大手芸能事務所のアミューズが、アジア事業を強化している。現地でのアーティストマネジメントのほか、日本のアーティストのライブ制作や展覧会事業まで広く手掛ける。2017年12月22日からは台湾の台北市で、東京でも開催されている「新海誠展」を開催する。現地事業を拡大しながら、日本のコンテンツの海外展開を進める同社。アジア戦略を台湾での取り組みから探った。

 ラストの1曲が終わって3人がステージを後にすると、サイリウムを持った多数のファンたちが彼らのオリジナル曲「僕らの描く未来」を歌い始めた。「アンコール」の代わりに日本語の歌声がホールに響く。初めての台湾コンサートに出演した声優、浪川大輔、柿原徹也、吉野裕行の3名を盛り上げようと、現地のファン同士が呼びかけて実施したサプライズ企画だった――。

左から吉野裕行、柿原徹也、浪川大輔。3人の歌に、ファンの歓声に絶え間がなかった台湾ライブ
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 2017年9月10日に台湾・台北市のLegacyで開催された「Kiramune Presents Joint Concert “VERSUS” in Taiwan」は、音楽レーベル「Kiramune(キラミューン)」が初めて実施した海外ライブだ。同レーベルは、バンダイナムコホールディングスの子会社であるバンダイビジュアルと、バンダイビジュアルの子会社でアニメソング歌手などを多数抱えるランティス、バンダイビジュアルとサンライズによる共同出資会社であるバンダイナムコライブクリエイティブの3社による共同レーベル。台湾での初ライブは昼夜の公演を合わせて約1200人を集客、日本にもライブビューイングで配信され、約4000人が楽しんだ。

浪川大輔
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吉野裕行
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柿原徹也
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 「特別な海外公演ということではなく、日本ツアーの一環に組み入れるという発想を現場が持ち始めている」。日本のアーティストの台湾公演についてこう話すのは、Kiramuneのライブを台湾で主催した、アミューズの台湾子会社、アミューズ台湾の広沢誠社長だ。アミューズの所属アーティストに限ってみても、日本ツアーの最後に台湾や韓国でのライブを組み込むことが増えてきているという。同社が日本アーティストの公演を開催するのは現在平均して月1本程度。今後も18年1月は「ONE OK ROCK」、2月には「ラブライブ!」、3月には「FLOW×GRANRODEO」、4月には「アイドルマスター」と主催ライブが続く。

 アミューズは海外展開にも積極的なプロダクションの一つだ。米国やフランス、シンガポール、上海などにもグループ会社を抱える。同社のアーティストである、Perfumeやflumpool、ONE OK ROCK、BABYMETAL、FLOWなどは海外でのライブを幾度となく実施してきた。台湾は「最も手軽に行ける地域の一つ」(広沢氏)。アジア展開の拠点の一つとして現地事業も拡大する。

アミューズ台湾の広沢誠社長は北京での駐在経験も持つ
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 「アジア事業は大きく3つの柱で展開している」と語るのは、アミューズ執行役員 アジア担当で同社シンガポール法人の宮野治彦社長。「1つは自社のアーティストやコンテンツを収入源とした現地での活動。2つ目は映画、ミュージカルや日本コンテンツの現地展開への出資。3つ目は日本のアーティストの現地でのライブ制作など自社の得意分野を生かした受注作業」だ。

 アジアの中でも特に中国には、コンテンツ業界からの熱い視線が集まる。「出演料の桁が違う」(関係者)ともいわれる巨大市場には、「我々だけじゃなくて、米国やほかの国の目も向いている」と宮野氏。アミューズ台湾の広沢社長も「いいアーティストを育てていけば、中国に仕事のチャンスが広がる可能性が高い」とみる。

アミューズのアジア事業を統括する宮野治彦氏はアミューズのシンガポール法人の社長も務める
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 そこでアミューズ台湾は、現地でのアーティストマネジメントにも力を入れる。台湾と中国市場はつながっており、台湾の俳優やアーティストなどは、中国にも活躍の場を広げている。今同社が抱えているのが4組。日本から台湾に渡って活躍している田中千絵(「台湾で活躍、女優・田中千絵 地下鉄内がサイン会場になった日」)。音楽ユニットの慢慢説(マンマンシュオー)。さらに現地の女優リー・イージエとジェニー・リーだ。いずれも中国に行ったり来たりの生活というが、台湾は今後、アーティストの中国進出の足がかりになる可能性がある。広沢社長は「中国市場がこれからもっともっと大きくなってくるのは明白。台湾でもマネージメント力を強化して中国でも活躍できるアーティストを増やしたい」と話す。もちろん日本のアーティストも同様で、台湾で活躍できれば、中国に人気を拡大できる可能性は少なくない。海外で活躍することを目指すアーティストにとって台湾は、第一ステップとして挑戦する価値がある重要な地域の一なのだ。