2017年8月22日、LCC(格安航空会社)のバニラエアがポイントプログラム「バニラエア ポイント」の導入を発表した。9月1日からスタートする。LCCの多くはできる限り安い運賃を提供するために、ポイントやマイレージプログラムを設けていない。バニラエアがポイント導入に踏み切ったのにはどのような事情があったのか。プログラムの具体的な内容と合わせて解説する。
支払い額に応じてポイントを付与
航空会社の利用者向けのサービスとして一般的に知られているのは、マイレージプログラムだろう。マイレージは搭乗区間に応じたマイルが積算されるが、バニラエア ポイントは、量販店や百貨店のポイントカード同様に、支払い額に応じてポイントが付与される仕組みだ。バニラエアの公式サイトで購入した場合にポイントが付与されるルールで、ポイントの付与率は1%に設定されている。
ただし、ポイントが付与される対象は、航空券購入とオプション料金(座席指定や預け入れ手荷物など)のみ。空港税や支払い手数料、バニラエアの国内旅行傷害保険などは対象外となる。搭乗数日後に付与されたポイントは、航空券購入時に1ポイント1円として使える。(100ポイント単位で利用可能)。有効期限は搭乗から24カ月だ。
SNSとも連携 登録で予約が簡略化
登録は無料で、2歳から入会できる。氏名、性別、生年月日、居住地(国名・都道府県のみ)、メールアドレス、パスワード、郵便番号、電話番号のみの入力で登録できるが、LINEやFacebookとも連携しているので、SNSのアカウントを持っている人は登録後のログインが簡単になる(初回の登録は必要)。フルサービスキャリアと呼ばれる大手航空会社のマイレージプログラムのようにカードは発行せず、公式サイト内だけで情報を管理する。バニラエア ポイントに加入することで、公式サイトでの予約時に名前を入力する必要がなくなり、予約済みの旅程確認がスムーズにできるのも便利だ。
顧客情報の管理という側面も
ポイントプログラム導入のきっかけは、利用客アンケートでの「マイレージやポイントをためたい」という声だった。また、バニラエアをこれまで利用した回数が5~6回以上と意外に多かったのも導入を後押しした。これまでの同社の予約システムでは顧客のリピート率などの情報を取っていなかったが、ポイントプログラムよって顧客情報が管理しやすくなるというバニラエア側のメリットもある。
バニラエアの山室美緒子副社長は今回のポイントプログラムについて、「フルサービスキャリアのマイレージプログラムとは異なり、バニラエアでは小さいポイントしかたまらない。だが、特典航空券の枠ではなく、座席が空いていればいつでもポイントを利用できる形態を取ったことで使いやすい仕組みになっていると思う」と話す。バニラエアがターゲットにしているのは「好奇心旺盛でフットワークが軽い層」(山室副社長)。ポイントを還元しやすいプログラムを展開することで、利用者の拡大を目指す。
訪日旅行客もポイントプログラムに登録できる
国際線を中心とした訪日旅行客(インバウンド)を狙って、国外からも登録できるようにしたのも大きなポイントだろう。日本向け公式サイトでの購入では100円=1ポイントであるが、海外向けの公式サイトで購入する場合にもおよそ100円あたり1ポイントになるように設定している(30台湾ドルに対して1ポイント、 7香港ドルに対して1ポイント、50フィリピンペソに対して1ポイント、2万2000ベトナムドンに対して1ポイントなど)。
フルサービスキャリアの還元率は基本的には2~3%で、国際線ファーストクラス・ビジネスクラスに特典交換すれば7~10%にもなる。だが、還元率が高くなると運賃自体が上がってしまう可能性もある。現状、バニラエアの1%という設定は妥当だろう。また、フルサービスキャリアのマイレージプログラムにある上級会員制度について、バニラエアでは当面は設定しない。「上級会員制度には、ラウンジ利用や座席のアップグレードによってロイヤリティを高める目的がある。だが、バニラエアではより多くの利用客と接点を持ちながら、何らかの形で還元をしていきたい」と話す。
他社LCCのリピーター向けサービスは?
国内の他社LCCも、リピーター向けにさまざまな取り組みをしている。ジェットスター・ジャパンは8月8日から有料会員プログラム「Club Jetstar」をリニューアル。会員特別価格で航空券が購入できたり、預ける手荷物や座席指定料金が20%割引されるなどの特典を提供している(入会初年度は入会金が年会費を含めて3900円、2年目以降は年会費3939円)。また、ピーチが展開するクレジットカード「Peach Card」では、カードの利用額に応じて付与されるポイントを航空券購入時に使える「ピーチポイント」に交換したり、カード会員限定セールや機内食の10%割引などの特典を設けている(ベーシックは年会費無料、プレミアムは年会費税込み5400円)。私見だが、年間一定金額以上を利用したリピーターに対して、機内持ち込み手荷物を多く持ち込めるサービスや、機内でペットボトルの水を提供するなど、LCCならではのコストがあまりかからない特典を取り入れる会社が出てきたら面白いだろう。
(文/鳥海高太朗
=航空・旅行アナリスト、帝京大学理工学部航空宇宙工学科非常勤講師)
「多くの利用客と接点を持地ながら」とありましたが、正しくは「多くの利用客と接点を持ちながら」です。お詫びして訂正します。[2017/8/31 15:35]