「爆買い」という表現も定着した感のある中国人観光客による大量購入。以前はブランド品や高級家電を連想させる言葉だったが、最近では変化の兆しが表れてきた。ジャンル別で見ると、医薬品や化粧品、生活用品など、比較的安価なものが上位を占めるようになってきている。
低価格商品が人気の理由は、14年秋に施行された新免税制度にある。これまで家電やバッグ、衣料品などに限られていたが、化粧品や薬品、食品などを含め全品目が消費税免税の対象となった。より選択肢が広がった結果、安くて品質の高いメード・イン・ジャパンに、これまで以上に注目が集まるようになってきたのだ。
ヨドバシカメラマルチメディアAkibaの売り上げランキングを見ても、高級品に分類されるものは一部のエステ・美容グッズぐらいで、残りは手頃な価格で購入できるものが中心。特に同店では化粧品の売り上げが飛躍的に伸びている。同店グループリーダーの小林智彦氏は「ネットなどの影響で中国では美容への関心が高まってきており、日本製の質の高い化粧品に注目したのではないか」と推測している。
東急ハンズでは吉田カバンが不動の人気。海外の一流ブランドのバッグと比較し、高品質ながらもリーズナブルな価格で購入できる点が魅力だ。また、これまでの定番人気のステンレスボトルに肩を並べそうなのが、料理を保温したまま保存できるフードコンテナ。飲み物を保温して持ち運べるのならば、次は料理も保温したいというのは自然な流れだろう。
【勝ち組1】小林製薬の戦略は「分かりやすさ」
一方、インバウンド市場を広げるために、メーカー側はどんな戦略を仕掛けているのか。勝ち組といえる2社を取材すると、ヒットの要因は「従来路線の踏襲」と「インバウンド市場の積極的な展開」という、正反対ともいうべき戦略が見えてきた。
まず前者の例から紹介しよう。「神薬12」のうち、実に5商品を占めたことで脚光を浴びた小林製薬。同社の戦略を一言で表すと、「分かりやすさ」だ。パッケージの絵を見れば、その商品が何であるかが一目瞭然。日本語が読めなくても商品概要はつかめるので、外国人観光客も手に取りやすい。
大手があまり手を出さないニッチな市場を開拓しているのも強み。例えば発熱時に額に貼る冷却シートの「熱さまシート」は、同社がこのジャンルの商品の先駆けとなった。ただ、「ニッチな分野にファーストインしたとしても、商品がおろそかではユーザーは振り向かない。あくまでも目が厳しい日本人に売れるものを提案していくことが大事」(小林製薬)という。
ただ、偶然にも中国の生活事情をカバーしたことで、「神薬入り」した商品もあった。それが傷口をカバーして守る「サカムケア」だ。中国では水質事情が悪いところがあり、手荒れの原因にもなっている。「手を保護するためにサカムケアを購入する人が多い」(同社)。
独自性の強い商品づくりという従来路線を進んできた結果、インバウンド市場の開拓にもつながった小林製薬。今年発表した新商品でもその路線は変えていない。「日本人に売れない商品は中国人にも売れない」。このぶれない姿勢こそが、神薬入りという“特需”につながったのだろう。
次の「神薬12入り」は現れるか?
新市場の開拓に定評がある小林製薬が「第2の神薬候補」といえる新戦力10商品を“提案”。「日本人をターゲットに作った商品」とはしながらも、気管支の汚れを改善する「ダスモック」は大気汚染が深刻な中国での需要も見込める。また、中国の健康志向の高まりから、納豆関連のサプリも期待大だ。
【勝ち組2】ネスレ日本は日本らしさをアピール
後者の勝ち組はネスレ日本。ここ数年、不動の人気だったキットカット抹茶味に続く新味として2月に発売したのが「日本酒」味だ。チョコレートとの相性と日本らしさを両立させ、インバウンドを狙い撃ちする。
また、千葉県の酒々井プレミアム・アウトレットにインバウンド向けの期間限定専門店「キットカット プレミアムギフトショップ」をオープン。成田空港から直行の高速バスで15分という距離で、「日本限定のキットカットは全部買える」とうたう。
2~5月の限定だが、2月中旬の週末には1日200~300人が商品を購入。実は訪日外国人はそのうちの1~2割といい、残りは日本人だ。インバウンド向けが日本人も魅了するという、これまでとは逆のパターンになっている点も興味深い。
日本を意識しつつ奇はてらわず
訪日外国人の買う菓子の定番といえばキットカット。インバウンドにウケるためには「話題性」「日本らしさ」を重視しつつ、それでいて「奇をてらわない」のが基本方針。抹茶に続く売れ筋として、ネスレ日本が今年勝負を懸けるのが「日本酒」味だ。また、インバウンド向けの専門店を出すなど、積極的な販促策も行う。
(文/日経トレンディ)
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