2016年8月5日に開幕するリオデジャネイロ五輪。その開催地のブラジルでは、2015年以降、蚊が媒介するジカウイルス感染症(ジカ熱)が流行し、1年足らずの間に頭蓋が異常に小さく、脳の発達が不完全な「小頭症」の新生児が約4000人も誕生したことが報告されました。これに対し、米疾病対策センター(CDC)は2016年4月、ジカウイルスの母子感染と新生児の小頭症など先天性障害を起こすという指摘を正式に発表しています。
 もちろんジカ熱は妊娠中の女性、あるいは妊娠を予定している女性にとってとても恐ろしい感染症ですが、女性だけが気を付ければ良い感染症ではありません。また、蚊が媒介する深刻な感染症はジカ熱だけではなく、デング熱、チクングニア熱といった近年アジアや中南米を中心に流行しているものから、ウエストナイル熱、黄熱、リフトバレー熱、西部ウマ脳炎、東部ウマ脳炎、ベネズエラウマ脳炎、マラリア、そして日本脳炎まで様々です。
 こうした感染症の中には有効なワクチンが存在せず、予防は蚊に刺されないようにする「防蚊対策」のみというものもあります。ところが日本製の虫除け剤は、海外製に比べて効果が薄いといわれています。
 なぜ、違いがあるのでしょうか。
 蚊が増えるこれからの季節の対策を含め、ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長、久住英二先生に解説していただきます。

千葉県で0歳児が日本脳炎に感染! なぜ?

 2015年9月、千葉県北東部に住む0歳の男児が日本脳炎に感染したことが発表されました。千葉県内での発生は25年ぶりで、発熱や意識障害、脳神経マヒの症状が出て入院。命に別条はなかったといいますが、千葉県では虫除け剤の使用やワクチンの予防接種を呼びかけていました。

 実は千葉県の症例は、特殊なケースではありません。

 日本脳炎は、日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症するとされる重篤な脳炎。感染経路は蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し、その後ヒトを刺すことによって起こるとされています。

 そうはいっても、日本のブタは安全なのでは? と思うかもしれませんが、日本には養豚場が数多く存在していますし、こうしたブタの中には日本脳炎のウイルスを保有している個体もいるわけです。国立感染症研究所 感染症疫学センターの「ブタの日本脳炎抗体保有状況」によれば、2015年は7月下旬の時点で香川、高知、佐賀、長崎で調査したブタの100%が、日本脳炎のウイルスの抗体を保有していました。さらに9月下旬になると、茨城で100%、千葉で90%のブタがウイルスの抗体を保有していると報告されました。

 「ブタが日本脳炎になったところで、ヒトは日本脳炎のワクチンを接種しているから、感染の心配はないのでは?」と思うかもしれませんが、日本脳炎のワクチンが接種できるのは、国内では3歳以降です。つまり、0~2歳までの子どもは、ワクチンによる予防ができません。さらに成人の中にも地域や年代によってワクチンを接種していない人がいます。

 現在、ジカ熱やデング熱、チクングニア熱など“輸入メインの感染症”に注目が集まり、対策方法が論じられていますが、実は昔からある日本脳炎についても、蚊が原因ウイルスを媒介する以上、蚊に刺されないようにする「防蚊対策」は必要なのです。

「ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2015年速報第15報-(2015年10月29日現在)」(出典:国立感染症研究所)
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