2017年3月に開催された東京モーターサイクルショー。ここでのホンダ(本田技研工業)ブースでのプレスカンファレンスで、バイク業界やユーザーは不意打ちを食らうことになった。「モンキー」の生産終了が発表されたのだ。
50年続いたモンキーが生産終了
モンキーは多くの人に知られた原付(第一種原動機付き自転車、エンジンの排気量が50cc以下)バイクだ。1967年に発売され、2016年末時点の累計生産台数はシリーズ全体で約66万台にのぼる人気車種。それだけに50年も生産が続いたモンキーがなくなるというニュースはファンや関係者にとっては衝撃的なものだった。
背景にあるのは、2016年にスタートした新しい排出ガス規制の「平成28年排出ガス規制」。かなり厳しいものであることは知られていたが、その影響でまさかあのモンキーが生産終了になるとは、思われてはいなかった。これをきっかけに、新しい排ガス規制が急に生々しく、現実味を帯びて伝えられるようになったり、「原付バイクはなくなるのでは?」とあちこちでささやかれ始めたのである。
3度目となる厳しい二輪の排出ガス規制
二輪車の本格的な排出ガス規制が始まったのは1998~1999年のこと。問題になったのはベンゼンだ。発がん性があるといわれるベンゼンは、2スト(ストローク)エンジンから多く排出される。これを機にハイパワーで隆盛を誇った2スト・スポーツモデルが一斉に姿を消した。
一方、4ストモデルが大きく影響を受けたのは、2006~2007年に施行された「平成18年規制」(関連記事「二輪の生産終了が止まらない~排出ガス規制・騒音規制の影響」)だ。HC(炭化水素)などの85%低減が求められる非常に厳しい内容で、モンキーのような小型のエンジンでも対応するためにキャブレターをインジェクション(燃料噴射)に置き換えることを余儀なくされた。もちろん排出ガスをきれいにするのは触媒だが、それを正しく働かせるためにインジェクションによる正確な燃焼が必要になった結果、キャブレターが姿を消したのだ。
今回の平成28年規制は「第3次規制」とも呼ばれる3回目の大きな規制であり、主な内容は一酸化炭素(CO)は1.14g/km、炭化水素(HC)は0.03~0.17g/km、窒素酸化物(NOx)は0.07~0.09g/km(WMTCモード※後述)以下というもの。これは排出物を従来のおよそ半分に減らしなさいという意味になる。
これに対し、「クリアできなくはありませんが、かなり厳しい規制だと言えます。古い設計のエンジンでは燃焼を緻密にコントロールできないものもありますから、再設計なども必要になります」(ホンダ 広報担当)
つまり、規制への対応を検討した結果、再設計のコストに見合わないと判断されたモデルは、姿を消すことになるわけだ。
規制強化は二輪車がグローバル化したから?
もう一つ忘れてはならないのが、2012年に施行された「平成24年規制」で、これは規制そのものより検査方法の変更が大きい。それまでの日本では、排出ガス規制は独自の方法で行っていたが、平成24年規制から国連で策定された、世界技術基準を満たす排出ガス測定モード「WMTCモード」(Worldwide Motorcycle emissions Test Cycle モード)を採用。これにより輸出する国や地域ごとに仕様を変更する必要がなくなったり、少しの改良で対応可能になり、バイクのグローバル化が前進した。
「平成28年規制は、2016年欧州の『EURO4』とほぼ同じものです。グローバル化には必要な規制だといえなくもありません」(ヤマハ 広報担当)という面があるのだ。
騒音規制も欧州と足並みをそろえているのでこの規制さえクリアすれば、ほぼそのままEURO4対応モデルとしてかの地でも販売できることになる。従来は欧州仕様と国内仕様では出力が大きく違うモデルもあったが、この差が少なくなってきているのだ。
2020年には「EURO5」の導入も控えており、日本でも「第4次規制」として導入される予定になっている。EURO5では粒子状物質(PM)の規制も加わるなどさらに厳しく、もはや四輪車の排出ガス規制とほぼ同じ水準となる。しかしそれこそが二輪車が目指すべき一つの到達点とされている。
つまり、ホンダのモンキーをはじめ、今、生産終了が伝えられるモデルは、製品のグローバル化を目指すメーカーが、EURO5を視野に入れて出した取捨選択の結論と考えたほうがいいだろう。
生産終了モデルの見分け方
今回の平成28年規制は原付だけでなく、すべての二輪車に関係している。いったいどのモデルが生きながらえるのか、気になるところだ。
ちなみに平成28年規制は新型車には2016年10月1日から適用されており、継続生産車や輸入車でも2017年9月1日から適用される。つまり、2016年10月以降に発売された新しいバイクは、すでに規制をクリアしているわけだ。一方、継続生産車で今年9月1日までにこの規制をクリアできないモデルは、モンキーのように「8月いっぱいで生産終了」となる。
もちろん生産を休止した後で、規制をクリアした新型が発売される可能性もある。例えば平成18年規制の際は、モンキーやヤマハの「SR400」、カワサキの「W800」などがこの方法を取った(対策前はW650だった)。
そのバイクが規制に対応しているかどうかの見分け方は、実は簡単。車やバイクなどには名前以外に「型式」(型式認定番号)と呼ばれるモデルを特定するための記号が付いている。国内の二輪はこの型式に、クリアしている排出ガス規制が分かる認識記号を付けるようになった。だから型式を見れば一目瞭然だ。
例えば、ホンダの新しい「CBR250RR」の型式は「2BK-MC51」。この1文字目の「2」は今回の平成28年規制をクリアしていることを示している。つまり、このまま販売が続けられるはずだ。少し前のモデルを見てみよう。250ccのロングセラーモデル「VTR」の型式は「JBK-MC33」だ。1文字目の「J」は平成18年規制を意味する。つまり、VTRはこのままでは継続生産できないから、生産を終了するかエンジンなどを設計し直す必要がある、というわけだ。
ちなみに、型式の2文字目の「B」はハイブリッドではないガソリン車(もしくはLPG車)、3文字目の「K」は軽二輪車(250ccクラス)を意味している。その後ろの「MC51」や「MC33」というのがメーカーが付けた記号になる。
型式からいろいろなことが分かるこうした「識別記号」は、国内メーカーの車両なら二輪だけでなく四輪も同じものが使われている。詳しくは国土交通省のサイトから識別記号一覧がダウンロードできる。
情報は販売店にあり
各メーカーのサイトを見てみると、すでに生産終了を宣言されたモデルが多いことに気づく。先に述べたように、排出ガス規制に「対応できる・できない」という話ではなく、生産終了とされたモデルは「対応させるとコストが上がり、ビジネスが成立しない」と判断されたと理解したほうがいいだろう。
また規制は「生産してはいけない」というもので、販売できないわけではない。だから生産終了後も在庫分の販売は続けられる。しかし在庫がいつまであるかは分からないから、欲しいモデルがあれば、早めに買っておいたほうがいいということになる。
実はどのモデルが終了するかという情報は、バイク雑誌の編集部でもメーカーからあまり教えてもらえない。ニューモデルに関する情報も同様だが、メーカーの販売計画などに直結するものだから、これもしかたのないところ。
こうした情報を、意外にたくさん持っているのがバイクの販売店だ。メーカーとしては商品を売ってもらわなければならない大切な“お得意様”なのだから、先行して情報を流すことも少なくない。気に入っているモデルがどうなるか心配なら、販売店を訪れてこっそり聞いてみると教えてもらえることもある。
125ccがトレンドに? 免許が緩和される可能性も
また今後、変化すると思われるのが125ccクラスだ。「原付二種」や「小型自動二輪」とも呼ばれているバイク。コンパクトながら十分なパワーを持ち、2人乗りも可能。自動車保険のファミリーバイク特約が使えるため、保険代が安く抑えられるなど、メリットの多いクラスだ。実際、通勤などに使われているスクーターの多くが125ccクラスである。
しかもこのクラスの免許が緩和される可能性がある。日本自動車工業会では2010年に「『原付二種』 免許取得時の負担軽減を!」という提言をしているが、警察庁運転免許課が今年度、排気量125ccまでのバイクを運転できる小型限定普通二輪免許の取得負担軽減に向けた調査研究を実施するなどと報じられているのだ。実は現在、教習所などで125ccクラスの免許を習得する場合、最短で3日必要とされているが、これを2日間で終了するといった内容。2日で取得できるとなれば、週休2日のビジネスパーソンが取りやすくなる(BIKE LOVE FORUM参照)。
こうした状況を踏まえ、後編では今回の規制で、なぜ原付がなくなるといわれているのかを考えていこう。
(文/西尾 淳=WINDY Co.)