ザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド―50周年記念エディション-』が5月26日に発売された。6月5日付のオリコン週間CDアルバムランキング(集計期間5月22日~5月28日)では、7位にランクイン(洋楽アルバムでは1位)。同バンドが持つ洋楽グループによるアルバムトップ10獲得作品記録を通算22作に更新した。『サージェント・ペパーズ』は、ロック史上の金字塔とも呼ばれる名盤であるとはいえ、ヒット曲だけを集めたベスト盤ではない。衰えを知らないビートルズ人気に驚くばかりだ。

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 今回の『サージェント・ペパーズ』は、1967年のオリジナル版の発売から50周年を記念して企画された。同時にオリジナルの4トラックのテープ音源を、新たにミックスダウンし直して(リミックスして)いる。ミックスダウンとは、各トラックに録音されたボーカルや楽器などの音源を、音量やバランスなどを調整して、一つの楽曲にまとめる作業。ザ・ビートルズのほぼ全作品をプロデュースしたジョージ・マーティンの息子ジャイルズ・マーティンらがリミックスを手掛けたことでも話題となった。

パッケージとしては、リミックスされた『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド[UICY-15602]』(2808円:税込み)が基本で、これにアルバム13曲の未発表アウトテイクを含む18曲を収録したCDが追加された『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド【2CD】[UICY-15600/1]』(3888円:税込み)、4枚のCDに加えてDVD、ブルーレイが収容された『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド【スーパー・デラックス・ボックス・セット】【立版古封入】【完全生産限定盤】[UICY-78342]』(写真、1万9440円:税込み)などがある。『サージェント・ペパーズ』立版古50周年エディションは、日本盤のスーパー・デラックス・ボックス・セットだけに封入されている
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これが『サージェント・ペパーズ』立版古50周年エディション。上面には50周年記念のマークが貼られている

1967年に登場した世界初の“コンセプトアルバム”

 改めて説明する必要もないかもしれないが、『サージェント・ペパーズ』を聴いたことがない読者のために、その概要を説明しておこう。

 『サージェント・ペパーズ』は、1967年6月に発売されたザ・ビートルズの8枚目のオリジナルアルバム。これがザ・ビートルズの、そしてロックの歴史にとって重要な作品となった理由は、世界初の“コンセプトアルバム”といわれているから。アルバムに収録された複数の楽曲が一つのコンセプト(概念・構想・演出)を作り出しているのだ。

 『サージェント・ペパーズ』の場合は、ザ・ビートルズが演じる架空のバンド「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のライブを再現するという演出がなされている。アルバムは、ライブに訪れた観客の喧騒から始まり、メンバー紹介や観客の拍手なども収録されている。こうした演出は当時としては斬新で、人々を驚かせたに違いない。148週間、英国のチャート内にとどまり続けた事実がそれを物語っている。そして、ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイムベストアルバム500の見事1位に選ばれるなど、ロック史上で最も重要な作品の1つになった。

 たくさんの有名人・著名人が並ぶジャケットのデザインも斬新だった。当時のサイケデリックムーブメントの影響を受け、カラフルな軍服を着たザ・ビートルズの4人の周囲には、マリリン・モンローやカール・マルクス、アルベルト・アインシュタインなどが並んでいる。また、ジャケットの裏面には、歌詞が印刷されているのだが、これもザ・ビートルズが初めて。それまで英国や米国では歌詞を購入者に印刷物として提供するという概念がなかったという。

 今回の50周年エディションもしくはニュー・ステレオ・ミックス『サージェント・ペパーズ』を試聴してみると、ボーカルや楽器のそれぞれの音がきちんと聴こえるのはもちろんだが、音全体が前に向かってくる印象を受けた。というのも、オリジナル版や2009年に発売されたリマスター版を聴くと、音が右側に集まっている。正直なところイヤホンで聴くと最初は少し違和感がある。50周年エディションもしくはニュー・ステレオ・ミックスでは、この右側集中が軽減されており、かなり聴きやすい。

 ユニバーサル ミュージックのビートルズ担当である多田行德さんは、「今回のリミックス版は今の人にも聴きやすいと思いますよ」と話す。「うち(ユニバーサル ミュージック)の若い社員にもかなりハマっている人がいます」とも。

ネットでリアルでザ・ビートルズを伝える!

多田行德さん
ユニバーサル ミュージック合同会社 USMジャパン 制作1部 主任
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 音楽の聴き方が50年前とは大きく変わった現代、若い世代にザ・ビートルズの魅力をどのように伝えているのだろうか? 以前なら、思春期を迎えると洋楽に興味を持ち、その結果ザ・ビートルズを聴く――という流れもあったが、現在ではこの方程式は成り立たなくなっている。おそらく親の影響でザ・ビートルズを聴く人も減っているだろう。

 そこで多田さんのチームは、今回の50周年エディションの販促活動でも、コアのファンと同様に若い世代にもザ・ビートルズを知ってもらうマーケティングを展開している。まずコアなファンには、音楽専門誌や新聞への広告出稿をメインにマーケティングを行った。4月6日の朝日新聞にはカラーの全面広告を掲載。その広告の写真がネットにアップされるなど、話題になった。

 一方、若い世代へのマーケティングでは、やはりネットが重要なメディアになる。すでにApple Musicなど月額定額制の音楽配信サービスでもザ・ビートルズは配信されている。以前と比べてザ・ビートルズに触れる機会は確実に増えている。

 SNSによる拡散にも力を入れている。実はザ・ビートルズには、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムのすべてに公式アカウントがある。最近は『サージェント・ペパーズ』の録音風景などを投稿して、フォロワーを増やしている。SNSのなかでもインスタグラムは、フェイスブックなどに比べて若い世代が活用しているとされているが、そのインスタグラムですでに100万人以上のフォロワーを集めている。「SNSでポールが映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の最新作に出演するニュースを投稿したら、瞬く間に“いいね”が押されて拡散してました。SNSによる拡散は、必ず若い世代に刺さっている」と多田さんは実感している。

 もちろんネットだけでなくリアルも大切にしている。50周年エディションの発売に合わせて、東京・渋谷と大阪・梅田に期間限定(6月4日まで)の「ザ・ビートルズ オフィシャル・ポップアップ・ストア」をオープンした。販売するアイテムはTシャツやトートバッグなどで、若い世代にも十分アピールできるデザインとなっている。「偶然通りかかった方にビートルズとの出会いの場を提供し、ファンになってもらいたい」と多田さん。

 このほか地道だが、日本の若いバンドにザ・ビートルズの魅力を伝える活動も続けている。バンドのファンがザ・ビートルズに興味を持ってもらえれば、ファン層の拡大につながるのは間違いない。50周年エディションの特設サイトには、著名人のコメントを紹介するコーナーがあり、「THE ALFEE」の坂崎幸之助さんらに加えて、バンド「lovefilm」の石毛輝さん(1984年生まれ)、女優の杏さん(1986年生まれ)らがコメントを寄せている。今後特設サイトでは、若い日本のバンドがザ・ビートルズについて話す対談などを掲載予定という。

 多田さんは「僕たちは、ザ・ビートルズの魅力をコアなファンだけでなく若い世代に伝えるのも大切な仕事だと思っています。さらに言うなら、ザ・ビートルズが活躍していた時代そのものを販促活動を通じて伝えたいと考えています。今回のアルバムは、50年前のものですが、何か熱く訴えるものが必ずあります。ぜひとも50周年を機にザ・ビートルズを耳にしてほしいです。ジャケットを含めたアルバムの姿も目にしてほしいです!」とプロモーションの目標を語った。

 では、若い世代は現在、どのようにザ・ビートルズと出会い、そして受容しているのか? ミュージシャンの吉田省念さん(1980年生まれ)と小説家の滝口悠生さん(1982年生まれ)に話を聞いてみた。