イケア・ジャパンが2018年度(2017年9月~2018年8月)のマーケティング戦略に掲げるのが「アクセスしやすいイケア」。イケアの商品に興味はあっても近くに店舗がないため購入機会を逸している潜在顧客を取り込む狙いだ。その戦略の中核を担うのがオンラインストアの強化と、期間限定店を出店するポップアップイベントの実施である。イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長に、戦略の意図やオンラインストアの今後などについて聞いた。

 イケアの店舗と聞いて、どんな店舗を思い浮かべるだろうか。都心から自動車で数十分の郊外に、2万平方メートルを超える巨大な売り場面積を持つ店舗。1000台以上の自動車が駐車可能な、広い駐車スペースがある。そんな店舗を思い浮かべるのではなかろうか。

 イケア・ジャパンはこれまで、郊外を中心に大型店舗を出店する戦略を進めてきた。2017年10月11日に営業を始める長久手店(愛知県長久手市)も、売り場面積が2万平方メートルで宮城・仙台店と同等となる。広い店舗に設置されたモデルルームなどを見ながらゆったりと商品を試してもらい、併設されたレストランでスウェーデン料理を楽しんでもらう。そうした体験を重視した店舗戦略を進めてきた。ただ、それらの店舗の多くは都心からのアクセスが良いとは言い難い。イケアは気になるけれど、店舗が遠くて重い腰が上がらない。そんな人も少なくだろう。

 現状の店舗戦略ではアプローチしにくかった消費者と、イケア製品の接点を作りだす。イケアは2018年度、新たなマーケティング戦略を推進している。コンセプトは「アクセスしやすいイケア」だ。イケアをより身近に感じてもらい、顧客へと変えていくことを目指す。その戦略の意図や、具体的な施策の内容についてイケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長が語った。

――「アクセスしやすいイケア」とはどういう戦略なのですか。

ライス氏: 「アクセスしやすいイケア」をコンセプトに、ソーシャルメディアやオンラインストアといったインターネットでの顧客との接点を強化します。リアルでは、ポップアップイベントを積極的に実施して、イケアの商品に触れていただける機会を増やします。

 イケアの商品を体験してもらうことは、マーケティング上、非常に重要だと考えています。多くの人がアクセスしやすい場所でイベントを実施することで、商品との接点拡大につなげていく方針です。

イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長
イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長

 ポップアップイベントはまず9月に東京・二子玉川のガリレアに開設した期間限定店舗で実施します。このイベントでは、一部の商品にはなりますが実際に購入していただけます。イケアがこうしたポップアップイベントで商品を販売するのは初めてのことです。10月には大阪でもイベントを計画しています。

 10月から販売を予定しているペット向けの商品についても、二子玉川のイベントで先行展示して、商品を手に取ってもらえるようにする予定です。

――4月に開設したオンラインストアはの出足はいかがでしょうか。

ライス氏: オンラインストアはとても成功しています。開始した初日から、多くの注文をいただいています。既に(イケア・ジャパン)の売り上げの5%がオンラインストア経由となっており、数年で20%にまで拡大すると見ています。

 他の国と比較して特徴的な点としては、ソファをオンラインストアで購入する人が非常に多いこと。それから、子ども向けのキッチンカテゴリーの商品もオンラインストアでよく売れています。とはいえ、これは当社が目指す「マルチチャネルリテーラー」の第一歩に過ぎません。近いうちに食品も、オンラインストアで売り出します。今はリアルの店舗にレストランを設置するなどして、スウェーデン料理を提供しています。ベジタブルボールは、ミートボールに負けないぐらい人気になっています。そうしたスウェーデンの食品をオンラインストアを通じて販売していきます。

――オンラインストアの拡大により、店舗の役割に変化はありますか。

ライス氏:  そうですね。販売チャネルごとの役割に変化は表れるでしょう。オンラインストアで事前に商品を調べてから、実際に店舗を訪れて、店員に相談する。持ち帰り可能な商品だけ店舗で購入して、大きい商品はオンラインストアで買う――。そんな役割分担をするのではないでしょうか。

 役割分担が変化する中で、リアルの店舗はエンターテインメント性を兼ね備えた場所である必要があると考えています。リアルの店舗では“体験”が重要になるからです。

日本人にはもっと家に興味を持ってほしい

――8月に600品以上を値下げしました。なぜこのタイミングで大規模な値下げに踏み切ったのでしょうか。

ライス氏: 他の国と比べて、日本はまだまだ伸びしろがある市場です。自分の家にもっと興味を持ってもらい、より快適で安全なスペースにすることに関心を持ってもらうことで、さらに事業規模を拡大していけると考えています。

 イケアでは新たなカタログの発行に併せて、各国で毎年、価格の見直しをしています。ですが今回の日本での値下げは、他国よりも対象商品が多く、より大規模なものです。新たに多くの人にイケアの商品に関心を持ってもらい、快適で安全な家につながる機能性の高い商品を体感してもらうことを目指しました。

イケアは今後1年間で886品を平均22%値下げする
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人気商品のソファ「KIVIK」は1万円値下げして2万9990円で販売する
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――値下げする商品はどのような基準で選ばれているのでしょうか。

ライス氏: まず工場の協力を得て、製造工程を検証します。(原材料費が下落しているなど)コスト削減が可能な商品を選びます。次にボリュームです。日本の顧客から人気があり、より多く売れている商品は1つ当たりの製造原価が下がるため値下げが可能になります。

 今回は物流も見直しました。例えば、店舗に出荷する際、トラックにもう10個多く積荷できないのか、そうした小さな見直しの積み重ねが可能な商品を中心に、値下げをしています。

(構成/中村勇介=日経トレンディネット、写真/新関雅史)

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