家電メーカーのバルミューダ(東京都武蔵野市)は2017年9月7~12日、東京・代官山の商業施設「代官山 T-SITE」内にあるイベントスペースに、同社初となる期間限定店舗(ポップアップストア)を設置した。コンセプトは「バルミューダの考える温かみのあるレストラン」だ。入り口のドアの取っ手にはアンティーク風の加工を施し、壁には料理研究家の使い込まれた調理器具を配置。人の温かみを感じられる場所を目指したレストランでバルミューダのキッチン家電を使った料理を提供した。

 例えば、2015年の発売以降、人気を集めるオーブントースター「バルミューダ ザ・トースター」で作ったチーズトースターや、9月6日に発表したばかりのオーブンレンジ「バルミューダ ザ・レンジ」で作ったポップコーンなどを無料で味わえる。バルミューダは1日当たり1500人超の来場を見込んだ。

バルミューダは9月7~12日、期間限定店舗を代官山の商業施設「代官山 T-SITE」内に出店
バルミューダは9月7~12日、期間限定店舗を代官山の商業施設「代官山 T-SITE」内に出店
発売前の「バルミューダ ザ・レンジ」も実際に利用して、ポップコーンを作れる
発売前の「バルミューダ ザ・レンジ」も実際に利用して、ポップコーンを作れる

 今夏以降、メーカーによる出店が相次いでいる。イケア・ジャパン(千葉県船橋市)は、東京・二子玉川の商業施設「二子玉ライズ」に9月14~16日の3日間限定で店舗を設置。発売前のペット向け商品を展示した。併せて、スウェーデン料理も販売した。

 また、「ゼスプリ」ブランドでキウイフルーツを販売するゼスプリ インターナショナル ジャパン(東京都港区)も同様に7月22~8月13日、東京・表参道に同じくカフェ「ゼスプリ キウイ ハント」をオープン。多い時には200人を超える長蛇の列ができるほどの人気店となった。

 なぜ今、出店するメーカーが増えているのか。出店企業に共通するキーワードは「体験」の提供だ。モノやサービスがあふれる一方、消費者が接する情報源の多様化により、企業は消費者と接点を作ることが困難になっている。消費者に知られない商品では、単にスーパーや家電量販店の棚を取り、陳列しているだけで選んでもらうことは難しい。そこで、自社の顧客層が日常的に訪れる場所に店舗を構えることで、商品やサービスの体験つなげる。商品の価値やサービスの利便性を実際に体験してもらうことで、新たな顧客の開拓を狙う。

バルミューダ流レストランで試食体験

 「当社の製品はまだまだ認知度が低いうえに、他社製品よりも高額。実際に体験してもらわないと、その価値は伝わりにくい。ところが、家電量販店などでは、どんな料理をできるのか体験することはできない。そこで、当社の製品で作った料理を体験してもらえる場所を作りたかった」

 バルミューダのマーケティング部PR担当の秦泉寺里美氏は、出店の狙いをこう説明する。例えば、バルミューダ ザ・トースター。同製品の特徴は筐体の上部から水を注ぎ、水蒸気でパンを包み水分を中に閉じ込めることで、外はカリカリ、中はふっくらに焼き上げること。販売価格は一般的なオーブントースターのおよそ10倍だ。言葉でその価値を説明されたとしても、通常の10倍の価格をすぐに払おうという気分にはなりにくいだろう。

 一方で、実際にこのトースターで焼いたパンを食べた人は、その評価が大きく変わる。「顧客の中には、友人にトースターを強く薦めて、5人以上に購入してもらったと報告をくれる人もいる」(秦泉寺氏)。体験さえしてもらえれば、価格にも納得してもらえるはず、そう考えた。また、「キッチンの主要な家電は出そろった」(秦泉寺氏)ことから、包括的にキッチン家電を試してもらえる土壌も整った。こうしたタイミングも合致して店舗の設置を決めたという。

 バルミューダの店舗ではバルミューダ ザ・トースターはもちろん、バルミューダ ザ・レンジや、炊飯器「バルミューダ ザ・ゴハン」、電気ケトル「バルミューダ ザ・ポット」といった、バルミューダのキッチン家電シリーズのすべてを体験できるようにした。トースターではチーズトースターを提供したほか、冷めてしまったパンを温め直すことで、焼きたてに近い風味を味わえる「リベイク」も体験できるようにした。リベイクコーナーでは日替わりでさまざまな種類のパンを用意した。

「バルミューダ ザ・ポット」で淹れたコーヒーを味わえる
「バルミューダ ザ・ポット」で淹れたコーヒーを味わえる

 そのほか、オーブンレンジを使って作ったポップコーンや電気ケトルで淹れたコーヒー、炊飯器で炊いたご飯を無料で提供しながら、製品の開発者などが使い方や開発コンセプトなどを説明。実際に製品を使ってみたい場合には、トースターでパンを温めたり、電気ケトルを使ってお湯を注いだりできた。こうして製品を試して気に入ったら、その場で購入することも可能だ。「将来的には本当の飲食店にも挑戦してみたい」と秦泉寺氏は語る。

ゼスプリカフェの来店者数は想定の1.6倍

 ゼスプリが今夏に設置したカフェには、最終的に当初想定の1.6倍となる2万1600人が訪れた。「初日から、最終日まで常に行列ができている状態だった」とゼスプリの猪股可奈子マーケティング部長はうれしい悲鳴を上げる。同社はキウイを体験してもらい、味や生の果物のみずみずしさを知ってもらうことで、キウイの消費拡大につなげることを目指した。

ゼスプリが表参道に出店した期間限定店舗には想定の1.6倍の来場者数となった
ゼスプリが表参道に出店した期間限定店舗には想定の1.6倍の来場者数となった

 カフェの設置に当たっては、20~30代の女性をターゲットに据えた店作りを目指した。スーパーを中心とした既存の販路では、今後顧客になることがが期待できる若者とは接点をもちづらいというマーケティング課題を抱えていたのがその理由。出店場所として選んだのが表参道だ。「ターゲット層の往来が多く、かつ通行者の目に入り広告塔としても活用できる路面店であること」(猪股氏)を条件に選んだのが、表参道沿いにあるカフェ「BAKERY CAFE 426 OMOTESANDO」だ。同店を貸し切って、外装や内装をゼスプリ仕様にした。

「インスタ映え」意識した店舗設計

 カフェでは、キウイをふんだんに使った3種類のパフェを800円で販売した。パフェを開発するうえで意識したのは、「フォトジェニックであること」(猪股氏)。TwitterやInstagramなどのSNS利用者が多いと予測される地域への出店だけに、来店者がついつい写真を撮影して投稿したくなる商品作りを目指した。

果物の断面がカップから見える、インパクトのあるパフェ3種類を800円で販売した
果物の断面がカップから見える、インパクトのあるパフェ3種類を800円で販売した
カフェの店内には撮影専用スペースを設けて、SNSへの写真投稿を促した
カフェの店内には撮影専用スペースを設けて、SNSへの写真投稿を促した

 提供したパフェはいずれも、透明のカップの側面からは、果物の断面がのぞく。こうした見た目のインパクトで、思わず人に伝えたく気持ちの醸成を狙った。また、店内にはパフェを置いて、ゼスプリのキウイをモチーフにしたキャラクター「キウイ・ブラザーズ」のぬいぐるみなどと一緒に撮影できる専用スペースも用意した。「出店した地域には若者たちの間で人気を集めるインフルエンサーも多い。そうした人たちを通じてキウイの写真を発信することを狙った」(猪股氏)。

 商品や店舗の設計だけではなく、写真の投稿を促す施策にも取り組んだ。それがキウイ・ブラザーズのぬいぐるみのプレゼントキャンペーンだ。キウイ・ブラザーズは2016年に誕生したキャラクターで、スーパーのキウイ売り場などに販促目的でぬいぐるみを置いている。非売品にもかかわらず、どこで購入できるのかといった問い合わせが頻繁に寄せられる人気キャラクターだ。このぬいぐるみを景品に、ハッシュタグ「#ゼスプリキウイハント」を付けて、TwitterかInstagramに投稿すると抽選で当たるキャンペーンを実施した。

登場以来、人気を集めるゼスプリのキャラクター「キウイ・ブラザーズ」のぬいぐるみのプレゼントキャンペーンを実施
登場以来、人気を集めるゼスプリのキャラクター「キウイ・ブラザーズ」のぬいぐるみのプレゼントキャンペーンを実施

 さらに、もし外れた場合でも、キャンペーン参加後にカフェに来店すると先着30人は漏れなくもらえた。その結果、ぬいぐるみを欲する人がカフェに殺到。店舗の開店前から行列ができる事態につながった。また、狙い通りに情報拡散にもつながり、Instagramの「#ゼスプリキウイハント」には6000件を超える写真が投稿されている。それが呼び水となり、さらなる集客につながった。

 こうした期間限定店を設置したい企業と、場所を貸し出したい店舗をマッチングするサービス「SHOPCOUNTER(ショップカウンター)」を展開するのがCOUNTERWORKS(東京都目黒区)だ。同社の三瓶直樹社長は「アパレル、飲料、消費財などさまざまなメーカーからの問い合わせが増えている。毎月、問い合わせ数は約20%ずつ増加している」と明かす。需要の増加に対応するために、同社は不動産会社のアトリウム(東京都千代田区)と共同でポップアップストア向けのレンタル施設を設置し、10月2日から営業を開始した。支援会社のサービスもより充実している。体験の提供を重視したメーカーによる出店は今後、さらに加速しそうだ。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)

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