仕事にもプライベートにも「ストレス」はつきもの。とりわけ年齢を重ねて責任ある立場になるほど、難しい課題に向き合う機会が増えるもの。過剰なストレスに押しつぶされ、本来の実力を発揮できなくなることもあるだろう。しかし、そんなストレスに対処し、逆にパワーに変える方法がある。オリンピック選手など強い緊張にさらされるトップアスリートも取り入れている「コーピング」というスキルだ。ソウル五輪シンクロ・デュエット銅メダリストであり、現在はメンタルトレーニング上級指導士、IOC(国際オリンピック委員会)マーケティング委員として活躍する田中ウルヴェ京さんに教えていただく。

ストレス過多の時代、コーピングで建設的に解決策を見いだせる人に

メンタルトレーニング上級指導士としてトップアスリートを指導する田中ウルヴェ京さん
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 あなたは何をストレスと感じるだろうか。「責任を取らない上司にイライラ」「キツい同僚の言い方にオドオド」など、他人の言動に心をかき乱されることは少なくない。人間関係以外にも、難しい目標を設定されたり、希望しない部署に異動になったり、ストレスの原因は外から突然やって来ることが多い。そして、責任感の強い人ほど逃げ出すこともできずに苦しむことになる。

 しかし、ストレスを消し去ることができなくとも、「対処」を変えれば感じ方を変えられることも多いという。

 「“レジリエンス”という言葉を聞いたことがありますか。『心のしなやかさ』などと訳されることも多く、ストレス対処能力に優れている状態です。これは決してストレスを感じないという『鈍感さ』ではありません。課題設定の無謀さも上司の無責任さも認識したうえで、目の前にある状況を論理的に捉え、建設的な行動を選べる対処(コーピング)能力。すなわち『心のスキル』が高いことを表しているんです」

 なにかストレスとなる刺激があると、その反応は感情や身体にすぐに結びつくと考えがちだ。しかし、その間にある「評価」次第で、感情や身体の反応は大きく変わる。刺激に対する評価が論理的、肯定的、建設的であれば、刺激をストレスと感じずに済むだけでなく、課題解決や成長のための行動に変容させることができる。つまり、刺激を受けている状況自体をパワーに変えられる可能性があるというわけだ。刺激から反応までの一連の経過を感情からトレースし、対処することが「コーピング」なのである。


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 コーピングは、そもそも「対処“行動”スキル」なので、当然、考え方だけでなく行動にも影響する。例えば、明日は重要なプレゼンだと想像してみよう。急なプレゼンで十分な準備ができていないにもかかわらず、上司からはプレッシャーをかけられているという状況。さて、あなたならどう考え、どう行動するだろう。

[1]「できるところまででも準備しよう」と考え、時間を決めて集中する。
[2]「プレゼンが失敗したらどうしよう」など、モヤモヤと想像して眠れない。
[3]「どうにかなるだろう」と前向きに考え、何もやらずに寝てしまう。

 「アスリートもよく似た状況に陥るんですよ。明日が大切な試合なのにやるべきことができていない。その際、[2]のように悶々とする人もいれば、[3]のようにストレスとも感じずにいる人もいます。しかし[3]は一見前向きに見えますが、問題を直視せずに運に頼っているだけとも言えます。ビジネスも試合も成功するには、とにかく『事前準備が整っていること』に尽きますよね。もちろん数日前に準備が整っていることが望ましいですが、どんなものにもハプニングやミスはつきもの。そのときに諦めずに集中して準備に取り組む[1]が妥当と言えるでしょう」

 しかしながら、客観視すれば最適な対処法が分かるとしても、実際に遭遇すると「不安で眠れない」「投げ出して寝てしまう」もありがちなこと。分かっていてもできないのはなぜか。原因として無意識の「考え方のクセ」があるという。