『火花』『君の名は。』のように話題性と共感を得れば売れる?

 書籍はこの漫画に加え、さまざまなシチュエーション(例えば「突然涙が出る」とか「動けない」とか)とその対策(どこがおかしいのか、すぐにすることとは何か)などを示す漫画と、「おしえて!結城先生」というQ&A式のコラムをメインとしている。特に冒頭の漫画の内容はなるほどと思う部分が多く、「つらいけど辞められない」と思い込んでしまっている、若い世代には特に響くことだろう。しかしすでにこれだけリツイートされ、閲覧された漫画をあえて書籍化したのはなぜだろうか。

 あさ出版の担当編集者、淡路勇介氏は「私自身は“死ぬくらいなら、辞めたらいいのに”と思っている側でした。ところが漫画を読んで、未来の自分が同じ状況になるかもしれない、友達や大事な人がこうなるかもしれないということにゾッとした」と話す。過労自殺も誰かの命が犠牲になるたびに話題になるだけで、忘れられてまた犠牲が出て…ということが繰り返されるのではないか。ツイッター上で話題になって終わりではなく、書籍として残したいと考え、汐街氏に連絡をしたという。

 現在28歳の淡路氏は、「書籍化は自分と同世代の若い世代に届けるためでもあります。お笑いコンビ・ピースの又吉直樹の『火花』などもそうですが、自分たちの世代は、話題になったときと、強く共感したときにお金を払う傾向があるのではないかと感じていました。実際、AKB48のCDを何枚も買ったり、『君の名は。』を何回も見に行ったりする人が周りでは多い」と話題性と共感で今回の書籍も手に取ってもらえると考えたと明かす。

 一方、汐街氏のもとには書籍化の話が合計3社から来たそうだが、一番早く、すぐに話が進んだことから同社での出版を決めた。

 ただしもとは8ページしかない。そこで淡路氏はリアルな事例を入れた漫画のあとに、具体的な行動の指針になったり、救いになったりする内容を入れるために、精神科医のゆうき氏に執筆協力、監修を依頼した。汐街氏は「つらい話だけを描くと、読む人が余計につらくなる可能性もあるため、専門家の力を借り、家族が気持ちに寄り添っていくためのきっかけの本にしてもらいたいとも考えた」という。

 もう一つ気を付けたのは、「なるべく密度が低い、サラサラとした絵にしようということ」だと汐街氏。疲れている人にとって、密度の高い書籍は読むのもつらいからだという。

 また体験談である「実録! こうしてブラックな状況を抜け出しました」では、「つらい状況から抜け出すことに成功した人の例が載っていたとしても、それが有名人などの特殊なケースしか載っていないと“自分とは違う”と思ってしまう」(汐街氏)。ただつらいだけの状況を取り上げるのではなく、どうやってつらい状況から抜け出したのかを合わせて紹介。またデザイナーでフリーランスに転身したなどといった特殊な職業の人の話だけにならないようにし、より多くの人に自分事として捉えられるようにしたいと気を配ったそうだ。

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