすいのは顔の表情の再現で、今のようなリアルな表情を作り出すのにかなりの時間がかかっています。VRの世界は、その中にいると錯覚することが大切。そのためには膨大な情報量が必要で、近年はそれを人工で作ることが容易になったと思います」(玉置氏)

 一方、DMM VRシアターについては、提携したい企業が増えているのだとか。

 「上映館を増やすという観点では、世界中からオファーが来ています。国内では、地域のインバウンドに結びつくなら、場所を提供したい、旅行の目的地の一つにしたいというお話をいただきます。もちろん、シネコンからのオファーもいただいています」(黒田氏)

 最後に来年、再来年の将来像を聞いた。

 「来年はプレイステーションVRをはじめさまざまなVRシステムが世に出てきます。コンテンツも一斉に作られ始め、ゲーム業界全体が活気に満ちた1年になると思います」(吉田氏)

 「VRシアターに関しては、3~5年の間に10~20館のフランチャイズ化を進めて行く予定です。今後はどのようなコンテンツで公演ができるのか、それがどういう価値を提供できるか考えておきたいと思います」(黒田氏)

 「VRの世界のキャラクターが『本当にいるとしか思えない』と考えられるようなトレンドになると思います。その結果、VRは次なるステージに行けるのではないかと思います」(玉置氏)

 プロジェクションマッピングにVR。映像による演出・表現は驚くべき勢いで進化を遂げ、さまざまな可能性が広がった。今後、映像の進化はどこまで行きつくのだろうか。

日本人が注目すべきスーパーフード、大麦が新たなビジネスを作りだす

 続いてはスーパーフードとして注目を集める大麦をテーマにしたパネルディスカッション。大妻女子大学家政学部食物学科教授で農学博士の青江誠一郎氏、帝人から妹脊和男氏、インテグレートから藤田康人氏が登壇した。そのパワーと可能性をひも解くと、そこに新たなマーケットがあることに気づかされた。

大麦がスーパーフードと呼ばれる理由

 冒頭、青江氏が大麦のパワーについて最新情報を交えて解説した。

 日本人の食物繊維の目標摂取量は成人男性で20g、女性は18g。しかし現在の平均摂取量は男性で14.5g、女性は14gと不足しがちで、特に若い世代で不足傾向が強くなっているのが現状。食物繊維の摂取量が減少した理由は、穀物の摂取量の減少があると考えられている。つまり、穀物の摂取量を増やせば、食物繊維の摂取量も増えるということになる。

 穀物のなかで、取りにくい水溶性の食物繊維が多く含まれているのが大麦だ。大麦に含まれる水溶性の食物繊維の正体はβ-グルカンで、水に溶かすとトロリとした質感になるという。腸の中で糖質の吸収を抑えたり、腸を刺激したりするなど、さまざまな働きが期待できる。また大麦の食物繊維は、外側の部分でなく中の胚乳にも含まれているため、摂取しやすいのが特徴だ。

 「日本が大麦の機能に注目したのは、世界よりやや遅かったのです。海外では既に機能性食品として、大麦に含まれるβ-グルカンの表示が進んでおり、広く認知されています。日本でも大麦由来のβ-グルカンの働きとして、血中コレステロールの正常化、食後の血糖値の上昇抑制などの作用があることが分かってきた。さらに、大麦を主食として食べ続けると、内臓脂肪が減少する効果もあるようです」(青江氏)

大妻女子大学家政学部食物学科 教授 農学博士 青江誠一郎氏
大妻女子大学家政学部食物学科 教授 農学博士 青江誠一郎氏

 さらに大麦のある品種の中に、β-グルカンに加えてレジスタントスターチを多く含むBARLEY max(バーリーマックス)という品種がオーストラリアで開発された。レジスタントスターチは、腸の中で緩やかに発酵するのが特徴で、腸の奥まで栄養を届けることができる。大腸と全身機能がリンクしていることは研究から分かっているので、腸の奥の有用菌に栄養を届けられるBARLEY maxへの注目が高まっているという。

 「未開の領域が多い腸内環境の研究ですが、腸内細菌への注目は高まる一方です。腸内バランスの乱れによる健康・美肌トラブルに対して、BARLEY maxが改善できるのではないかと考えています」(妹脊氏)

帝人 技術特別参与、新事業推進本部長補佐 兼 提携推進部長 妹脊和男氏
帝人 技術特別参与、新事業推進本部長補佐 兼 提携推進部長 妹脊和男氏

それぞれの観点から評価する大麦の有用性

 後半は、健康食品ブームの仕掛け人・藤田氏が加わり、パネルディスカッションが繰り広げられた。スーパーフードはアメリカで10年ほど前から広がり始め、アサイーやココナッツオイルなどが日本にも広まってきた。その中でも、スーパーフードの“King of Kings”が大麦という。では、なぜ今になってスーパーフードがこれほど話題になったのか。

 「スーパーフードのトレンドはアメリカが発信源。日本人は以前から3食栄養バランスのいい食事をすることを心がけてきたが、アメリカは食事で栄養素を取るというよりは、サプリメントで補う方法を選んできた傾向がある。そんな食生活を続けてきたアメリカも、日本のように食事のなかで栄養素を取るよう変化しました。朝食でアサイーやチアシードを取るようになってきたのが、このブームの発端ではないでしょうか」(藤田氏)

 日本では1955年には、250万トンもの食用大麦が生産されていたが、65年ごろから急減し始めて、現在では3万トンを割り込む量になってしまっている。それに伴い、糖尿病や大腸がんが急増した。穀物から食物繊維を取ると、国民病(糖尿病)のリスクを下げる効果がある。コレステロール値の低下など血管系の疾患リスクの低下、アディポネクチンのような長生きホルモンの分泌がその理由に挙げられる。

 数々の機能性食品を手がけてきた藤田氏は、BARLEY maxをどう見ているのか?

 「正式に発売される前からいろいろな食品メーカーが注目をしています。その理由は2つあると思います。1つは、最近はやりの糖質(炭水化物)抜きダイエットのトレンドです。本来、炭水化物は必要な栄養素ですが、ダイエットの鍵はインスリン。インスリンの出にくい低GI型の炭水化物があれば解決するということで、BARLEY maxに注目が集まっています。もう1つの理由として、腸の奥で活躍してくれるレジスタントスターチも多く含んでいるためです。BARLEY maxは日本の食トレンドを変える可能性を秘めていると思います」(藤田氏)

 これに対して、帝人が期待するBARLEY maxが果たす役割を妹脊氏が答えた。

 「我々が考えたのは腸の炎症です。炎症を抑えるような働きをして、健康に寄与するのがBARLEY maxだと考えています」(妹脊氏)

 最後に藤田氏にヒットメーカーとして、腸の働きというキーワードをどう考えているのか聞いた。

 「NHKで腸内フローラ特集をしたところ、各メディアがこぞって取り上げるようになりました。今はヨーグルトや乳酸菌でいい菌を取ろうという話で終わってしまっているので、今後正しいコンセプトが登場してくると思います。新しいコンセプトが出てくると、それがマーケットになると注目しています」(藤田氏)

 女性にとっては、腸の働きをケアするとお肌の調子まで変わってくることを実感できるということで、ますます注目が高まりそうだ。腸をキーワードに、大麦をスーパーフードの王様にしようとする流れに注目しておきたい。

志を高く持ち、現場で指揮を執る経営者とカリスマバイヤー

 TRENDY EXPOの最後を飾るセッションは、「これは売れる! ヒットを見抜く技術」。第1部のパネルディスカッションは、地方発のヒット商品を生み出すためのアイデアや取り組みがテーマ。ブンボの江副直樹氏、大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課から領家誠氏、マルサ斉藤ゴムから斉藤靖之氏が登壇。プロデューサー、行政、プレイヤーのそれぞれの立場から取り組みを基に考え方を語り合った。

外部ブレーン、行政、プレイヤーの取り組み

 江副氏は九州を中心に地域活性のためのプロデュースを行っている。雇用創出が目的だが、その前段の商売繁盛が必須であるので、各地で地元の食材を用いた商品開発を進めてきた。3年で30アイテムほどの開発に携わったという。

 「商品はいいのに、パッケージのセンスがなく魅力を伝えられていないもの。味噌やジャムなど全国各地で作られているため、個性に欠けるもの」が多いため、外部からのアドバイスのもたらす効果は大きいとのこと。また「ローカルでの失敗の多くは値付けに原因がある」と江副氏は指摘する。原価割れしていることも少なくないという。

 商品を作った後の情報発信も非常に重要だ。「良いものをしっかり作り、商品と情報をデザインし、適切な情報を流せば、今は地方でも見つけてもらえる環境がある」と江副氏は確信を持って語る。そのためにパッケージデザインの重要度は高く、デザイナーがかかわることを必須条件と考えている。

 「どこで、誰が、どのように作ったか」というストーリーと適正価格、魅力的な情報があれば、地方発のヒット商品は生み出せるという。一連の取り組みを統括的にまとめあげることを総合デザインと捉え、その核になるコンセプトワークに注力しているのだ。

ブンボ 代表取締役 江副直樹氏
ブンボ 代表取締役 江副直樹氏

 次に行政の立場として領家氏が大阪府の取り組みを紹介。大阪はBtoBの製造業中心の日本一のモノづくりの街で、行政としても地場産業の支援を続けてきた。その一方でBtoCの商品づくりを考える事業主も増えてきたため、「大阪ミュージアムショップ」という通販サイトを開設。3年間で104の事業主を発掘した。

 また、通販サイトで販売するために、専門家を講師に招いて「大阪通販道場」というノウハウを学ぶ場を設けた。成功事例として、靴下メーカーの技術を生かしたランニングや、自転車など用途が限定されたソックス、地元の食材を使った家族経営の和菓子店がネットを通じて業績を伸ばした。ヒット商品を生み出す経営者には共通点があると領家氏は言う。「圧倒的なコミュニケーション力です。そして、学んだことを素直に受け止め実践する行動力があります。失敗を他人のせいにすることなく反省し、改善することができる人です」と人間力の重要性を語る。

 現在は、東京ギフトショーへの出展を目指す「大阪商品計画」という取り組みを継続中だ。領家氏は、行政は事業そのものをブランド化するのではなく、やる気のある事業主のサポートに徹することが大事だという。大阪だけでなく、多くの自治体が地方創成としていろいろな取り組みをしているが、それを成功させるためにはマクロとミクロの視点が必要。まずは、そこで生活している個人や企業一つひとつを元気にすることが先決とのこと。ミクロから立脚することで、継続性が生まれ、利益も出やすくなるという。

大阪府 商工労働部 中小企業支援室 経営支援課 課長 領家 誠氏
大阪府 商工労働部 中小企業支援室 経営支援課 課長 領家 誠氏

 プレイヤーとして登壇したのは、東京都墨田区にあるゴム風船メーカーの斉藤氏。墨田区はモノづくりの街で、製造業の企業が2800(ピーク時の3分の1以下)ある。さまざまな業種があり、ニット製造、金属加工、印刷業などが有名だが、いずれも家族経営のような小さな規模。斉藤氏のマルサ斉藤ゴムも同様に、従業員6名の小規模ながら、風船の製造、卸しを事業内容とする珍しい企業だ。日本には2社しかないという手作りの風船工場があり、タイのバンコクに組立工場がある。

 斉藤氏は2009年に社長就任。先代の体調不良による突然の社長交代だったため社長業の準備不足を痛感、翌2010年から墨田区が運営する「フロンティアすみだ塾」に入塾した。「企業の後継者を育成するプログラムでした。塾の課題をクリアしながら会社経営のノウハウを学び、同じような志を持った経営者との縦横のつながりができたことも財産の一つです」と振り返る。

 その後「一般社団法人ふうせん遊び協会」を創設、イベントプロデューサー業をはじめ、海外での販売も開始。その傍ら、地域イベントプロデューサー講座もスタートさせた。本業では、少子高齢化の流れを踏まえ、固定観念を覆した「大人が欲しがる風船」をテーマにデザイナーと組んだ風船づくりを進めるほか、海外への販路拡大、運動リハビリ用の風船など新たな価値を生み出す取り組みも進めている。

マルサ斉藤ゴム 代表取締役社長 斉藤靖之氏
マルサ斉藤ゴム 代表取締役社長 斉藤靖之氏

 やる気のある企業や経営者と、その商品を魅力あるものに磨き上げるブレーン、その取り組みを支援する行政と、各役割がうまく機能してヒットが生まれてゆくのだが、それぞれの視点についてここでもう一段掘り下げる質問が投げかけられた。

 大阪通販道場に地域の経営者を集め、モノづくりの力を引き出そうとした行政の視点はどこにあるのか。

 「先ず商品が磨かれる場が少ないと感じました。販路開拓支援は役所もしますが限定的です。1年を通して販路開拓ができるのは経営者だけなので、彼らにやる気になってもらうことが重要でした。経験もなく、何をしてよいのかすら分からない状況から、ノウハウを学びながら仲間もできる場として道場がぴったりなのです。学びの場とお披露目の場という共通体験ができる場を作ることで、自然と人のつながりもできると考えました」(領家氏)

 地域イベントのプロデュースもしている斉藤氏は、地域の人、地元の経営者のつながりをどのように活性化させようとしているのか。

 「単に地域を盛り上げようとすると従来のお祭りと一緒になってしまいます。私が思い描くイベントは、地域のやる気のある人と、外部の方でその地域を面白いと思ってくれる人が一緒になって盛り上げるのがベストなスタイルだと思っています」(斉藤氏)

 江副氏は地域発でヒット商品を作る仕組み作りについてこう語った。「どこに行ってもみなさん同じことを言います。『ここには何もない』と。外部スタッフが介入するメリットは客観性です。私は、宝は必ず足元にあると思っていて、磨いたかどうかだけだと思います。私の場合はクリエイティブという手法で磨きます。原石はどこにでもあり、その可能性はとても大きいと思います」。

 既にそこにあるものを見つめ、そこにどんなストーリーがあるのかを考える。外部の人の協力をもらってノウハウや新たな視点を得る。こういった活動があれば、地方からヒットが生まれるのだと締めくくって第一部は終了した。

心の琴線にふれる商品を開発

 第二部では、caramo(藤巻百貨店)から中村亮氏、コンタン(日本百貨店)から鈴木正晴氏、ナチュラルローソンから稲葉潤一氏と、注目を集めるカリスマバイヤーが登壇。自社のコンセプトにふさわしい商品を探し出す嗅覚、そして商品をより魅力的に広めるためのテクニックを伝えた。

 販売業態は異なるが、日本中のいいものを商品として開拓・販売する点は3社に共通する。日本百貨店の鈴木氏が、日本百貨店をオープンさせたのは5年前、食品だけを扱う日本百貨店しょくひんかん、本店の御徒町店など現在は7つの店舗を展開している。

 「小売の店舗としては後発です。店も物も飽和状態ではありましたが、それでも店を作りたいと思いました」と鈴木氏はいう。

 「造り手と使い手の出会いの場にする」それが店づくりのコンセプト。互いをよく知ったうえで、商品を購入してもらいたいと考えた。既存のしゃれた雑貨店のイメージとは一線を画し、「おもしろく、楽しく、日本の文化に触れてもらいたい」と鈴木氏。そこに売り手、自治体などサポーターも集い、みんなが出会う場所を目指している。雑貨店という側面をもちながら、ある日は店先で地元の神楽を踊る人がいたり、またある日はゆるキャラがいたり、また別の日は缶詰博士が解説しているという具合だ。

コンタン(日本百貨店)  代表取締役 鈴木正晴氏
コンタン(日本百貨店)  代表取締役 鈴木正晴氏

 藤巻百貨店の中村氏は、伊勢丹のカリスマバイヤーであった故藤巻幸雄氏と2012年5月にこのECサイトを立ち上げ、「eコマースにおいて、価格競争以外の魅力で勝負できるか?」という、常識を覆す発想からスタート。日本の良いものを世の中に広めるときに、価格は問題にならないはずと考えた。商品にまつわるストーリーと価値を伝える道を選択したのだ。

 サイトのトップページのデザインも個性的だ。ネット通販のサイトでありながら、商品名も金額も記載はない。「気になったものがあれば一歩踏み込んでほしい」そんな狙いが隠されている。メルマガとフェイスブックのマーケティングでファン作りを強化。商品紹介ページには作り手に必ず登場してもらい、掲載する写真は撮りおろし、原稿も書きおろしで商品の魅力を紹介している。

 商品コンセプトは「日本を感じられる」「ストーリーがあるもの」「元気になれる、幸せな気持ちになれるもの」。そしてオリジナル、限定、独占的な商品展開を得意としているのも特徴といえる。

caramo(藤巻百貨店) 代表取締役 中村 亮氏
caramo(藤巻百貨店) 代表取締役 中村 亮氏

 最後は、コンビニエンスストアにして「美」と「健康」をテーマに掲げるナチュラルローソンの稲葉氏。“ここにしかない商品”を売り、顧客イメージも一般的なコンビニとは異なるポジションを確立している。現在は、ナチュラルローソンと買収した成城石井が一緒にできることを模索中の段階という。

 商品のラインアップの基本は「どこにも売っていないものを用意」すること。ところが展示会や問屋から仕入れようとすると「どこにでもあるもの」になってしまうらしい。理由は全国のコンビニに毎日一定量の商品を提供する力があるメーカーは限られているからだ。東京で120店舗しかないナチュラルローソンの特色を生かし、生産量の少ない商品も買い付けている。

 本来利便性を最優先するコンビニにおいても「ご褒美感があって、心が満たされる買い物ができる」それが、ナチュラルローソンの身上だ。そして、おしゃれで健康を意識しつつ、数量限定、数量事前決定、期間限定という独自の魅力づくりを続けている。

ローソン 商品本部 ナチュラルローソン商品部 部長 稲葉潤一氏
ローソン 商品本部 ナチュラルローソン商品部 部長 稲葉潤一氏

 では、これら3社はどのようにして、魅力的な作り手を見つけているのだろうか? そしてその採用基準はどこにあるのか?

 鈴木氏は「会社を興した当初は仕入れに誰も協力してくれませんでした。そこで『道の駅』へ出かけ、買った商品を車の中で試食。いいなと思う商品があったら『今から行っていいですか?』と突撃していました。そんな地道なやり取りの繰り返しから人の輪がつながっていった印象です。紹介していただいたらすぐにコンタクトを取り、動くことを続けてきました。参考にならないと思いますが、商品採用の基準は人。作り手さんの人柄です。失敗も多いですが、信用できる人であれば改善すればよいことだと考えています」と苦労を振り返りながら思いを語る。

 中村氏は「“誰がこの商品を買うのか”“その人の何を満足させるか”が判断基準。ターゲットを研究していくと僕自身に行きついたので、僕が欲しいものというのからスタートしました」とペルソナ設定のイメージを語った。

 稲葉氏も商品開発には苦労があるという。「人と人とのつながりを大切にして、理解者を増やすことを大切にしています。まずはナチュラルローソンを知っていただき、酒の席を設けてじっくり向き合ってから、ようやく話が進みます」(稲葉氏)

 そんな苦労の末に発掘した地方の商品でヒットした事例を紹介してもらった。

 「生産者を主役にしたいので、基本オリジナル商品はあまり作りません。そんな中で群馬の畳屋さんと和歌山のレーザー加工職人を結びつけることで、井草のブックカバーが生まれ人気商品になっています」と、鈴木氏は人の出会いの場としての日本百貨店ならではのエピソードを紹介した。

 「オリジナルで作った印伝の商品も人気ですが、琉球ガラスのバースデーグラスはプレゼント需要もあり売れますね。出合ってから琉球ガラスの店をひたすら探し歩き、ようやく見つけ出した感がありました」(中村氏)

 「一番売れたのは、高知県のミレービスケットです。店頭に置くなり売れてしまう人気商品です。メーカーの社長がローソンオリジナルの商品も開発する力の入れようです」と話す稲葉氏は、コンビニスイーツの大ヒット商品「プレミアムロールケーキ」を開発した本人。その開発秘話も一部披露した。

 カリスマバイヤーならではの戦略やアイデア、そして熱意が数々のヒット商品を生み出してきた。それが今後、どのような展開を見せ、新たなヒット商品に結びくのか楽しみだ。

(文/近藤由美、写真/中村宏)

この記事をいいね!する