トヨタ自動車は小型コミュニケーションロボット「KIROBO mini(キロボミニ)」を2017年にトヨタ車の販売店を通じて発売する。価格は3万9800円で、月額300円ほどのシステム利用料がかかる。全国販売に先立ち、今冬に東京都と愛知県の一部販売店で先行販売する計画だ。

 コンセプトは「いつも寄り添い心を通わせる」。話し相手の表情やしぐさなどを認識して会話が楽しめるという。

丸みを帯びた、赤ちゃんのようなしぐさのキロボミニ

 2016年10月4~7日、千葉県千葉市の幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2016(シーテック ジャパン 2016)」に出展して人気を集めたキロボミニは、「第44回東京モーターショー2015」で初公開された。モーターショーで集めた2000件以上のアンケート結果により、より丸みを帯びた、なおかつ頭が少し大きく赤ちゃんのしぐさを思わせるかわいらしいデザインに変更。座高10cm、重さ183gという手のひらサイズで、自動車のカップホルダーにも入る。

 キロボミニには「キロボ(KIROBO)」のノウハウが生かされている。キロボは国際宇宙ステーション(以下、ISS)に滞在するロボット宇宙飛行士としてトヨタ、電通、東京大学先端科学技術研究センター、ロボ・ガレージが開発。2013年8月10日からISSに滞在し(2015年2月11日に帰還)、宇宙飛行士の若田光一氏と「宇宙での人とロボットとの対話実験」に世界で初めて成功した。

トヨタらしくないチャレンジ?

 工業製品でありながら“愛車”などと“愛”が付く商品を作ってきたトヨタが、クルマ以外にも「かけがえのないパートナー」をつくるプロジェクト「TOYOTA HEART PROJECT(トヨタハートプロジェクト)」の成果が今回のキロボミニだという。

 同プロジェクトでキロボミニのコンセプトとして掲げたのは、「共感(心が動く、心を感じる)」「共在(併せ持つ、かしこい頭とやさしい心)」「共鳴(呼応する、反応する)」「共有(思い出を共有する)」「共育(成長する、自分に合わせて変化する)」「共生(人と共生する)」「共創(共につくる)」の7つ。

 同社Mid-size Vehicle Company Presidentの吉田守孝氏は「キロボミニはクルマとは違い、ユーザーの手元に届いたときは未完成。コミュニケーションに大事なやさしさや思いやりの心といった情緒的価値に重きを置いており、雑談のような何気ない会話を通じてコミュニケーションを楽しみ、少しずつ成長しながらパートナーになっていく存在。トヨタらしくないという点がチャレンジ」と話す。

人工知能と呼べるほどの技術ではない

 「コミュニケーションする際には5歳くらいの子どもをイメージしてほしい」と話す同社MS製品企画部新コンセプト企画室の片岡史憲主査は、キロボミニの特徴を6つ挙げる。

 まず「いつも寄り添う」「見つけて反応する」という特徴。例えば後ろから「キロボ」と声をかけると振り向いて「何?」と答えるなど、話者の方向を推定する機能。また顔追従機能により顔を見つめるとじっと見つめ返す、ユーザーが動くとそれに合わせて顔や体の方向を変える。放っておくとユーザーをカメラで認識して「見つけた」と話しかけてくることもある。

 「心が動く、心を感じる」という特徴は、ユーザーにかわいいと感じさせるようなキロボミニの動きにある。腕を動かしたり、足を動かしたりするしぐさなどで、おしりの丸みがとてもかわいらしく、手や頭を動かしたときにゆらゆらと少し不安定に体が動くのが赤ちゃんのようでもある。さらに「バイオロジカルモーション」という、例えば関節など部分的なポイントの動き方から人間の動作を知覚できる技術を搭載しており、LEDを用いた目がまばたきをしたり笑ったりと、いわば絵文字のように変わって反応するという。

 「雑談をする」という特徴は、カメラによる表情認識・感情推定を使った機能。ユーザーが今どういう感情を持っているのか、例えば良いことがあったのか、何か悲しいことがあったのかなどを判別し、声をかけてくる。ただし顔認証はしないので話しているのが誰なのかは把握しないという。

 「覚える・成長する」という特徴は、会話や場所を記憶して、会話できるようになっていくこと。ただしこれも相手を特定しはいないという。

 「つながる」という特徴は、例えばクルマと連携して急ブレーキ時に「あわわわ。気をつけてよ」などと言葉を発したり、車の中に放置されないように「置いていかないで」と声をかけてくる機能。さらにトヨタホームとの連携で、鍵のかけ忘れを注意することも可能。ただし、鍵そのものをかける機能は搭載していない。

 片岡氏によれば「(学習していくような)人工知能と呼べるほどの技術がすべて入っているとは思っていない。ファームウエアを含めてアプリケーション側で行える部分を成長させようと考えている」という。

トヨタホームとの連携で家の中の状況が分かるように?

 キロボミニを動かすには、Bluetoothで接続するスマートフォンおよびスマートフォン用のアプリケーションが必要になる。アプリのデータは、スマホからWi-Fi経由で「トヨタハートシステム」のセンターサーバーに送って管理するという。このサーバーは、トヨタホームのHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)も利用しているので相互に連携が可能だ。具体的には「お風呂が沸いているよ」などとキロボミニが教えてくれるようになるらしい。

 キロボミニの専用クレードルはバッテリーの上に乗る形で収まっており、キロボミニを入れるとシートベルトしたようなイメージになる。駆動時間は約2.5時間とスマホなどと比べると短めだが、家にいる際にも車で外出時にも充電中も使える。

常にスマホ連携で動かす

 生産はVAIO(長野県安曇野市)の工場で行う。吉田氏によれば、その理由は全高10cmというサイズで開発するにあたり、VAIOのPCにおける最小面積でメイン基板を設計製造する高密度実装技術を評価したからだという。また、「ソニーのペットロボット『Aibo』を生産していたのが安曇野工場だったので、その生産から部品の交換、修理のノウハウまでを持っている」点も大きかった」(吉田氏)という。

 3万9800円という価格は、コミュニケーションロボットとしては安いほうだろう。とはいえあくまでもユーザーのスマホ利用が前提であり、キロボミニを使うときにはスマホのアプリを常に立ち上げておく必要がある。

 販売経路が現在までのところトヨタ車両販売店としか発表されていないが、トヨタ車を持っていない人が気軽に販売店を訪れられるかどうかはやや気になる。吉田氏によれば、キロボミニはコミュニケーションレスになっていく社会の問題に対応し得る存在であり、人とクルマと家と社会というドメインをつなぐやさしい存在にしていく狙いがあるという。クルマを売るために作ったロボットというわけではないというわけだ。

 見た目はたしかにかわいらしく、入手しやすい価格であることは間違いない。子どもにも喜ばれそうなだけに、キロボミニが今後どのように成長していくのか注目したい。

バッテリー駆動時間は約2.5時間で、充電時間は約3時間
バッテリー駆動時間は約2.5時間で、充電時間は約3時間
バッテリーレベルが低下すると、眼のLEDが消灯
バッテリーレベルが低下すると、眼のLEDが消灯

(文/山田真弓)

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