TRENDY EXPO TOKYO 2015の初日である11月20日、ウエアラブル、家電、ヒット分析&予測をテーマにセッションが開催された。いずれのセッションもほぼ満席で、参加者は真剣な表情でイノベーターの声に耳を傾けていた。

ウエアラブル機器のブレイクスルーが見えた!

 まずはウエアラブルのセッションから。登壇したのは、NTTドコモから西口孝広氏、ソニーから對馬哲平氏、Jawboneから岩崎顕悟氏。さまざまな業種からの参入が相次いでいるウエアラブル機器市場の将来性、課題、解決策について業種の垣根を越えて討論された。

 リストバンド型ウエアラブル機器・UP2、UP3の開発・提供をしているJawboneの岩崎氏は、現在の米国と日本の市場の違いについてこう切り出した。

AliphCom Inc. DBA Jawbone General Manager(日本代表)の岩崎顕悟氏
AliphCom Inc. DBA Jawbone General Manager(日本代表)の岩崎顕悟氏

 「現在、米国での販売数は約1000万台。購買層の男女比率でいうと、男性と女性は半々くらい、もしくは女性の方が若干購買数は上回っています。対して、日本での購買層は男性が約7割となっています」(岩崎氏)

 日本における男女間の差がこれほど出ている原因は、新しいものを取り入れるのは男性のほうが早い傾向にあるためという。つまり、アメリカで女性に受け入れられているというのは、市場が成熟している証。日本ではまだまだ市場が確立されていないということだ。では、なぜアメリカでは市場が確立しているのか? その鍵は医療市場にある。

 「2014年1月、アメリカでは通称オバマケアと呼ばれる国民皆保険制度が始まりましたが、国民の意識として、まだまだ病気を未然に防ぐという意識がとても高い。病気になると高額な治療費がかかるためです」(岩崎氏)

 アメリカでは健康を保つためであれば投資を惜しまない。それが、市場の確立につながっている。まだ日本の市場は成熟していないが、NTTドコモの西口氏は今後普及していく可能性はあるという。

NTTドコモ ライフサポートビジネス推進部 ヘルスケア事業推進 担当課長 西口孝広氏
NTTドコモ ライフサポートビジネス推進部 ヘルスケア事業推進 担当課長 西口孝広氏

 「日本での健康志向は年々高まっています。運動への関心や健康な食事など、病気への予防意識が高まっていると言えます。健康市場とウエアラブル機器市場が相互作用で活性化することを望んでいます」(西口氏)

 NTTドコモでは、着用するだけで生体情報を計測できるウエアラブル型機能素材を開発している。その名はhitoe(ヒトエ)。

 「hitoeのシャツには電極パッチがついています。体に密着していることで、心拍データをはじめとした体内データを収集することが可能です。バイタルデータを活用することで、運動や医療など、さまざまな分野への活用を視野に入れています」

 ソニーでは腕時計型ウエアラブル端末を開発している。こちらの名はwena(ウェナ)。

ソニー 新規事業創出部 wena事業準備室 統括課長 對馬哲平氏
ソニー 新規事業創出部 wena事業準備室 統括課長 對馬哲平氏

 「腕時計のバンド部分が本体のウエアラブル機器となります。ヘッド部分は取り外しが可能なので、好きなアナログ時計と組み合わせられる楽しさがあります。機能としては、電子マネー、着信やメール受信を伝える通知機能、活動量を把握できるログ機能の3つがあります」(對馬氏)

 この3点に絞った理由は、持ち物を減らしたいという理由だという。

 「今ではスマートフォンで通話も音楽を聴くこともゲームをすることもできるが、それに近い存在へとつなげていきたいと考えています」(對馬氏)

ウエアラブル機器の未来とは?

 西口氏は、hitoeがもたらす未来について、2つの大きな方向性を提示した。

 「まずは運動を軸に筋肉の動きをつかむ研究。例えば、ゴルフをするとき『余計な力を抜いて』と言われるとします。“余計な力”と言われても、いまいちピンとこない。でも、hitoeのデータを生かすことで、どの筋肉の力を抜いて、どの筋肉の力を使えばいいのかが可視化できるのです」(西口氏)

 それによってスポーツを別の角度から楽しむことができるようになる。そして運動とともに注力しているのが医療分野だという。

 「健康診断で心電図検査を受けますが、時間にして約10秒。こんな短い時間で不整脈を発見するには限界があり、潜在的な不整脈患者は相当な人数にのぼるといわれています。hitoeは常時身に着けることで自然にデータを収集できます。大病を未然に防ぐには、それなりのデータが必要で、医学的な見地からも世の中に役に立つウエアラブル機器だと確信しています」(西口氏)

 一方、wenaはクラウドファンディングで高い評価を受けており、受付開始2日で、プロダクト系で国内史上最高支援額を更新。最終的には目標額の10倍となる1億円以上の支援を受けることができた。人気を集めた理由を對馬氏はデジタルとアナログの共存にあるのではないかと推測する。

 「技術革新にはステップが必要で、世の中のすべてのツールがいきなりデジタルに移行するとは考えにくい。電子書籍と誌面が共存しているように、アナログのかっこよさとデジタルの利便性が市場に評価されたのだと考えています」(對馬氏)

 こうしたウエアラブル機器は、私たちの生活にどのような形で入り込んでくるのか、岩崎氏は2つの側面が考えられるという。

 「1つはID。あるコンビニでは、ポイントカードの有無を聞かれます。いわゆる個人情報の提示ですよね。あの機能をウエアラブル機器に入れることを検討しています。例えばクレジットカード機能ですね。すでにアメリカではシステムが完成しています」(岩崎氏)

 ほかにも、体内計測と連動し、部屋に入るとその人の体温を検知したうえでエアコンを最適な室温に調整してくれる機能などで、個人を特定してくれる存在にもなりうるという。

 「もう1つが遠隔治療。私の母が大阪に住んでいるのですが、母がUP2をつけていることで、食事や散歩の状況が遠くにいながら把握できます。何か異変があればこちらから連絡を取ることもできます。IoT(モノのインターネット)が叫ばれて久しいですが、もう間近に実用性が迫っていると言っていいでしょう」(岩崎氏)

ほぼ満員の会場は熱気に包まれた
ほぼ満員の会場は熱気に包まれた

ウエアラブル機器のブレイクスルーとは?

 ウエアラブル機器が普及するためには、関係者同士の密着感が鍵になると西口氏はいう。

 「例えば、血圧や体脂肪などのデータを医療従事者やフィットネスのコーチといったプロの方と一緒に活用することが重要です。NTTドコモはモバイルの会社です。スマートフォンと連動させて、専門の方々とのコミュニケーションの仕組みを作ります」

 モバイル通信網をどう生かすかもポイントになる。

 「モバイル通信を生業としている当社だからこそ、ノウハウも持ち合わせています。モジュール機器をウエアラブル機器に搭載するなど、安価に高機能を提供できる仕組みを作り上げたいですね」(西口氏)

 岩崎氏は、Jawboneでのブレイクスルーについて、ウエアラブル機器にSIMを搭載して、直接通信を可能にしたいと語る。

 「データを収集できても、高齢者や専門知識を持ち合わせていない素人にとっては、データを見ただけでは何も分からない。直接ネットワークにつながっていて、専門家がダイレクトに見て、レクチャーする。そういうデバイスやハードウエアづくりを積極的に推進していきます」

 冒頭で話題に上がった女性を取り込む秘策もあるという。

 「装着することでのベネフィットを提供したいですね。ダイエットにつながるとか、お肌のツヤが良くなるとか。女性の心をつかむマーケティングが必要です。業界全体で考えていく必要があると思います」(岩崎氏)

 ソニーでは女性市場をどのように考えているのか。

 「wenaの本質は持ち物を減らすことにあります。女性はスカートなどポケットのないファッションをすると、鞄のなかに物をすべて入れなくてはいけません。そうなると、カギや財布を取り出すとき、ゴソゴソと鞄を探る必要がある。この手間を省けるウエアラブル機器がwenaだと考えていますし、普及を促すためにはブランド力とデザイン性の追求も必要だと思います」(對馬氏)

 女性の支持層拡大など、日本の市場を開拓する余地が存在するウエアラブル機器市場。健康分野、IDとしての役割やセキュリティ分野など、私たちの生活にどう関わってくるかを、今後も楽しみに見ていきたい。

家電メーカーの新たなる挑戦が始まった

 続いてのセッションは、「家電を変えるイノベーションとは?」がテーマ。登壇したのは、パナソニックから古長亮二氏、ハイアール アジアから永井千絵氏、セレボから岩佐琢磨氏。デジタル家電や白物家電で、ヒット商品を生み出すために必要なイノベーションについて、熱い議論が交わされた。

製品づくりにおけるニーズの捉え方

 パネルディスカッションの冒頭、新たなヒットを生み出すためにはどのように消費者のニーズを捉えていくのかについて話し合われた。パナソニックがシニアの「目利き世代」向けに2014年から展開している家電シリーズ「Jコンセプト」が生まれた背景には、モノづくりに対する姿勢と、消費者ニーズの変化があったと古長氏は話す。

パナソニック アプライアンス社 日本地域コンシューマーマーケティング部門 コンシューマーマーケティング ジャパン本部 コミュニケーション部 プランニング課 担当課長 古長亮二氏
パナソニック アプライアンス社 日本地域コンシューマーマーケティング部門 コンシューマーマーケティング ジャパン本部 コミュニケーション部 プランニング課 担当課長 古長亮二氏

 「Jコンセプトに向けた取り組みがスタートした2011年、12年は、パナソニックにとって大変苦しい時期でした。日本のメーカーとして消費者の暮らしに寄り添ってきたつもりでしたが、『間違っていたのでは?』と自分たちのモノづくりの姿勢を見直すきっかけとなったのです。さらに生活経験が豊富でモノに対する意識が高く、住空間や食にもこだわりを持つ『目利き世代』の上質な暮らしを求めるニーズに対応した製品を生み出す必要性が議論されました」(古長氏)

 消費者の変化に合わせた新しい視点で製品づくりに取り組む必要性を感じ、購買力を持つ「目利き世代」に着目したパナソニック。とはいえ、「Jコンセプト」のスタンスは従来とは少し違う。ターゲットにとって必要な機能を磨き上げるモノづくりとなっているからだ。

 「多機能ではなく高機能であることを心がけています。Jコンセプトシリーズを生み出すために、私たちは3万人以上のお客様の声を聞き、約2年の月日をかけて商品開発をしました。「目利き世代」の方の多くは家電製品に対し、暮らしの質を高める本質的機能や使いやすさを求めています。掃除機は吸引力ではなく軽さを重視、冷蔵庫は主流である6ドアから使いやすさを重視した4ドアを採用するなど、お客様のニーズに合わせ、製品を一から徹底的に見直しました。自分たちの暮らしに役立つ高機能なもの、また使い勝手の良いものが欲しいという消費者ニーズに真摯に耳を傾け、その悩みごとを解決するというモノづくりの原点に戻ることで、ターゲットの方々の共感を得られたのだと思います」(古長氏)

セレボ 代表取締役CEO 岩佐琢磨氏
セレボ 代表取締役CEO 岩佐琢磨氏

 ニーズの捉え方は企業によって大きく異なる。セレボはあえて製品づくりにニーズを取り入れないというスタンスを取っているという。

 「大手メーカーは、(今ある製品からの)足し算引き算で考えることが多いと思いますが、当社はスタートアップ企業ということもあり、正直なところ消費者のニーズという言葉・観点はあまり考えていません。私たちが勝負するのはニッチな製品。世界中調べても、これまで見たことも聞いたこともない製品を作っています。なんだか面白そう、それだけです。私たちのようなスタートアップ企業は手堅く勝負してはいけない。それよりも、今ないものをつくり出すのが私たちのやり方。もっと言えば、マーケティングリサーチも行っていません。なんとなくいけそうだから作る。速いスピードでつくり、世に放ち、テストしてデータを取る。この繰り返しです」(岩佐氏)

ハイアール アジア アクア コールドチェーン カンパニー ニュープロダクツグループ マネージャー 永井千絵氏
ハイアール アジア アクア コールドチェーン カンパニー ニュープロダクツグループ マネージャー 永井千絵氏

 ハイアール アジアは、既成概念を打ち破るという言葉がふさわしい「R2-D2移動式冷蔵庫」を発表した。さらに来年には冷蔵庫を再定義しようと挑戦している。

 「来年、大型液晶パネルがついた冷蔵庫AQUADIGIを発売予定ですが、家の中で24時間通電している家電は冷蔵庫のみだという点に注目しました。ここをコミュニケーションプラットフォームにすることで、冷蔵庫の新しい使い方が生まれるのではないか。例えば、離れて暮らしている家族がいるとして、気になるけど毎日は電話できない。そんなとき、冷蔵庫のドア開閉の記録が携帯に届くとします。『今日も行動している』という安心感につながりますよね。今までの冷蔵庫は、容量や消費電力、機能ばかりを問われていました。でも、AQUADIGIに関して、こうした質問はあまり受けません。『何ができるんですか?』と聞かれます。これまでの視点と全く違う製品として、新たな産業革命を起こせる製品だと自負しています」(永井氏)

モノづくりのスタイルが変わってきている?

 IoT(モノのインターネット)などインターネット関連技術の進化のスピードが速まるとともに、製品開発のスピードの重要度も高まっている。セレボは、社内に「スピード、スピード、スピード&スピード」というスローガンを掲げている。そのスピード感は、他社とのコラボでも生きているという。

 「(ほかの企業とのコラボでは)お互いの企業にとって、できるところ・できないところを持ち寄りましょう、というのが私たちのアプローチです。大手メーカーが『製品にしたとき売れるのかなぁ』と悩んでいたとします。そこに『私たちはゼロからつくり、市場に送り込み、データを集約できるのでご一緒しましょう』というスタンスで、しかも通常2~3年かかるところを、1年以内というスピード感を持って取り組んだりします。従来できないことをできるようになるメリットがあります。当社としては大企業のリソースを使わせてもらえるのでラッキーという面もありますしね」(岩佐氏)

三社三様の意見に耳を傾ける参加者
三社三様の意見に耳を傾ける参加者

 ハイアール アジアの製品開発においても、スピードは重要視されている。

 「ハイアール アジアは、三洋電機の白物家電部門を引き継ぎました。体制そのままを引き継いだのですが、当初14段階の役職があったんです。これだけチェック体制があると、特異な製品も角がとれて丸くなります。この体制を、今は4段階にまで減らしました。できるだけ判断する部署を少なくすることで、開発者の意図をそのまま市場に送り込みたいと考えています」(永井氏)

 パナソニックのJコンセプトは、調査に2年もかけるなど慎重に開発を進めてきたが、これまでにない製品開発ということで高いモチベーションで取り組めたという。

 「日本の暮らしを支えてきたメーカーとしてのプライドと責任感が当社には存在します。当社のイノベーションは、Jコンセプトで消費者のニーズをきちんと捉え直したという点に尽きますね。消費者から約96%の満足度をいただいているJコンセプトシリーズですが、裏を返せば、これまで不満足を感じていたということで、そこは猛烈に反省しなくてはいけない。モノづくりの原点に立ち返り、これからもお客様の声に耳を傾けて、日本の暮らしを変えていきたいですね」(古長氏)

家電メーカーのビジネスモデルはどう変わっていくか

 業界全体での新しいビジネスモデルについて、岩佐氏は全く新しい可能性を示した。

 「プロバイダー(通信業者)が家電業界に参入する時代がくるかもしれません。『最新家電を無料で差し上げるから、その代わり当社の回線を使ってください』という具合に。これからの時代、変革がどこで生まれるか全く分かりません。のんびりしていると、メーカーはあっという間に足元をすくわれる時代がきていますよ」(岩佐氏)

 IoT時代を迎えてパナソニックの古長氏は「責任」という言葉を再び使って決意を新たにした。

 「パナソニックも今後、IoTを活用した展開にもチャレンジしたいと考えています。企業ごとにいろいろな役割がありますが、当社にはさまざまな商品やサービスを通じ、『暮らし視点』で普及に向けた大きな責任があるとも感じています」(古長氏)

 ハイアール アジアの永井氏は、これからのメーカーのあり方について、独自の見解を示した。

 「これからの時代は消費者にとってメーカーは関係なくなるかもしれません。製品が消費者の要望をどこまで満たしてくれるのかが大切ということです。メーカーや業界の垣根を越えて、いろいろな場所でいろいろなモノがIoTでつながるというのが、これからの時代は重要だと感じますね。ただし、IoTはあくまでも手段であって目的ではないことを忘れてはいけません」(永井氏)

 消費者にとって家電の可能性が広がるのは大歓迎だろう。これからの時代の製品は、特定の機能を持っているだけではなく、生活の中に入り込む“展開方法”をいかに持っているかが、重要なポイントといえる。家電の進化にこれからも注目していきたい。

キーワードから見えた2016年の潮流

 11月20日の最後のセッションは、有料となる「2015年ヒット商品&2016年ヒット予測」。第1部では日経トレンディ発行人の渡辺敦美が「ヒットの法則」を解説した。

日経トレンディ発行人の渡辺敦美
日経トレンディ発行人の渡辺敦美

 渡辺によれば、2015年は消費・ヒット製品に大きな構造改革が起こったと見ており、「SNSの本当の元年が訪れた」という。力を持った消費者が、商品の価値を左右する時代になり、SNSで話題になると同時に売り切れてしまったりするなど、SNSの力が「臨界点を越えた」と語った。

 ヒットを生み出す法則には「!(びっくり)」「新鮮」「感動」の3段階が必要だと分析。これまでは、SNSで一時的に話題が沸騰してもすぐに人気が終息することが多かった。しかし、今年は「感動」が続き、ファンの獲得につながっている商品が多く現れた。SNSでもイノベーションが起こる時代に突入したことを、構造改革と見ているのだ。SNSの頭角により、「情報の取り方が変わった」「購買の仕方が変わった」「共感が重視された」として、来年以降はスピード感のあるトレンドが次々と生まれることを予測し、解説を締めくくった。

ヒットの生み出し方

トランジットジェネラルオフィス 代表取締役社長 中村貞裕氏
トランジットジェネラルオフィス 代表取締役社長 中村貞裕氏

 第2部では「ヒット商品開発者に聞く!ヒットのキーファクター」と題して、パネルディスカッションが行われた。登壇したのは、トランジットジェネラルオフィスから中村貞裕氏、日清食品からズナイデン房子氏、ジャパンインバウンドソリューションズから中村好明氏。ヒットメーカーが注目しているキーワードをもとに2016年の予測を語り合った。

 座談会に先立ち、ヒットの生み出し方を3名が紹介。中村貞裕氏は、メディアの活用を挙げた。

 「メディアに取り上げられるには、強いコンテンツを見つける必要があります。去年は『日本初上陸』『表参道』というコンテンツに力を注ぎました。『スイーツ』『台湾』『ペット』など、幅広い切り口の中からベストなコンテンツになり得る情報を片っ端から探っています」(中村貞裕氏)

日清食品 取締役 マーケティング部長 兼 日清食品ホールディングス ブランド戦略室 室長 ズナイデン房子氏
日清食品 取締役 マーケティング部長 兼 日清食品ホールディングス ブランド戦略室 室長 ズナイデン房子氏

 日清食品のズナイデン氏は、新しい支持層を獲得し、ヒットにつなげたカップヌードルライトプラスの展開手法を語った。

 「カップヌードルの市場調査を行ったところ、女性は約3割しか支持していないという事実が判明しました。そこで、私たちは“若年女子”にターゲットを絞って商品開発を実施。女子力が低いと見られるカップヌードルを、戦略的に若年女子に定着させ、市場確立に結びつけたのです」(ズナイデン氏)

 ドン・キホーテを展開するジャパンインバウンドソリューションズ・代表取締役社長の中村好明氏は、免税店とインバウンド戦略の関係性について述べた。

ジャパン インバウンド ソリューションズ 代表取締役社長 中村好明氏
ジャパン インバウンド ソリューションズ 代表取締役社長 中村好明氏

 「少子高齢化で縮小傾向にある日本市場のなか、インバウンドへ戦略的に取り組むことが、今後の企業間の大きな差になるのではないでしょうか。地方の農林水産物などにも大きなポテンシャルがあります。日本全体の視点から見ても、インバウンド戦略は重要なキーワードになってくると思います」(中村好明氏)

2016年に注目したいキーワード

 座談会後半、2016年に注目したいキーワードをそれぞれに挙げてもらい、その内容について語ってもらった。中村貞裕氏は「銀座」をキーワードに挙げた。

 「銀座は施設の建設ラッシュが続いていて、2016年は次々とオープンしていきます。多くのメディアが取り上げることも予測されるので、注目の街ですね」(中村貞裕氏)

 ズナイデン氏が挙げたキーワードは「元気な若者」。

 「当社ではインターンシップを行っているのですが、プレゼンも懇親会も二次会も、私たちの学生時代と同じくらいエネルギーを持っているんですね。高揚感を商品に投じると大きく跳ね返してくれる元気さが今の若者にもあります」(ズナイデン氏)

 中村好明氏は、キーワードに「越境EC」を挙げた。

 「現地で買い物をする際、売り切れだと困るから、ネットで事前予約する場面も見られます。これは旅前ですね。次に旅中は、旅行中に買い物した商品を、そのまま中国や台湾など、自国に送ることです。そして旅後。頻繁に訪日できない人は、お気に入り商品をネットで購入します。旅前・旅中・旅後のマーケティングは、今後重要度を増していくでしょう」(中村好明氏)

 最後に、来年に向けたキーワードで締めくくってもらった。中村好明氏は、2015年12月に免税制度がさらに変わることを取り上げ、インバウンド3.0の時代が来たと宣言した。

 ズナイデン氏は、フィーリングという言葉を用いた。広告による「おもしろそう」「いけるかも」という雰囲気が、大きな消費行動につながっていくと考えている。SNS戦略がますます重要となり、情報発信次第で市場が180度変わる可能性も秘めているという。

 中村貞裕氏はプレミアム。自分へのご褒美でちょっとした贅沢をする傾向はすでに見えており、この兆しを大きなブームに育て上げた商品・企業が、来年の顔となっているだろう。

 ヒットを生み出し続ける3名が出したさまざまなキーワード。予測であるにもかかわらず、すでに私たちの前にリリースされたサービスであるように感じるから面白い。来年も3社が発信する情報・サービスから目が離せない。

(文/福井智宏、写真/中村宏)

この記事をいいね!する