ポッカサッポロフード&ビバレッジ(以下、ポッカサッポロ)は2016年8月22日、同社のスープ事業の中心ブランド「じっくりコトコト」から、電子レンジ対応のレトルトパウチ入りスープを新発売する。

左から「贅沢コーンポタージュ」「海老の濃厚ビスク」「香り芳醇きのこポタージュ」の3種類ともに150g入り、各270円。袋を立てて電子レンジに入れ、指定の時間加熱して容器に移す。湯せんにも対応
左から「贅沢コーンポタージュ」「海老の濃厚ビスク」「香り芳醇きのこポタージュ」の3種類ともに150g入り、各270円。袋を立てて電子レンジに入れ、指定の時間加熱して容器に移す。湯せんにも対応

 レトルトは新シリーズ「じっくりコトコト ご褒美ダイニング」として、「贅沢コーンポタージュ」「海老の濃厚ビスク」「香り芳醇きのこポタージュ」の3種類を用意。じっくりコトコトの食シーンは粉末箱入りタイプが朝食、パン入りのカップタイプが昼食と用途が分かれているなか、レトルトタイプは夕食シーンでの利用を提案している。

個食の増加やネットスーパーの普及により、夕食に加工食品を活用する層が増えるのではないかと指摘
個食の増加やネットスーパーの普及により、夕食に加工食品を活用する層が増えるのではないかと指摘

 働く女性の増加により時短食材へのニーズが増えていることから、ポッカサッポロは既存のじっくりコトコトシリーズの夕食シーンへの訴求をかねてから検討していた。しかし、「一日で最もぜいたくな食事を取る時間帯に、粉末スープを推していくのは難しかった」(ポッカサッポロ広報)という。夕食向けの商品として、味の特徴を出しやすく、濃厚で満足感が高いメニューを選定。開封や加熱調理にひと手間かかる缶詰タイプは視野には入れず、調理が簡便なレトルトパウチ入りのスープを開発した。

レトルトと粉末スープ、味の違いは?

 じっくりコトコトブランド初のレンジ対応レトルトだが、コーンポタージュはもちろん、海老のビスクは粉末箱入りの定番で、きのこのポタージュもかつては粉末で販売していた商品。じっくりコトコト自体、スープの中に具材が入っていることを売りにしているが、レトルトは粉末とどのように差異化しているのだろうか。

 ポッカサッポロは「素材の加熱具合に大きな違いがある」と説明する。従来からある粉末タイプは素材を粉砕して熱を加えて乾燥させ、スープベースをを作っている。具材も刻んで乾燥させているため、水分を飛ばしたことや熱による負担で素材の風味はわずかながら損なわれていた。しかし、レトルトは調理したスープをそのままパウチしているので、「加熱度が低く水分を飛ばしていないため、素材の油脂感(クリームの風味)をそのまま残せた」(ポッカサッポロ)という。

 レトルト3種類を試食したが、たしかに舌触りが滑らかで粉っぽさもない。具材はそこまで多く入っておらず、どの商品も塩気は薄め。夕食時に出すなら肉料理やパスタなど、味がしっかりとしたメーン料理に合わせるとちょうどよいだろう。

缶にも箱にもカップにも「海老のビスク」

 レトルトの発売と同時に、粉末箱入り、カップ、缶それぞれの秋冬商品も発表された。レトルトの新発売よりも気になったのが、すべてのカテゴリーにおいて「海老のビスク」味を共通してラインアップしていることだ。

「プレミアム海老のビスク」170g入り、140円。2016年10月に、全国のスーパー、コンビニエンスストアで発売予定
「プレミアム海老のビスク」170g入り、140円。2016年10月に、全国のスーパー、コンビニエンスストアで発売予定
左から「海老の贅沢ビスク」「ブロッコリーチーズポタージュ」「マンハッタンクラムチャウダー」。それぞれ3袋入りで248円。2016年8月22日発売予定。海老の贅沢ビスクとマンハッタンクラムチャウダーは既存品をリニューアルした
左から「海老の贅沢ビスク」「ブロッコリーチーズポタージュ」「マンハッタンクラムチャウダー」。それぞれ3袋入りで248円。2016年8月22日発売予定。海老の贅沢ビスクとマンハッタンクラムチャウダーは既存品をリニューアルした
左から、2016年秋冬シーズンフレーバーの「こんがりパン 海老のクリーミービスク」「サクサクパイ バジルチキンのクリーミーポタージュ」「こんがりパン 1/3日分の野菜のトマト&チーズポタージュ」。各172円。2016年8月22日から2017年2月ごろまで販売の予定
左から、2016年秋冬シーズンフレーバーの「こんがりパン 海老のクリーミービスク」「サクサクパイ バジルチキンのクリーミーポタージュ」「こんがりパン 1/3日分の野菜のトマト&チーズポタージュ」。各172円。2016年8月22日から2017年2月ごろまで販売の予定

 ビスクとは甲殻類を使ったクリームスープのこと。スープ専門店では定番の人気メニューとなっているが、どちらかというと若い女性に好まれる印象がある。レトルトと缶は今年の新製品だが、粉末箱入りは2011年からの定番、カップは2012年にも一度発売していたとのこと。海老のビスクの濃厚な味わいは、夕食向けのレトルトはともかく朝やランチタイムには少々重い印象がある。レトルトの3種に引き続き、各タイプの海老のビスクを食べ比べてみた。

“海老感”が強いのは粉末箱入りタイプ

写真左から缶、カップ、粉末箱入り、レトルト。メーカー側の説明では、左から右へ進むに連れて海老の風味を強くしたというが……
写真左から缶、カップ、粉末箱入り、レトルト。メーカー側の説明では、左から右へ進むに連れて海老の風味を強くしたというが……

 まずは缶の「プレミアム海老のビスク」だが、スープ自体がさらりとしていてあまり濃厚さは感じない。味はエビというよりオニオンスープに近い。缶はコーンとオニオンコンソメの2種類の既存商品があるが、コーンは小腹満たしの目的で、オニオンコンソメは二日酔いや飲み会の後などに購入されているそうで、どちらも男性が中心とのこと。

 プレミアム海老のビスクは女性層を狙っており、「食事に合わせて飲みやすいようにエビの特徴を出しすぎず、万人受けする味を意識した」(ポッカサッポロ広報)という。リキャップできるボトルは持ち運びの目的のほか、女性が爪を傷めないようにという配慮もあるそうだ。

 カップの「海老のクリーミービスク」はパンが溶け出していることもあり舌触りがかなりもったりしていて、牛乳の風味が強い。粉末箱入りの「海老の贅沢ビスク」は飲み口こそさらりとしているが、トマトなどの野菜と海老の風味がしっかり出ている。一方、夕食向けの高級ラインとして用意されたレトルトの「海老の濃厚ビスク」はスープの粘度こそ高いものの、塩気やエビの風味などはやや薄いように感じられた。

海老のビスクで30代女性をつかんだ

 それにしても、ポッカサッポロが海老のビスクをここまで前面に押し出すのはなぜだろうか。

 「海老のビスクは粉末箱入りの中では3番目に売り上げが大きい」とポッカサッポロ広報は話す。発売当初こそ好き嫌いが分かれる商品だったが、その後競合他社から発売が相次ぎ、インスタントスープの定番として認知されるようになった。現在は粉末箱入りのカテゴリーでコーンポタージュ、クラムチャウダーにつぐ人気商品になっているが、売り上げを引っ張るのは30代女性だという。

 じっくりコトコトの購買層はカップが20代から30代と比較的若いものの、缶は30代から40代、粉末箱入りは40代以上と、比較的年齢層が高かった。しかし、海老のビスクを投入してから、粉末箱入りの購買層が30代女性にも広がったという。

 レトルトのターゲットは一人暮らしの若い女性や二人暮らしの夫婦。そして缶もこれまで獲得できなかった女性層を狙いたいということもあって、30代女性に受けが良かった海老のビスク味を、今年のじっくりコトコトの中心に置いたということだろう。

価格よりブランドとしての価値を追求

 2016年の売り上げ目標はじっくりコトコト全体で前年比100%と決して高くない。実はじっくりコトコトは年々ブランド全体の売り上げが伸びており、2015年は2006年と比較して約220%の販売実積。これにはカップの売り上げが大きく起因しているが、「無駄な出費は抑える一方で、少々高くても質が良いものを消費者が求める傾向に変わってきたのも影響しているのではないか」(ポッカサッポロ)と分析している。

現在はカップ5.5割、缶3割、粉末箱入り1.5割の構成比。「レトルトは1割の構成比を目指す」(ポッカサッポロ)
現在はカップ5.5割、缶3割、粉末箱入り1.5割の構成比。「レトルトは1割の構成比を目指す」(ポッカサッポロ)
陳列棚などで食シーンの提案も行うという
陳列棚などで食シーンの提案も行うという

(文/樋口可奈子)

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