GRPと送客を組み合わせる

 もっとも、録画視聴や見逃し放送の利用が広がる中、単に放送しただけでは従来ほどの威力は発揮できない。テレビをより効果的に使ううえで、いかにデジタルを有効活用できるかが肝になる。テレビとデジタルは二項対立の関係ではない。それぞれの強みを組み合わせることで、その効果は大きく増幅される。冒頭で紹介したキリンビールの事例は、デジタルを活用してCMに全く新しい価値を付加した先例と言えよう。

 キリンビールは昨年から、CMの放送中にスマホで参加できる参加型CMを、計5回実施している。いずれもCMの放送中にスマホでキャンペーンサイトを訪れ、CMと連動したゲームに参加することで、コンビニエンスストアなどで商品と引き換え可能なクーポンを得られるものだ。

キリンが実施した参加型CMの流れ
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 取引先の小売り企業でクーポンを引き換え可能にするには、POS(販売時点情報管理)レジの設定などが新たに必要なため、昨年9月の初実施の際は小売りと接する営業部門もそこまで手間をかけるべきか懐疑的だった。そこで、マーケティング本部マーケティング部メディアグループテレビ担当の小松誠也氏が直接、小売りのバイヤーとの交渉を買って出るなどして実現。現在はその効果が実感され、2017年からは年間キャンペーンのスケジュールに組み込まれて、営業活動にも生かされている。

 小松氏はなぜ参加型CMを推進したかったのか。その理由をこう説明する。「広告をただ流していても商品は売れない時代になっている。宣伝が本当に意味のあるものなのかと思われることに、課題を感じていた」。消費者のテレビ離れが叫ばれる中で、キリンビールにおいてもCMの効果を疑う声が聞かれるようになった。これに対して波多野氏は、「テレビは最大のリーチを取れるメディア。その価値はまだ高い」と異を唱える。

 それを証明するには、「CMを見た人が来店につながることを立証する」(波多野氏)ことが早道と考えた。CMが来店につながっていることが立証できれば、営業支援にもつながる。こうして開発したのが参加型CMだ。

 参加型CMを何回も実施する中で、効果をより高めるための知見も蓄積されている。まず告知方法だ。放送に先駆けてFacebookやTwitter、2000万人超が登録する「LINE公式アカウント」など、さまざまなチャネルを使ってキャンペーンサイトに誘引してきた。そこから導きだされた1つの解は、LINEが最も効果的であるということだ。

 リアルタイム視聴で参加してもらうCMのため、放送直前の告知をいかに広く届けられるかが肝になる。FacebookやTwitterはその時にタイムラインを見てもらわなければ、そもそも情報に触れることがない。

 一方、LINEはプッシュ通知で直接スマホにメッセージを届けられるため、「30分後に放送」といった直前の案内にきちんと目を通してもらえる。そこで、6月20日に実施したキャンペーンでは、直接の告知はLINEに一本化。それ以外に、キャンペーンに参加しようと検索サイトを調べた人は、検索連動型広告でキャンペーンページに誘導した。

 次に参加の仕組みだ。「なるべく単純な仕組みの方が参加率が高い」(波多野氏)。例えば、4月に放送したタレントの平野ノラさんが出演するCMでは、踊る平野さんに向かってスマホを扇子に見立てて仰ぐ企画だったが「誤ってボタンを押してしまうなど、誤作動につながってしまった」(波多野氏)。また、昨年実施した缶チューハイ「氷結」のキャンペーンはスマホの画面を何度もタップする企画だった。この企画は単純で参加のハードルは低かったものの、視聴者がスマホの画面に集中してしまい、肝心のCMから目線が外れてしまった。

 6月20日に放送した女優の波瑠さんを起用したCMでは、これらの課題を解決した広告クリエイティブを制作した。CMの企画は波瑠さんと「だるまさんが転んだ」に挑戦するもの。鬼役の波瑠さんが背中を向け、「だるまさんが転んだ」と言ってカウントしている間に、スマホの画面をタップして近づく。ゲームのルール上、波瑠さんがカウントを始めるまではテレビの画面を見ることになる。これにより参加のハードルを下げつつ、自然とスマホとテレビとを視線が行き来する作りにした。

 集客面とクリエイティブの改善を繰り返すことで、参加者は増えていった。その結果、わずか20分で6万枚のクーポンを配り終えるという成果につながった。早くも8割のクーポンが引き換えられており、コンビニへの集客にもつながっている。

 これが営業活動にも好影響を及ぼす。小売りとの交渉の場ではこれまで、「GRP(延べ視聴率)」が棚割りを決める指標として使われてきた。これに集客という付加価値を加え、営業活動で他社との差異化につながった。消費者に対してクーポンを配布するという価値を提供しながら、一方で営業活動にも役立てる。CMとデジタルの連携により、両面に新しい価値を生み出している。

(文/中村 勇介)

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左から、キリンデジタルマーケティング部主務の松岡貴英氏、クレディセゾン・ネット事業部長兼デジタルマーケティング部長の磯部泰之氏、一休代表取締役社長の榊淳氏
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