最近、知人から「今、小学校低学年でもエステサロンで脱毛している」という話を聞き、耳を疑った。美容ライターの彼女は、幼稚園の女の子の母親。ママ友からよく相談されるのが、“キッズ脱毛”についてだというから驚いた。聞けば「年長から始めて今3年目、トータル100万円以上使っている子もいる」という。

 もうひとり、女子小学生の娘を持つ美容ライターからも話を聞いたところ、「今、10歳だが、本人は気にしているよう。T字カミソリを買って『これでお手入れしなさい』と渡して使い方やアフターケアも教えているが、サロンやクリニックで脱毛させてもいいかなって思う。今は安いし、そのメリットはよく分かっているから。なので、『中学受験が終わったら、お金出してあげるね』と話している」と、やはり“キッズ脱毛はアリ”派の様子。

イラスト/六角橋ミカ
イラスト/六角橋ミカ

 一般的な脱毛方法としてカミソリ処理やニードル脱毛(針に電流を通して毛根にダメージを与え、脱毛していく方法)があるが、現在エステティックサロンでは光脱毛、クリニックではレーザー脱毛が主に行われている。

 いずれも黒色に反応し、ムダ毛を処理するという仕組みなので、細い毛や薄い色のムダ毛には効かない。また、色黒の肌にも効きづらいという。ならば、子どもの細い毛や屋外遊びで日焼けした肌に反応するのだろうか。そもそも、子どもがサロン脱毛しなければいけないほど、毛深いということがあるのだろうか。はたまた、昨今の「子どもがやりたいことを無条件にサポートする」風潮の延長か? 考えがまとまらないまま、取材へと向かった。

サロン脱毛の低価格競争が拍車をかけた?

 最初に訪れたのが、7歳から脱毛の施術を受け付けているという、脱毛サロン「エピレ」。エステティックサロン大手のTBC系列の脱毛専門サロンだ。

脱毛専門サロン「エピレ」の店舗内。キッズ脱毛に通う場合、保護者の送り迎えが条件だ
脱毛専門サロン「エピレ」の店舗内。キッズ脱毛に通う場合、保護者の送り迎えが条件だ

 「ダンスやバレエ、水泳などの習いごとで、肌を露出する機会が多い子どもたちが親に行きたいとせがむケースが多い。母親がかつてムダ毛で悩んでいたことも少なくないため、比較的理解があるようだ。カミソリを使った自己処理で肌を荒らしてしまったり、また、母親がえり足や背中などを剃ってあげるのが手間なのでサロン脱毛させたいというケースもある」(TBCグループ 広報室主任 名越華子氏)

 そうは言っても、昔からバレエや水泳などのお稽古はあったが、サロン脱毛している子はいなかった。技術の進歩に伴う脱毛機器の低価格化や、それに連動する業界全体の価格競争なども関係しているだろう。実際、10~20年前は高額だったサロン脱毛だが、現在は“生えてこなくなるまで〇円ポッキリ”といった価格保証コースを設定するサロンも多い。

 「昔はアイドルやタレント、モデルは遠い存在だった。しかし、今は実際会いに行けたり、SNSの流行で存在が身近になったり。同じくらいの年齢の芸能人発信の情報を、スマホやPCで逐一チェックできる環境にある。さらには、ハイビジョン、4Kなど、テレビの技術が格段に上がり、毛穴まで見えてしまう時代。そうすると“自分と違う!”と気になるようだ」(名越氏)

TBCグループ 広報室主任の名越華子氏
TBCグループ 広報室主任の名越華子氏

海外留学もきっかけに?

 「そのほか、お子さんの海外留学やホームステイも来店動機になっている。海外ではムダ毛を剃るのが習慣になっているが、慣れない生活が始まるなか、できるだけやらなければならないことを減らしてあげたいという親心も」(名越氏)

 筆者も米国の高校に通っていた時期があるが、濃くもない腕や脚のムダ毛をそのままにしていたところ、「シャワーのたびに剃って、ボディローションをつけなさい」とホストマザーに助言された経験がある。また、欧州では男性ですら無毛がポピュラーだという。そういった異文化を目の当たりにすると、確かに動機となるのかもしれない。そして、昔との大きな違いは、親の理解、サポートがあることだと感じた。

 「母親が毛深くて悩んだことがある、あるいはすでにサロン脱毛経験者という人が多いようだ。子どもの気持ちが分かるとか、共感される親御さんがとても多い。昔と比べてサロン脱毛の数が増え、料金も安価になり、母親が『サロン脱毛するのなら早いほうがいい』と感じていることも大きいのかもしれない」(名越氏)

 ところで、光脱毛・レーザー脱毛をする際、施術後に紫外線に当たることは炎症やシミの原因となるためご法度である。小学生は屋外にいる時間も多く、プールの授業だってある。紫外線ケアも大人ほどマメではない。そのあたりはどうなのだろう。

 「最近はプールの授業でもラッシュガードを着てよいという学校も少なくない。そのうえ、サロン脱毛を選択するような子は、そのあたりの意識が非常に高い。日焼け止めや長袖で紫外線をガードすることも当たり前のように行っている」(名越氏)

キッズ脱毛の施術例。写真左が処理前。写真右が5回処理をした後のひざ下
キッズ脱毛の施術例。写真左が処理前。写真右が5回処理をした後のひざ下

 ちなみに、「最近の傾向として“終活”でVIO脱毛(陰部の脱毛の通称。V=恥骨周辺、I=股の内側、O=肛門まわり)をされる人も増えている」と名越氏は話す。

 終活世代の中には、将来寝たきりになり、身内やヘルパーに下の世話を頼むことがあるかもしれないということを考え、衛生面や身だしなみの観点からVIO脱毛をする人が増えているのだそうだ。年齢からいって、キッズ脱毛対象者の祖母にあたるくらいの人々のムーブメントであるが、それを見聞きする子どもの母親世代は、“自分の母親さえもサロン脱毛する時代”いう認識が、サロン脱毛のハードルをより低くしているかもしれない……という仮説も。まさにサロン脱毛は“ゆりかごから墓場まで”状態だ。

サロン経営の父親が子どもの肌用に脱毛方法を開発

 次に全国で120店舗を展開する脱毛サロン「Dione(ディオーネ)」でも話を聞いた。こちらは3歳から脱毛可能ということで、未就学児も通っているという。

脱毛サロン「Dione新宿本店 Premium」。サロンは土足厳禁。小さい子どもはスリッパが苦手ということで、スリッパなしのカーペット敷き
脱毛サロン「Dione新宿本店 Premium」。サロンは土足厳禁。小さい子どもはスリッパが苦手ということで、スリッパなしのカーペット敷き

 「福岡でエステサロンを経営していたとある社長が娘のために脱毛機器を開発し、その機器を当サロンが導入したのがはじまり。当時小学1年生だった彼女は毛深くていじめられていたそうで、こまめにカミソリでお手入れしていたが、肌荒れしたり、チクチクしたり、はたまた誤って切ってしまったり。それを見ていた父親が、紆余曲折の末、子どもでも施術できる脱毛機器を考案。子どもでも使えるということは敏感肌のお客様にも対応できるということで、評判が口コミで広がっていった。そんないきさつがあり、創業当初から大人の女性向け脱毛とキッズコースの両輪で展開している」(ドクターサポート Dione エグゼクティブマネージャー 坂本麻衣子氏)

ドクターサポート Dione エグゼクティブマネージャーの坂本麻衣子氏
ドクターサポート Dione エグゼクティブマネージャーの坂本麻衣子氏

 さすがに未就学児の場合、いくら体毛が濃いとはいえ産毛だろう。そうなると、一般的には黒い部分に反応して脱毛していくという仕組みが通用するのだろうかという疑問がわく。

 「ハイパースキン脱毛という独自方式を採用している。従来の機器のように毛根や毛にアプローチするのではなく、毛の休止期の発毛因子に着目。そこにダメージを与える方法なので、毛の色や細さは関係ない」(坂本氏)。だから産毛にも対応可能なのだそうだ。

 「お客様の最年少は2歳の女の子。2歳が? と思うかもしれないが、結構毛深い子で、親が気にして来店された」(同)

脱毛機器の開発元社長とその娘のエピソードを、子どもにもわかりやすいマンガで解説
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小学生にとって脱毛は“秘めごと”

 ところで、小学生のサロンでの“キッズ脱毛”はどのくらい一般的なのだろうか。小学校高学年から中学生までの女子に人気の月刊誌『nicola』(新潮社刊)編集部に、小学生のムダ毛事情を聞いてみた。

 「ムダ毛のお手入れ企画はたまにあるが、コスメやカミソリ、毛抜きなど、あくまで自己処理でのケアを紹介している。サロンに通っているという子は聞いたことがない」(nicola編集部小島知夏氏)

 サロンでのキッズ脱毛はまだごく一部の流行で、子ども本人よりも親の意識が強いように思う。しかも、サロンで脱毛というのは、大人っぽい、おしゃれ、自慢したいという感覚かと思いきや、やはり基本的にはムダ毛処理=コンプレックス解消の行為なわけで、声高に言うことではないのかもしれない。むしろ、“脱毛サロンに通ってツルツルの私”ではなく、何もしなくてもツルツルだと演出したいのではないだろうか。だから脱毛サロンに通う小学生にとって、脱毛サロンに通っているということはある種の“秘めごと”という気がしてきた。

(文/三井三奈子)

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