スーパーマーケットの鍋つゆコーナーの棚がめんつゆ商品に一新されると、「もうそんな季節か」と夏を感じる人も多いだろう。そんなめんつゆ市場に2016年、異変が起きている。大手メーカーのバラエティーめんつゆのパッケージ写真からそうめんが消え、うどん一色になっているのだ。
キッコーマン食品は2016年2月にめんつゆの新商品を投入。つくりたての味や風味が楽しめる使い切りタイプの「キッコーマン 香り立つぶっかけつゆ」シリーズに加え、「具麺ソース」シリーズからは「あまから肉ぶっかけ」「和風おろし」を発売し、「韓国ビビン麺風」「ごま肉味噌」は具を増量するなどのリニューアルを行った。これら全6品のうち5品のパッケージには写真にうどんを採用している。
2015年に「まぜつゆ」「ぶっかけつゆ」各2品を発売したミツカンは2016年、そのふたつを統一した新シリーズ「まぜつゆ」を2月に発売。こちらもシリーズ4品中3品のパッケージがうどんの写真なのだ。
さらに、うどん専用のシリーズも続々と登場。エバラ食品は2月、「プチッと」シリーズから「プチッとうどんの素」を発売。日本製粉は2月にオーマイブランドから初のレトルトつゆシリーズ「オーマイ うどんつゆかえてみませんか?」を発売している。 また丸美屋は5月、セブン&アイ・ホールディングスと共同開発した「埼玉の味 冷汁うどんの素」を全国のセブン&アイグループ店舗で発売。ヤマキが2011年から展開している個食タイプの「つけめんつゆ」シリーズは、スタート時はうどん1品・中華めん2品で展開していたが、2016年は「つけうどんつゆ」2品と「釜玉うどんつゆ」1品のつけうどん専用シリーズとなっている。
なぜ2016年発売のバラエティーめんつゆは、これほどまでに“うどん押し”なのか。また従来のそうめん向けバラエティーめんつゆとどう違うのか。
「ゆでなきゃいけない」そうめんより、「チンして食べられる」冷凍うどんが人気!?
「ここ2~3年はバラエティーめんつゆの伸びがいったん落ち着いていたが、2015年くらいからまた伸びてきていて、今年の4・5月は前年同月より伸びている」(キッコーマン食品)。同社では特に具麺ソースシリーズが好調で、2016年2月の発売から5月までで、前年比の約2倍を記録しており、今後もさらなる伸びが期待されているという。
パッケージにうどんを採用している理由はズバリ、家庭での冷凍うどんの常備率のアップだという。「調査によって、家庭での冷凍うどんの常備率が上がっていることが分かった。うどんがここ数年で外食店が増えて身近なメニューになっているのに加え、電子レンジで加熱するだけで食べられる冷凍うどんの簡便さが受け入れられたのが要因ではと推測している」(キッコ-マン食品)。たしかに猛暑のなか、大量の湯を沸かしてそうめんをゆでるのは主婦にとってかなりの“苦行”だ。
うどんは家庭での常備率が高い一方、家庭では希釈用のめんつゆで食べている人が大半で、食べ方についてのバラエティー化の提案が多くない。そこに着目したのが日本製粉。「オーマイブランドで培ったパスタソースのノウハウを生かし、うどんに合うバラエティーつゆ『オーマイ うどんつゆかえてみませんか?』を開発した」(日本製粉)という。
エバラ食品もまた、うどんつゆ商品のバラエティーの少なさに着目。「うどんへの需要の高まりが見られている一方、個食に対応した専用調味料は決して多くない状況。当社では2013年8月に発売した『プチッと鍋』で、“人数、シーンを選ばず、いつでも手軽に好きなメニューを楽しめる”という価値を提案してきたが、うどん用調味料としてもこの価値を実現できると考えた」(エバラ食品)。
ミツカンは、麺と具材をつゆで混ぜて絡め、一緒に食べる新しい麺のスタイルとして「まぜつゆ」を提案。近年、チョップドサラダ、油めん、混ぜそばなど、“混ぜる”“あえる”スタイルが人気を呼んでいることに着目したという。「特にうどんに合うように設計しているわけではない」というが、パッケージの写真にうどんを多用しているのは、ほかの理由もあるようだ。
「めんつゆの売り場が立ち上がるのは4月だが、そうめんは季節感が強い商品で、4~6月はなかなか動かない。そうめんほど季節感が強くなく、年間を通して食べられているうどんをプッシュするのは、立ち上げ期の売り場を活性化する意味もある」(ミツカン)。盛夏になればやはり食べやすいそうめんに手が伸び、パッケージにあえてそうめんの写真を入れなくても勝手に売れていくということなのだろう。“立ち上げ期のうどん押し”作戦が功を奏したのか、直近3カ月の売り上げは4品合計で計画比1.6倍程度と好調だそうだ。
各メーカーの“うどん押し”の背景は分かったが、バラエティーつゆとうどんの相性はどうなのか。スーパーで目についたものを買い求め、食べてみた。
これはなにかの間違い!? 少なすぎるつゆの量に動揺!
今回の新商品は1人分の個包装タイプが多い。従来の2~3人用のかけつゆ(200g前後)より量が少ないのは当然としても、予想を上回る量の少なさで、最初に見たとき、「これは何かの間違いでは」とうろたえたほどだ。「これで本当にめん全体に味が絡むのか」と正直不安だったが、どれもつゆの味がかなり濃いめで、全体によくなじませるとちょうど良い量であることが分かった。
特に塩味が濃く感じられたのが、キッコーマンの具麺シリーズ「あまから肉ぶっかけ」。つゆというより濃いめの味付けの具というイメージだが、パッケージ写真通りに卵を絡めてめんとなじませるとちょうどいい味になった。それと対照的に、やや味が薄く感じられたのがミツカンの「まぜつゆ ごま豆乳」。そうめんと混ぜたときにちょうど良い味付けだったので、うどんのようにボリュームのあるめんと絡める場合、やはりつゆはかなり味を濃くする必要があるのだろうと感じた。
今回は、薬味程度の最小限の具で食べ比べをしてみた。そこで気がついたのは、うどんだとめんそのものにボリュームがあるため、具が少なくても満足感が比較的高いこと。改めてうどんがパッケージに使われている商品を見直すと、具のボリュームと種類が少なめになっているものが多い。
つゆにせいぜい薬味程度でシンプルに食べていたそうめんに変化をもたらしたのは、冷やし中華のように具をのせて食べる「ぶっかけ」スタイルの流行だった。(関連記事「夏の食卓を独占!? 『“変化系”冷やしめんの素』が急拡大!」)。暑い季節の調理を簡便に済ませたいという主婦のニーズから生まれたバラエティーつゆ。だが、めんにボリュームのないそうめんだと、結局は具にある程度は手をかけ、ボリュームを出さないと物足りなく感じる。しかしうどんに具入りのつゆを混ぜるタイプなら、薬味程度でも満足感が得られる。それも、メーカーの“うどん押し”の要因の一つかもしれない。
(文/桑原恵美子)