自宅で騒音を抑えてドリブルの自主練習ができるよう開発された用具「エアドリブル」(税込み2万4000円)。本体サイズは直径500mm、高さ130mm 重量4.25kg。本体はスチール、ネットはゴム、足クッションはウレタン。国際特許出願中
自宅で騒音を抑えてドリブルの自主練習ができるよう開発された用具「エアドリブル」(税込み2万4000円)。本体サイズは直径500mm、高さ130mm 重量4.25kg。本体はスチール、ネットはゴム、足クッションはウレタン。国際特許出願中

 子ども用の防音グッズの輸入販売を手がける空まめシステム(東京都大田区)が2016年8月に発売した、家の中でバスケットボールのドリブルが練習できる用具「エアドリブル」。原理はトランポリンと同じで、ボールをネットに当てることでドリブルの振動や音を抑制する。バスケットボールでは、ドリブルを常に自主練習することが大事だといわれるが、この用具があれば家の中でもいつでもドリブルの練習ができるというのが売りだ。

 空まめシステムの笈川伸郎社長によると、価格が2万4000円と高額なこともあり、発売当初は「1年で1000個くらいはなんとか売れてほしい」と考えていたという。しかし1年たたずに約2000個が売れ、クリスマス商戦が終わる年末までに累計販売数は4000個を超える可能性も出てきたという。

 同商品のアイデアを出したのは倉庫会社、今井パッケージ企画(東京都大田区)の本田喜美社長。本田社長から相談を受けた空まめシステムの笈川社長が、取り引き先である韓国のメーカー、IPDS社に開発と製造を依頼。完成した商品を空まめシステムが輸入し、今井パッケージ企画と空まめシステムが共同で販売を開始した。

エアドリブルのポスター(表裏)
エアドリブルのポスター(表裏)
ネットでも話題を呼んでいる動画(空まめシステムの公式サイトより)
見ていると思わず真似したくなると話題になった(空まめシステムの公式サイトより)

きっかけは「娘の室内ドリブル練習のため」

 本田社長が「室内でドリブル練習ができる用具」の開発を決意したのは、小学生以下の競技者を対象にしたミニバスケットボール(以下、ミニバス)のチームに入っていた長女と次女が、ドリブルの練習に困っていたからだ。ミニバス人口は年々増え、現在全国で15万人以上(男女合計:日本ミニバスケットボール連盟調べ)。一方、学校や自治体所有の体育館の使用はほかの運動部との調整が難しく、公園はボールの使用を禁止しているところが多い。また自宅では集合住宅はもちろん戸建てでも騒音が問題になりやすく、ミニバス競技者の多くが自主練習の場所に困っているという。

 しかし倉庫会社を経営しているといっても、商品開発のためのノウハウや資金はない。新製品の試作・開発の補助金制度に申し込んだものの玉砕。折り畳みいすを改造した手作りの試作品を持参し、筑波大学の工学博士に相談に行ったこともあったが、「無理」といわれた。それでもあきらめきれずに模索していたところ、区の産業振興課でそれに近い消音グッズを韓国から輸入している企業があると知らされる。それが、振動を吸収して音が響きにくい室内用トランポリン「バンバンボード」を韓国から輸入していた空まめシステムだった。

 バンバンボードを知った本田社長は「これを応用して練習用具が作れるのでは?」とひらめき、笈川社長の自宅にバスケットボールを持参。バンバンボードでドリブルをさせてもらうが、ボールが弾む際の振動は吸収できても、トランポリンの表面はプラスチック板なので音がうるさいため、このアイデアを断念。しかし本田社長の熱意に動かされた笈川社長が、バンバンボードを開発したIPDSの李社長に一連の話を伝えると「たぶん売れないだろうけど」と言いつつも、開発に取りかかってくれたという。

 実はバンバンボードを開発者した李社長は韓国自動車最大手・現代(ヒュンダイ)自動車の元・開発者で工学博士でもあり、発明好きなアイデアマンでもある。笈川社長は「相手の話を聞いてシステムを構築する」のが仕事のシステムエンジニア出身。この2人との出会いが、本田社長の思いを結実させることになったわけだ。

 とはいえ本田社長は開発予算を持っていなかったため、材料費を実費で提供。李社長は本業の合間に開発を行うという、手弁当状態で2年間に10個近くの試作品を作成した。当初、売れるかどうか分からなかったが、李社長が「開発だけをしていてもしかたがない。商品化しないとニーズがあるかどうかも分からない」と後押しし、発売が決まった。

振動吸収のためのウレタンクッション(黄色い部分)は、金型を作りウレタンを焼いて発砲させて成型している。1個作るのに20分くらいかかるが、金型が6個なので、作れる量が限られ、高額になるという
振動吸収のためのウレタンクッション(黄色い部分)は、金型を作りウレタンを焼いて発砲させて成型している。1個作るのに20分くらいかかるが、金型が6個なので、作れる量が限られ、高額になるという
フレームとゴムネットの間にゴムパッドを挟み、衝撃によるゴムネットの傷を防ぐ対策をしている。ネットの保障期間は3カ月だが、発売当初のパッドをつけていない時期に購入した人に対しては、無償で交換している
フレームとゴムネットの間にゴムパッドを挟み、衝撃によるゴムネットの傷を防ぐ対策をしている。ネットの保障期間は3カ月だが、発売当初のパッドをつけていない時期に購入した人に対しては、無償で交換している

本当はみんな、家でドリブルしたかった?

 1台2万4000円という価格のエアドリブルは、なぜ予想以上に売れたのか。笈川社長はネット上にアップした動画が、潜在的なニーズを掘り起こしたのではと推測している。「宣伝費がほとんどなかったので、Facebookに14日間の動画広告をアップしたところ、期間内に10万ビューを超えた。さらに購入者がYouTubeに動画をアップし、それがクチコミで広がっていった。現在も動画を見て『家でドリブルしたい』という自分の気持ちに気づく人が増えているのでは」(笈川社長)。動画が広がるにつれ、いくつかのテレビ番組でも紹介されるようになった。

 空まめシステムではエアドリブルや先述のバンバンボードのほかにも、振動と音を吸収する「ばんばんマット」などを販売している。「せっかく楽しく遊んでいる子どもに『うるさいからやめなさい』というのは、お父さん、お母さんにとっても大きなストレス。なるべくそういうシーンが少なくなるように、日本の生活音を小さくする、ということをしていけたらと考えている」と、今後も音を吸収する技術を活用した製品を出していくことに意欲を見せる笈川社長。また、エアドリブルの開発はバスケットボールが競技人口のわりに練習用グッズが極端に少なく、ボールとリングくらいしかないということも大きかったという。「ほかでも売っているもので価格競争するのではなく、狭くてもいいからニーズが強いもの、他社が作っていないもの、日本にないもので本当に必要とされているものを作りたい」(笈川社長)。

 ちなみにエアドリブルはもともと3~4歳から小学校までの年齢の子どもを対象に作ったものだが、意外にもバスケットボール経験者の大人の購入者も多かったことから、現在同社では大人用のエアドリブルも開発中だ。

 実際にドリブルしてみたいという場合、2017年11月25日までモリイチ京橋店(中央区京橋1-3-2)の2階イベントスペースで開催中の「おうちでも元気いっぱい遊べる!『防音・安全』おうち遊び体験広場」で試せる。バンバンボード(大人用もある)など、同社のほかの製品も体験できる。

室内用のボード型トランポリン「バンバンボード」(税込み1万9500円)。縦70cm×横70cm、高さ12.5cm。重量5.3kg、耐荷重100kg。ウレタンスプリングで音が響きにくいので、子どもが力一杯ジャンプしても騒音の心配がない。また子供が落ちてケガをしないよう、12.5cmの高さになっている。左は大人用
室内用のボード型トランポリン「バンバンボード」(税込み1万9500円)。縦70cm×横70cm、高さ12.5cm。重量5.3kg、耐荷重100kg。ウレタンスプリングで音が響きにくいので、子どもが力一杯ジャンプしても騒音の心配がない。また子供が落ちてケガをしないよう、12.5cmの高さになっている。左は大人用
床への衝撃を分散・吸収し騒音を防ぐ子ども用プレーマット「ばんばんマット」(税込み1万3500円)。縦180cm×横100㎝×厚さ4cm、重量は2.4kg
床への衝撃を分散・吸収し騒音を防ぐ子ども用プレーマット「ばんばんマット」(税込み1万3500円)。縦180cm×横100㎝×厚さ4cm、重量は2.4kg
(左)ばんばんマットはファスナーも安全使用になっている (右)10層に圧縮さ れたポリエチレンフォームで音や振動を響きにくくしている
(左)ばんばんマットはファスナーも安全使用になっている (右)10層に圧縮さ れたポリエチレンフォームで音や振動を響きにくくしている
空まめシステムの笈川伸郎社長
空まめシステムの笈川伸郎社長
5歳児がエアドリブルでドリブルに挑戦

(文/桑原 恵美子)

■関連リンク
この記事をいいね!する