島旅が注目を集めている。1970年代には離島ブームが訪れ、その後、減少傾向にあったが、この数年、“アウトドア島旅”という言葉が見かけられるようになった。

 日本の島は街と海と山が密接しており、少しの移動でさまざまなアウトドア体験ができる。それを生かすべくアウトドア島旅をテーマにした提案が増えてきているようなのだ。

 2009年ごろから登山や山歩きを楽しむ“山ガール”が注目されるようになったが、その後、アクティブに山や海、島を楽しむ女性たちを“島ガール”と呼ぶようになり、東海汽船による伊豆諸島への女子旅や一人旅の観光ツアーを紹介する「島ガール.com」や、近畿日本ツーリストによる「沖縄島ガール」をはじめ、旅行業界ではアウトドアアクティビティを含むさまざまな島旅の提案が登場し、徐々に人気を高めてきた。

 最近では鹿児島県の屋久島環境文化財団が「はじめてのアウトドア島旅」を小学生以上(高校生以下保護者同伴)を対象に開催し、2泊3日のアウトドア島旅体験を提供。また、ダイヤモンド社の定番旅行ガイドブックシリーズ『地球の歩き方』では、2015年発行の『五島列島』を皮切りに、一つの島をまるごと1冊にまとめたガイドブック『島旅シリーズ』を発行。このシリーズはアウトドアだけを紹介しているわけではないが、体験できるアクティビティー、トレッキングコースなどを詳細に解説しており、アウトドア島旅に役立てられるようになっている。

「島旅」をテーマにした雑誌も創刊

『WILD SIDE』創刊号。編集長の大橋保之氏は「海、山、川が近くにあって、アウトドアの楽しみがすべて入っていること。旅情を感じられること。そして、島ならではの生活に触れられること」が島の魅力だと話す
『WILD SIDE』創刊号。編集長の大橋保之氏は「海、山、川が近くにあって、アウトドアの楽しみがすべて入っていること。旅情を感じられること。そして、島ならではの生活に触れられること」が島の魅力だと話す

 そんななか、2017年6月にアウトドアと旅をテーマにした雑誌を地球丸(東京都港区)が創刊した。雑誌の名前は『WILD SIDE』。澄み切った青い海を背景にした創刊号の表紙には「アウトドアの島旅へ」というキャッチコピーが掲げられている。「アウトドアを楽しむにあたり、切っても切り離せないのが“旅”の要素」だと大橋保之編集長は話す。

 「これまで島でのアウトドア・アクティビティをクローズアップする企画はたくさんありましたが、現地までの交通手段や、現地での買い出しや宿までを合わせて旅として紹介する内容はあまり多くなかった」(大橋編集長)という。

誌面では奄美大島、西表島、石垣島といった南の島から、式根島や神津島など東京アイランドまで、各地で楽しむアウトドアトリップを紹介
誌面では奄美大島、西表島、石垣島といった南の島から、式根島や神津島など東京アイランドまで、各地で楽しむアウトドアトリップを紹介

ゴールドウインが石垣島に路面店を出店

 さらに、大手アウトドアブランドも島に注目。石垣島では「ザ・ノース・フェイス」と「ヘリーハンセン」の路面店が今年3月に初上陸。両ブランドを手がけるゴールドウインが初めて、海と山の「リゾートショップ」という新業態でオープンした。

ショップは石垣港から程近いメインストリートにある。島で活躍するアイテムはもちろん、フィールドに関する有益な情報もそろう
ショップは石垣港から程近いメインストリートにある。島で活躍するアイテムはもちろん、フィールドに関する有益な情報もそろう

 同社によれば、2013年に南ぬ島 石垣空港が開港したことで、石垣島の観光客は大幅に増加。また沖縄県が発表している統計によれば、八重山諸島(沖縄本島から400kmで北緯24度に位置する日本最南西端の島々)全域における観光客の入島数は、2006(平成18)年には77万1838人だったのに対し、2016年には124万8079人にまで増えているという(うち石垣島の観光客が123万9244人と99%を占める)。

 「石垣島は海、山、岩場といった多彩な自然環境があって、1年中アウトドアを楽しめる場所です。言い換えれば太陽の照射や紫外線が強いということでもあります。そうなると、UVカット機能付きのウエアの着用がとても大切。加えて台風も多い地域ですから、高機能の防水性ウエアを活用することが、快適な生活につながる。弊社では日常とアウトドアの両方で使える汎用性の高いウエアとギアを、地域の人にも観光客にも提供したいと考えました」と同社の藤井知一氏。今回、出店したのは近年の観光客増を受けて、ビジネス的な勝機を感じてのことなわけだ。藤井氏はまた「会社として『石垣島を含む八重山諸島のクオリティーの高い自然の中でのアウトドアアクティビティを広めたい』という思いがあり、その役割を果たすための出店でもある」とした。今後は地元のガイドクラブと協力し、オリジナルツアーを開発したり、地元産業とのコラボレーションによるオリジナルアイテムの開発・販売なども計画しているという。

 島は手つかずの自然が当たり前のようにあちこちに存在し、その地域にしかない固有種も多く、特有の景観を生み出していることが多い。例えば沖縄本島、佐渡島に次いで面積の広い奄美大島では世界自然遺産登録に向けた取り組みを行っており、先人たちが残してくれた貴重な自然を次世代へつなぎ、各地域でその価値を世界へと発信する動きも見られる。

 都心で生活しているビジネスパーソンにとって、島は訪れるだけで非日常を体験できる、癒やしにあふれた場所の一つだ。近年のアウトドア人気の高まりを受けて、今後もアウトドア島旅に注目した動きが増えていくのではないだろうか。

店頭では、石垣店でしか手に入らない限定モデルを多数ラインアップ。画像は石垣店の緯度と経度をデザインしたアイテム
店頭では、石垣店でしか手に入らない限定モデルを多数ラインアップ。画像は石垣店の緯度と経度をデザインしたアイテム
石垣島にある於茂登(おもと)岳山頂からの眺望。標高は525mで沖縄県最高峰である
石垣島にある於茂登(おもと)岳山頂からの眺望。標高は525mで沖縄県最高峰である

(文/山畑理絵、構成/山田真弓)

山畑理絵(やまはた・りえ)
フリーランスライター/アロマテラピーインストラクター(AEAJ認定)
音楽プロダクションの制作、アウトドアショップの販売員を経てライターになる。のんびり日帰りハイクからテント泊縦走、トレイルランニング、ボルダリング、スキー、キャンプなど、四季を通してフィールド三昧の日々。雑誌「ランドネ」「PEAKS」「山と渓谷」など、アウトドア媒体をメーンにライター活動をするかたわら、AEAJ認定のアロマテラピーインストラクターとして、「山とアロマ」をテーマに神出鬼没なワークショップを展開している。
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