業績好調な焼き鳥チェーン「鳥貴族」に続けとばかりに、“焼き鳥居酒屋”が急増。大手飲食も続々と参入し、店舗数を伸ばしている。「白木屋」「魚民」「笑笑」などを展開するモンテローザグループ(東京都武蔵野市)は2016年7月に「豊後高田どり酒場」をオープンし、全国に約50店舗を展開している。同じく2016年7月には、ワタミ(東京都大田区)が新たな焼き鳥店「三代目 鳥メロ」を3店同時オープン。現在63店にまで伸ばしている。
また2016年10月には「塚田農場」「四十八漁場」などを展開しているエー・ピーカンパニー(東京都港区)が、新業態1号店「やきとりスタンダード綱島店」をオープン。半年間で神奈川県内に4店舗、都内に2店舗展開しており、短期目標として首都圏100店舗、中期目標として全国300店舗を目指しているという。さらに同月、東京や千葉で3業態17店舗の飲食店を展開している「そら」(千葉県船橋市)が串焼き専門店「うっとり綱島」をオープンし、神奈川県にも拡大。
「豊後高田どり酒場」は全品280円均一価格、「三代目鳥メロ」はアルコール飲料が1杯199円と、それぞれインパクトのある価格設定を売りにし、店舗数を拡大している。それに対して、新興勢力の「やきとりスタンダード」、出店エリア拡大中の「うっとり」はどのように対抗するのか。
やきとりスタンダードは本格的な焼き鳥が1本120円前後
やきとりスタンダードの売りは、本格的な焼き鳥が1本120円前後の手ごろな価格で食べられること。自社のメイン業態「塚田農場」の平均客単価が4000円前後なのに対し、やきとりスタンダードは2000円~2500円前後。「塚田農場は30代以上のビジネスパーソンが中心で、3~4人のグループ利用が多い。しかし昨今の“ちょい飲み”ニーズに対応し、カジュアルな価格で高品質な焼き鳥を楽しめる業態開発も必要だと考えた」(同社)。炭火焼きが看板商品の塚田農場ではかみ応えのある地鶏を使っているのに対し、やきとりスタンダードでは地鶏ではなく焼き鳥に適した軟らかい肉質の鶏を使用している。そのことも、低価格を実現できた理由のひとつだという。
また子育てファミリーや単身者の中食(持ち帰り)需要に対応するため、テイクアウトにも力を入れている。「家飲みを楽しむ層が増え、それにつれて中食のクオリティも上がっている。『子育て中で外出しにくいが、子どもが生まれる前に通った居酒屋の料理が食べたい』というニーズにも応えるため、店内で食べるものと同じクオリティーで楽しめることを重視している」( 同社)。
「うっとり」は盛り上げ上手で女性好み!?
やきとりスタンダードとほぼ同じ時期に同じ綱島にオープンしたのが、「うっとり綱島」。運営会社のそらは創業以来11年間、千葉県に特化して飲食業を展開。各店ごとに異なる業態で展開しており、綱島はワインを充実させた新業態だという。
同店を利用した印象は“盛り上げ上手”。カウンターの前には寿司店のように新鮮なネタがガラスケースに入っていて、焼く前におすすめの素材を取り出して見せてくれる高級店風の演出。卓上でバーナーを使って明太子を炙るなどインパクトや遊び心のあるメニューが多く、演出ばかりでなく味も良かった。また予約すると樽出しスパークリングワインを乾杯用にサービスで出してくれたり、スパークリングワインを注文するとチーズがおまけについてきたり、会計を済ませたあとにヤクルトを土産にくれたりと、“サプライズプレゼント”がびっくりするほど多かったのも印象的。スタッフもフレンドリーで、食と同時にコミュニケーションやサプライズを重視していることが感じられた。「本格的な焼き鳥を値段を気にせずがっつり食べたい」という男性にはスタンダード、(焼き鳥を食べつつ、にぎやかに盛り上がりたい)女性グループには「うっとり」が受けそうだと感じた。
また従来のガード下の焼き鳥店はビジネスパーソン一色というイメージだったが、どちらの店でも共通していたのが、客層の幅広さ。2店ともファミリー、カップル、男性グループ、女性グループ、シニアと実にさまざまで、特に小さな子ども連れの若いファミリー客が目立った。ガストやサイゼリヤなどがアルコールを安く提供し出したことで「ファミレス飲み」も流行しているが、やはり若い母親も、たまには“外で飲む”雰囲気を味わいたいのだろう。カジュアルな雰囲気だがよく見るとオシャレで、価格も手ごろ、大人も子供も好きなメニューが多いことから、こうした格安焼き鳥居酒屋が新たなファミレスとして若いファミリー層を取り込んでいるのが感じられた。
(文/桑原恵美子)