家庭用EMS機器市場が再び盛り上がっている。EMS(Electric Muscle Stimulation)機器は電気刺激によって直接筋肉を動かすというもの。十数年前には「家庭用ダイエットマシン」としてブームになり、ウエストのサイズダウンを目的として購入する人が多かった。体に装着するだけで、運動することなくやせられるとうたっているものもあり、「ながらダイエット」とも呼ばれてきた。だが、ここ数年は積極的にトレーニングをする人にも支持されているという。
今回のブームを牽引しているのが、2015年夏に発売された「SIXPAD(シックスパッド)」だ。特殊なジェルシートを貼り付けた機器を体に密着させて使用するもので、6枚のシートに分かれた腹筋用と、2つのシートでウエストや腕など鍛えたい部位を挟み込むパーツ用の2タイプからスタート。2017年4月にはベルト式の3タイプを追加し、同時に東京・表参道に旗艦店をオープンした。さらに、全国の家電量販店や生活雑貨店などにもショップインショップを約30店舗展開している。
販売台数は開示していないが、「年々売り上げは伸びている。また、自社で行った調査によると商品認知度もどんどん上がってきている」と、製品を手がけるMTGのSIXPAD PJ部広報宣伝グループの川口美幸グループリーダーは話す。
やせるのではなく「引き締めたい」女性が増加
ベルト式の機器をウエスト部分に巻いて筋肉を鍛える製品は多い。だが、これらの製品とシックスパッドの大きな違いは「ウエストのサイズダウンが目的ではなく、筋肥大を目的とした製品であると訴えたこと」(川口グループリーダー)。既存の製品はどちらかというと運動があまり得意でない人が使うイメージがあった。だが、シックスパッドは「体を鍛えた結果、引き締まってやせる」という訴求で、運動が好きで体を鍛えたいという人に向けてスポーツジムでの宣伝活動を行った。
ユーザー構成比は男性6割、女性4割。筋肉の肥大をうたった商品が女性からの支持を得たのはなぜなのか。
「ただやせたいというだけでなく、引き締まった健康的な体を目指す女性が増えてきたのではないか」と、川口グループリーダーは分析する。2010年前後から加圧トレーニングがブームになり、女性がジムに通って体を鍛えることが珍しくなくなった。さらに、雑誌やテレビなどで「健康美」を売りにする女性タレントやモデルが増え始め、女性誌でも体幹や筋肉を鍛える特集が組まれるようになった。そんななかで、腹筋専用だけでなく、腕や足にも使えるパーツ用をそろえるシックスパッドが女性の支持を得たのだろう。実際にパーツ用は女性を中心に売れているそうだ。
女性向けのEMSも登場
盛り上がる女性向けEMS市場には、あのライザップも参入。腹筋専用の製品で女性をターゲットにしたEMS「3D Shaper(スリーディー シェイパー)」を2018年3月に発売した。形状はシックスパッドの腹筋専用に似ているが、中央の部分が横長になっているのが特徴だ。「女性らしいウエストのくびれを作るため、サイド部分を長く設計した」と同社ブランド統括部PRユニットの成清佑平氏は話す。
現在、約10万人いるライザップ会員のうちの約6割が女性。会員から集めたデータを分析するなかで、「腹筋は鍛えたいが、ウエストにくびれを作りたい」という人が多かったことから、同製品を開発した。発売から1カ月で1万台以上と売れ行きは好調。ライザップといえば徹底した食事管理で知られるが、日々のトレーニングでも鍛えにくい部分をEMSに頼ろうと考えた人も多かったのだろう。
取り扱いは自社のECサイトと一部の家電量販店のみ。一般向けの広告は特に出していないが、雑誌に掲載された情報や口コミなどをもとに会員以外が購入するパターンも増えてきているという。今後は販路の拡大も検討している。
女性が筋肉を鍛える理由について、「体を鍛え上げて『ムキムキ』になるのではなく、健康的でしなやかなボディラインの『ヘルシー美人』を目指したいという人が増えている」と成清氏は話す。MTGと同様に、タレントやモデル、雑誌の特集の影響は大きいと考えているそうだ。
ライザップは2017年11月に暗闇で行うフィットネス「VIVANA(ヴィヴァーナ)」とホットヨガの「LIPTY(リプティ)」、2018年5月に「RIZAP WOMAN(ライザップ ウーマン)」と、女性専用の3ブランドを立ち上げた。「女性の健康美への意識は年々高まっている」(成清氏)。女性をコンセプトにした製品開発は自然な流れだったのかもしれない。
初出時には「女性専用」としておりましたが、正しくは「女性向け」でした。また、「取り扱いは自社のECサイトのみ」としておりましたが「取り扱いは自社のECサイトと一部の家電量販店のみ」でした。お詫びして訂正いたします。[2018/06/19 16:56]
背中や二の腕などパーツ別に鍛えられるEMSジムも登場
EMSを取り入れたトレーニングジム「Evolv(エヴォルブ)」は、会員の約8割が女性だ。最も多いのが30〜40代。「まさに想定したターゲット通りだ」と運営元のベンチャーバンク Evolv事業部の宮坂英之氏は話す。
欧米ではEMSを使ったトレーニングがすでに一般的になっているが、そのほとんどがパーソナルだという。だが、Evolvは最大8人でのグループレッスン制だ。「パーソナルはレッスンが単調になってしまう。グループレッスンであれば仲間との一体感で楽しくトレーニングできる」(宮坂氏)。ヨガやピラティスなど、女性限定で複数でのトレーニングを行う業態は多い。女性がグループレッスンに親和性があることも、女性会員を多く獲得できた理由だろう。
さらに、二の腕の引き締めや背中を美しく見せるコースなど、気になるパーツごとに鍛えられるとうたっていることも女性の心をつかむ一因となったのではないだろうか。
(文/樋口可奈子)