物やサービスを交換・共有する「シェアリングエコノミー」関連のビジネスが、米国を中心に急激に伸びている。その波は日本にも押し寄せていて、ネットを使って個人の住宅などを宿泊施設として紹介する「Airbnb」など、海外で成功を収めたシェアリングエコノミーサービスが次々に日本にも進出。また国内でもさまざまなシェアリングエコノミービジネスが展開され、2015年を“シェアリングエコノミーサービス元年”と呼ぶ声さえある。

 そんななか、活況を呈しているのが、貸し切りスペースのマッチングサイト。時間限定で貸し切りできるスペースを、地域や利用目的からネットで検索できる便利さが受け、ここ1~2年で大きく伸びている。

 2012年8月にレンタルスペース予約サイト「Sheeps(シープス)」をスタートさせたシープス(東京都渋谷区)によると、発足時に掲載料無料で空きスペースを募集したところ、集まったのはわずか10店舗で、利用申し込みも月に10件程度あればいいほうだった。しかし現在では、同サイトの掲載レンタルスペースは都内だけで400カ所前後。年内に1000店舗まで増やす予定で、利用申し込みも10月は120本以上あったという。

 スペースマーケット(東京都新宿区)は2014年4月28日から、企業などが保有する空きスペースを個人や企業に時間貸しするマッチングサイト「スペースマーケット」をスタートさせた。現在、成約件数は月数百件近くに上るという。「サイト立ち上げから軌道に乗るのも早かったが、ここに来てさらに急激に増えている。レンタルスペースの新しい使い方が浸透してきているのではないか。さまざまなブームの種が、レンタルスペースから生まれているのを感じる」(スペースマーケットの重松大輔社長)。

 なぜ今、レンタルスペースのマッチングサイトに人気が集まっているのか。また、新しい使い方とはどんなものなのだろうか。

米国では2013年に約150億ドルだったシェアリングエコノミーの市場規模が2025年には約3350億ドル規模に成長する見込み。出典:総務省「情報通信白書」(2015年)
米国では2013年に約150億ドルだったシェアリングエコノミーの市場規模が2025年には約3350億ドル規模に成長する見込み。出典:総務省「情報通信白書」(2015年)
海外におけるシェアリングエコノミー型サービスの例。出典:総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(2015年)
海外におけるシェアリングエコノミー型サービスの例。出典:総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(2015年)
「シープス」のトップページと掲載されているスペースの例。場所、目的、人数、条件、設備などから検索できる。1時間1250円の恵比寿駅前個室レンタルスペースなど、1000円台から借りられるスペースも多い
「スペースマーケット」で扱っているスペースは1時間1000円~のキッチン付きのパーティースペース(三軒茶屋)から、1時間10万円~で敷地内の施設をすべて使えるリゾートホテル(北軽井沢)までさまざま

お化け屋敷、帆船、書店、野球場もレンタル可能!?

「イベントやパーティ用のスペースを個人向けに貸し出すサービスは当社が初では」と言うのはシープスの舩木芳雄社長。もともとはコワーキングスペースの運営をしており、自分の持っている物件の空室を埋めたいと考えて情報を集めていたとき、自分と同様に空きスペースを収益化したいと考えているオーナーが多いことに気づき、マッチングサイトを立ち上げたそうだ。

 最初はミーティングや打ち合わせ用にオフィスを貸し出す個人事業主がほとんどだった。しかし、カフェや雑貨店、キッチン付きスペース、ダンスフロアなど、オフィス以外の店舗が自然と増えてきた。昼は雑貨店を営業し、店を閉めたあとの夜に貸し出すスタイルも出てきている。隣に人気カフェチェーン店ができたために客足が途絶え、倒産危機に陥ったカフェが「どうせ客がいないのだから」とレンタルスペースとして貸し出したところ申し込みが殺到し、今ではそちらが本業になっているケースもあるそうだ。

 それに伴い、1年ほど前からはママ会や、お誕生日会など、ビジネス利用ではなく一般のイベント利用増えてきた。現在ではママ会、懇親会、バーベキュー、絵本の読み聞かせから、スナックを食べながらの自主上映会、人狼サークルによる人狼ゲーム、コスプレ撮影会など、実に多様な使い方で利用されているそうだ。

 スペースマーケットの重松大輔社長は前職でウェディングの写真事業の立ち上げを行っていた。そのなかで、多くの披露宴会場が平日に遊休スペースとなっていることをもったいないと感じていた。また海外では「LiqiudSpace」「EVENT up 」といった、スペースを貸し出すマッチングサイトが人気を集めており、国内でも貸し会議室のマッチングサイト「TKP」が急成長している。こうしたころから「空きスペースを借りたい」というニーズがあると見て、サイトを立ち上げたという。

 同サイトで取り扱っているレンタルスペースは現在、大小合わせて3800件前後。「ECサイトは品ぞろえが大事、年内に5000件、1年以内に1万件まで増やしたいと考えている」(スペースマーケットの重松社長)。

 また、スペースマーケットはユニークな物件が多いのも特徴。築250年の古民家や、結婚式場(青山迎賓館)、映画館(ユナイテッド・シネマ豊洲)、お寺、お化け屋敷、帆船、書店、家具屋、美容室のほか、貸し切りできる野球場なども同サイトに掲載されている。こうしたユニークな物件をそろえたのは、「ブランド構築を意識したから」とのことで、ウェディングビジネスで得た幅広いコネクションが役立ったそうだ。サイトが軌道に乗るにつれて「貸したい」という申し込みが増え、現在は貸し手の7割がサイトを通じて自発的に登録している状態だという。

 2社とも物件の掲載料は無料だが、マッチングが制約した場合、同社が手数料として店舗から使用料金を徴収する。シープスの場合は25%、例えば2万円で予約が成立したら5000円がサイトに入る。スペースマーケットの場合は物件や条件によって異なり、20~35%とのこと。

 両社が口をそろえて言うのは、ここに来て個人使用の割合が急激に増えているということ。「当初の利用者は、会議室などを求める企業と個人利用が半々だった。しかし現在は8割が個人利用。将来、飲食店を持ちたい人が1日限定の店を開くなど、新しい形の利用の仕方も増えている」(重松社長)。その理由はどこにあるのか。

スペースマーケットで人気が高いのは、古民家。写真は阿佐ヶ谷にある築93年の古民家「シェアサロン古民家asagoro」(1時間3600円~)
スペースマーケットで人気が高いのは、古民家。写真は阿佐ヶ谷にある築93年の古民家「シェアサロン古民家asagoro」(1時間3600円~)
スペースマーケットで扱っている、築250年の日本家屋。和室、玄関、縁側、神社、テニスコートなど多彩な撮影スポットがある(1時間2万円~)
スペースマーケットで扱っている、築250年の日本家屋。和室、玄関、縁側、神社、テニスコートなど多彩な撮影スポットがある(1時間2万円~)
帆船、寺院、お化け屋敷、無人島もレンタル可能(スペースマーケット)

ホテルより安く飲食店より自由、公民館より設備が充実!?

 レンタルスペースを利用する理由として最も多く挙げられるのが、自由度の高さとコストパフォーマンスの良さ。「その代表的な例が、子連れのママ会。貸し切りスペースは、自宅のセカンドルーム感覚で気楽に使えるのが魅力。また最近の学生は、PCやスマホで好きな音楽を流したりしながら、仲間同士でだらだら飲むスタイルを好む。そのため学生の飲み会でレンタルスペース利用が広がっている」(シープスの舩木社長)。

 飲食の調達の選択肢が増えていることも、レンタルスペースを選ぶ理由のひとつ。「主婦は金銭感覚がシビアだが、デパ地下やデリバリーのほうがカフェより安くておいしいことも多い。また最近の学生は、そもそもあまり飲酒量が多くない。コンビニでお酒を買って来て、レンタルスペースにたこ焼き器と材料を持ち込み、手作りで安上がりに楽しむ飲み会が増えている」(シープスの舩木社長)。「ワイン愛好家のパーティをホテルや飲食店でやる場合、気に入ったワインを持ち込むと持ち込み料をとられる場合が多い。しかしレンタルスペースなら同じ金額かそれ以下で3~4時間と長く借りられるので、二次会に行く費用も節約できる。ケータリングのレベルがあがっているし、要望があれば業務提携しているシェフの派遣も行っている」(スペースマーケットの重松社長)。

 そして意外に大きな理由が「貸し切りだと人の目を気にしなくていい」ということ。「SNSの隆盛で、同じ趣味を持つ個人が集まるイベントの数が増えている。知らない人から見ればマニアックに見える趣味を持つ人が増え、色々な人が小イベントをやりたがる時代になっている。貸し切りのレンタルスペースであれば自由度が高く、まわりの目を気にしなくて済み、プロジェクター、音響設備、Wi-Fiなど設備が整っているというメリットがある」(シープス舩木社長)。従来、イベントに使用されてきた公民館は、料金は安いが、設備が整っていないため敬遠されるようになっているという。

 スペースマーケットで一番人気の物件は古民家で、熊谷など、都心から遠い物件でも人気が高いそうだ。こちらも「古民家ならではの非日常的な雰囲気があることのほかに、貸し切りなので人の目を気にせずに撮影でき、安心なことが大きな理由」(スペースマーケット重松社長)とのこと。同社では新たなイベントの需要を掘り起こすため、サイトでレンタルスペースの使用例を多数アップしている。「予約状況をウオッチしていて、面白そうなイベントだと感じたら、カメラマンを派遣して取材している」(スペースマーケットPR担当の端山愛子氏)という。

 シープスの舩木社長は他人同士が場所を共有しながら独立した仕事を行う“コワーキングスペース”時代から、SNSでつながった人々がイベントを行う“レンタルスペース”時代になったのではないかと指摘する。

シープスのサイトより、レンタルキッチンスペース「Patia(パティア)」。アイランドキッチン付きで子供用のスペースもあり、ママ会に人気(1時間5040円、税込み)
シープスのサイトより、レンタルキッチンスペース「Patia(パティア)」。アイランドキッチン付きで子供用のスペースもあり、ママ会に人気(1時間5040円、税込み)
シープスに掲載されているスペースの一例。神宮球場が見え、ジャグジーやバーベキュー設備もある屋上スペース「神宮前SORA」(1時間9720円、税込み)
シープスに掲載されているスペースの一例。神宮球場が見え、ジャグジーやバーベキュー設備もある屋上スペース「神宮前SORA」(1時間9720円、税込み)
渋谷の有名クラブ「CLUB camelot」で行われた日本酒イベント(スペースマーケット)
渋谷の有名クラブ「CLUB camelot」で行われた日本酒イベント(スペースマーケット)
300坪の広大な敷地にある庭園古民家「紫栄庵」(しえいあん)で行われたワイン会イベント(スペースマーケット)
300坪の広大な敷地にある庭園古民家「紫栄庵」(しえいあん)で行われたワイン会イベント(スペースマーケット)
「DIY coworking atelier & cafe ViBAR」で行われた、カカオ豆からチョコを作るワークショップ(スペースマーケット)
「DIY coworking atelier & cafe ViBAR」で行われた、カカオ豆からチョコを作るワークショップ(スペースマーケット)
鎌倉市二階堂の築90年古民家で行われた、ヨガの体験イベント(スペースマーケット)
鎌倉市二階堂の築90年古民家で行われた、ヨガの体験イベント(スペースマーケット)

今後の課題は、“中抜き”防止!?

 しかし、課題もある。レンタルスペースの貸し手と利用者が知り合いになり、サイトを通さず直接交渉を行って貸し借りをするようになる、いわゆる“中抜き”への対処だ。

 シープスの舩木社長は、「スペースオーナーにとって、なくてはならないウェブサービスになることが最大の対処法では」という。中抜きをすれば、サイトに払うべき料金を節約でき、売り上げが伸びる。しかし中抜きが判明すれば、その店舗はもうそのサイトを利用して集客ができないことになる。「一過性ではなく、恒常的にユーザーを連れていけるサービスへと高めていくことができれば、ルール違反をせず末長く利用してもらえるようになるのでは」(シープスの舩木社長)。

 貸し手、借り手の間のトラブルはどう防いでいるのか。スペースマーケットでは借り手の身元確認は、Facebookなどの履歴を重視。一方、貸し手はスペース登録時に審査フローがあり、そのなかでカード会社の審査もある。また利用者の動きは自社のプラットフォームを通じて直接ウオッチし、「何かトラブルが起きそうな場合には、なるべく事前にフォローしている」そうだ。「シェアリングサービスを行っている他社と、利用者の使用履歴を共有できるシステムも将来検討されるだろう。信用情報を共有できるようにすれば、マナーも自然とよくなっていくのではないか」(スペースマーケットの重松社長)という。

 スペースマーケットではスマートフォンのアプリを改良していき、今後は例えば半径500メートル以内の物件を探せてすぐにブッキングできるようにしていきたいという。スマートフォンなどの機器を用いてカギの開閉・管理を行うスマートロックもいい商品が出てきているので、積極的に採用して、貸し手の省力化を図っていきたい考えだ。「ベンチャービジネスは、急成長を見越して大き目の物件を借りることが多い。成長するまでは余剰スペースを貸し出すといった戦略も、これから一般的になるのでは。シェアリングエコノミーが認知されていけば、スペースの貸し借りは文化として成熟していくはず」(重松社長)。

スペースマーケットでは利用者やオーナーのレビューを公開しており、好評だという
スペースマーケットでは利用者やオーナーのレビューを公開しており、好評だという

(文/桑原恵美子)

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