特集「『シニア向け』即席食品の謎」の2回目。前回の「カップヌードルをなぜお椀で? 『罪悪感』に商機あり」に続き、今回は冷凍食品と粉末スープそれぞれの分野でシニアのニーズ開拓を狙う日本水産と味の素の取り組みを追う。
日本水産はシニア世代をメインターゲットにしたブランドから「中性脂肪を下げる」機能をうたった冷凍食品を2品発売していたが、2017年9月には「記憶力を維持する」機能で3品の冷凍食品を発売している。
「冷凍食品市場はこの2年ほどで、『弁当から食卓へ』と大きく方向転換をしている。人口構成の変化により少子化が進み、これまで冷凍食品市場の約半分を占めていた弁当のおかずに、これまでの伸びが期待できなくなったことが大きな要因」(日本水産 家庭用食品部 冷凍食品課の熊谷賢一氏)。
流通関係者もそうした変化を感じているので、冷凍食品売り場も変化。弁当のおかずの売り場が縮小され、食卓ものが広がっている。各メーカーも、“食卓で食べる冷凍食品”に力を入れ始めているという。特に大きく伸びたのが冷凍パスタで、一時市場の成長をけん引したほどだ。冷凍の唐揚げも、弁当のおかず用のミニサイズのものより、食卓で盛り映えがする大型のものが現在よく売れている。このように品数が増えて充実してきた“食卓もの”の冷凍食品をよく利用しているのが、意外にもシニア世代だというのだ。
ハンバーグやステーキが圧倒的人気!?
かつて食卓で食べる冷凍食品は、独身の単身者など個食向けが多かった。しかし独身の単身者とシニア世帯は、「少人数なので買った食材が使い切れない」「作っても結局、余らせてしまう」「あまり手間をかけたくない」などの悩みが共通している。その一方で、おいしさやボリュームも欲しいと感じている。
そのニーズを満たすのが、冷凍食品。生ゴミも出ず、材料を余らせることもなく、手間もかからず短時間で料理が準備でき、余れば冷凍保存も可能な冷凍食品の便利さが、昨今のシニアに向いているのだという。70~80代は冷凍食品になじまない人も多いが、60代のシニアはかつてお弁当のおかずとして冷凍食品の使用経験があり、おいしさや便利さを認識していることも需要を後押ししている。
さらに、「シニア層は脂っぽい肉よりあっさりした魚を好む」というイメージがあるが、実はそれほど魚を食べる回数は増えておらず、若いころから食べ続けていた肉中心のメニューを、そのまま食べ続けている人が多いそうだ。一度に食べられる量は減っているが、好みはそれほど変わっていない。日本水産でもシニア層に圧倒的な人気があるのは、メインのおかずとして認知されているハンバーグやステーキなど。2017年春に発売された「粗挽きハンバーグ」などが、シニア層にも大人気だという。
シニアの生活シーンの中にヒット商品の種がある!?
包材と冷凍食品加工技術の進化がリンクし、冷凍食品のおいしさが急速に進化していることも、舌の肥えたシニア世代に人気が高まっている理由だ。ニッスイの「粗挽きハンバーグ」は外装袋ごと電子レンジに入れて温める仕様のため、冷凍状態のハンバーグが袋の中で蒸されることになり、ふんわりしっとりと仕上がる。さらに「ソースが多めのほうがハンバーグのおいしさが引き立つ」という実体験に基づいた設計で、ハンバーグが130gに対し60gがソース。袋の中のハンバーグが入っているトレーは、電子レンジの加熱後に手で持っても熱く感じないよう、ふちを大きくとっている。
また皿に盛りつけるときにたっぷりのソースをかけやすいよう、注ぎ口の形を工夫している。こうした細かい工夫はシニアのためだけではないが、年齢とともに細かい作業がしにくくなるシニアにはおおいに歓迎されそうだと感じた。「今成長しているのは、 “シーン”や“時間”を訴求した冷凍食品。生活者が何を思いながらその冷凍食品を使っているか、そこから商品を考えることが必要」(日本水産の熊谷氏)。
シニア向け即席食品は今後も広がりを見せそうだ。味の素は2017年8月、食が細くなりたんぱく質が不足しがちな高齢者に向け、「クノール たんぱく質がしっかり摂れるスープ」を発売。「高齢者の5人に1人はたんぱく質不足という現状が問題になっているが、たんぱく質を摂取したいと考えている高齢者の9割以上が普段の食事から取りたいと考え ている。肉や魚で必要とする量を毎日摂取するのは大変だが、お湯を注ぐだけでできるカップスープなら、朝食や昼食にプラスするだけで手軽においしく、不足しがちなタンパク質が取れる」(味の素)。
今後も増えるシニア世代のニーズをうまく捉えられれば、市場はまだまだ伸びる可能性がありそうだ。
(文/桑原恵美子)