豆の選定から抽出まで、一定の基準を満たすコーヒーを「スペシャルティコーヒー」と定義し、おいしいコーヒーを提供することを目的として設立された日本スペシャルティコーヒー協会(略してSCAJ)。SCAJが主催するコーヒーの見本市「SCAJ WORLD SPECIALITY COFFEE CONFERENCE AND EXHIBITION」が2017年9月20~22日、東京ビッグサイトで開催された。
今年のテーマは、「The Age of Innovation(革新の時)」。会場では新しいコーヒーの楽しみ方やスタイルを強調する展示が多かった。なかでも、アイスコーヒーの新たなムーブメントが目に付いた。
今、アイスコーヒーが熱い!
会場に入ってまず目を引いたのは、アイスコーヒーの新しい飲み方の提案だ。例えば、UCCの「アイスブリュードコーヒー」。専用のサーバーを使って、あらかじめ冷やしたコーヒーに窒素ガスでクリーミーな泡を追加。フルーティーなコーヒーには少なめの泡を、コクのあるタイプのコーヒーには多めの泡をといったように、風味に合わせて泡の量をコントロールしてグラスで提供するというもの。豆もシングルオリジンのものを使い、すでに都内では導入している店舗もあるらしい。
実際に飲んでみたが、これがうまいのだ。あらかじめ冷やしてあるから氷がいらず、水っぽくならないだけでもコーヒー本来の味が楽しめるし、泡が口当たりを軟らかくするせいか、コーヒーの風味もふわりと心地よく味わえる。パーティーなどで、ビールやワインと並んで提供されるようになるとうれしい。
軟らかな泡でアイスコーヒーの味わいが変わる
キーコーヒーの「コールド・クレマ・コーヒー」も、アイスコーヒーを窒素ガスで泡立てて提供するスタイル。面白いのは、100V電源で動くサーバーを開発していること。W170×D550×H515mmのコンパクトなサーバーはタンクも不要で、どこにでも設置できる。これなら、小さな店でも気軽に導入することができそうだ。
2018年春発売予定の水出し専用コーヒーバッグを使ったものを試飲したが、水出しコーヒーならではの苦味の少ないスッキリした味わいに軟らかな泡がプラスされて甘味が際立っておいしかった。やはり、氷なしのアイスコーヒーはうまい。このアイスコーヒーの新しいスタイルは、米国などでは流行の兆しを見せているそうだし、日本でもはやることを期待する。
フルーツを漬け込んだコーヒー
アイスコーヒーの使用例として、UCC上島珈琲の水出しコーヒー用コーヒーバッグ「コールドブリュー」を使ったフレーバーコーヒーを試飲できるコーナーも面白かった。
ガラス製のウォーターサーバーの中には、フルーツなどを漬け込んだコーヒーが入っていて自由に試飲ができるのだけれど、これがどれもうまいのだ。もともと、アイスコーヒーにオレンジシロップを入れるのは、スターバックスコーヒーの夏の定番。さらに、コーヒー系のカクテルも柑橘系を合わせるのが定番になっているように、コーヒーとフルーツは実は相性が良い。また、この水出しコーヒー用コーヒーバッグの「コールドブリュー」が、ちゃんとうまいのだ。水出しは失敗も少ないので家で試してみようと思った。
コーヒー専用ステンレスボトルが登場
アイスコーヒー関連では、アラジンのステンレスボトルも面白かった。まるでワインボトルのような形の保冷ボトルで、見た目は洗いにくそう。だが、飲み口だけでなくボトルの肩のあたりでも開けられるようになっているので、洗いやすいし氷も入れやすい。3700円とやや高価だが、ちょっと欲しくなるデザインだ。
コーヒーのおとものスイーツは“デミカップ”
会場では、コーヒー周辺の菓子やシロップ、コーヒー盆栽まで、コーヒー周辺の興味深い製品も充実していた。
まずは、エスプレッソのカップそのものがクッキーでできている、テンセンスの「エコプレッソ」。内側がシュガーコーティングされたデミカップ形のクッキーにエスプレッソを入れて飲むというものだ。エスプレッソを入れて提供するだけでなく、カップのみの販売も行うという。これまで、大阪の店舗で手作りして提供していたが、量産に成功して広く販売することにしたのだそうだ。
形はかわいく、エスプレッソを飲みながらカップを少しずつ食べるのは、ビスキュイと一緒にエスプレッソを飲んでいるのと同じ感覚で、たしかに合う。内部がコーティングされているので、飲んでいる最中にコーヒーが染み出すこともない。ただ構造上、コーヒーのほうが先になくなるので、カップを食べ終わったあとにはもう一杯コーヒーが欲しくなる。
コーヒータイムの楽しみが増えた
マルカ商事の「ダ・ヴィンチ・グルメ」は、フレーバーシロップのブランド。コーヒーや紅茶などに少し垂らすだけで、風味や香りが加わる。いろいろなフレーバーがそろっているが、驚いたのはチャイのシロップ。牛乳と混ぜるだけで、かなり本格的なチャイになっていた。フレーバーシロップはあなどれないと思った。
さらに、チーズケーキのシロップをアイスクリームと混ぜてベリーのソースをかけたものを試食したが、これがほとんどチーズケーキ。タルトっぽい風味までするから驚く。バターラムやピーナッツバターなどもあり、飲み物の楽しみの幅が大きく広がるラインアップだった。
UCCが展開していた「コーヒー盆栽」も面白かった。コーヒーの木を使ったテラリウムやジオラマ、苔玉などを分かりやすく総称して「コーヒー盆栽」というジャンルを提唱している。大きなテラリウムのようなものもいいが、個人的には小さなガラスの器の中で作られた作品が好みで、売れそうな気がした。昔、ゴムの木を観葉植物として飾るのがはやったけれど、あれの省スペース版的なイメージだ。
キーコーヒーの「MATRIX」は、コーヒーの味や香り、風味を色と形で表現する試み。通常、苦味、酸味、甘味などのマトリックスで表示されることが多いが、それでは、風味というか特徴や個性が表現しきれないし、見ても今ひとつピンとこない。それを色の濃さや形でより具体的に表してみようというわけだ。
開発研究所の分析機能を用いたキャラクターアイコンでコーヒーを表現した試作を見たが、たしかにイメージが伝わるものだった。これがもっと整備され、色や形とコーヒーのつながりがより明確になれば、コーヒーを買う側にとっても、またブレンドコーヒーを作る際にも、大きな力になるのではないだろうか。
(文・写真/納富廉邦)