2017年9月5日、サントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)は、同社の缶コーヒー「BOSS」ブランドの新商品「プライドオブボス」を発売した。185g入りの「ショート缶」と呼ばれるタイプで、ブラジルの提携農園の豆とサントリー独自の技術で抽出した「超深入りコーヒーオイル」でコクと香りを出した。同社によると、今年で発売25周年を迎えるボスブランドの集大成とも言えるべき商品で、今後シリーズ展開していく予定だという。
早速飲んでみたが、油分がコーヒーの風味を閉じ込めているのか、通常のボスシリーズよりもコーヒーの香りがしっかりと感じられる。ミルクと砂糖が入っているので甘さはあるが、しつこくはない。一本で飲みごたえがあり、仕事や運転中のリフレッシュに向いていそうだ。
しかし、近年のボスは、カフェインレスコーヒーやラテベースなど、ショート缶以外の話題が多い(関連記事「“カフェインレスのBOSS”は誰が飲む?」)。なぜ今、ショート缶を大々的に展開するのだろうか。
新規ユーザー向け商品は好調だが、ショート缶は苦戦
ボスは発売以来25年間、売り上げを伸ばし続けている。特に2014年と比べてブランドユーザーが約2割も伸びたのは、新領域による新規ユーザーの獲得が大きいだろう。
2016年3月に発売した「ボス ラテベース」シリーズは、カルビーと共同で提案した「フルグラ・テ」が好調なこともあり(関連記事 「『時短インスタ』がヒット生む? ボス×フルグラ」)、甘さ控えめタイプの直近週間販売数で前年同期比で142%と売り上げが伸びている。また、2017年4月に発売したペットボトル入りのコーヒー「クラフトボス」シリーズは、これまでボスブランドが得意としてこなかった若年男性層と女性層の支持を集めた。2017年6月に発売した「クラフトボス ラテ」は、発売後わずか3日で生産が追いつかず出荷停止になったほどだ。
一方、定番のショート缶は市場全体が伸び悩んでいることもあり、売り上げは横ばい。だが、そこに新シリーズを投入した理由があると柳井事業部長は説明する。
「ショート缶は確かに厳しい状況だが、ヘビーユーザーはキープし続けている。今この時代にショート缶を支持するヘビーユーザーを飽きさせない商品を作りたかった」(柳井事業部長)
柳井事業部長によると、缶コーヒー市場においてショート缶の売り上げはまだ全体の7割を占めている。キャンペーンなどで目標を維持するのではなく、ヘビーユーザー向けに新しい話題を提供することで、ショート缶市場の活性化を狙っているのだろう。
ヘビーユーザーも「世代交代」
ショート缶強化の一環として新シリーズを投入するだけでなく、今回は「プレミアムボス」を始めとする主力5商品も一斉にリニューアルしている。ヘビーユーザー層が変わっていないのなら、味を変えないほうが支持され続けるのではないだろうか。
「ヘビーユーザーの数は変わらないが、少しずつ循環している」と柳井事業部長。ショート缶ヘビーユーザーの中心は「働く男性」(サントリー)。25年前にボスが発売されて以降、ずっと飲み続けていた人が定年退職し、代わりに30代の新規ユーザーが入ってきて定着する。そうした世代交代がショート缶市場に起きているというのだ。また、サードウェーブコーヒーの登場などでコーヒーが多様化する中、ユーザーの嗜好にも変化が出てきていると同社は分析。ヘビーユーザーを意識しつつも今の時代に寄せた味に変えなければ、ユーザーとのずれが生じてしまうと考え、今回のリニューアル及び新シリーズの味を決定したという。
「缶コーヒーの売り場が限られるなか、新商品に加えて主力5商品も一斉にリニューアルするので、優先順位付けが必要」(柳井事業部長)。まずはショート缶の売り上げが多い自動販売機を強化していく方針だ。
(文/樋口可奈子)