映画のDVD・ブルーレイに収録される特典映像や、ビジュアルコメンタリー(映像解説)&オーディオコメンタリー(音声解説)などの特典が、年々すごいことになっている。

 例えば、2017年11月に発売された『銀魂』のブルーレイのプレミアム・エディションには、メインキャラクター15人それぞれのメイキングとインタビュー映像、未公開シーンやNGシーンなどを含む4時間を超える特典映像を収録。なかでも主演の小栗旬と福田雄一監督によるビジュアルコメンタリー(DVDではオーディオコメンタリー)では、本編を見ながら二人が話す内容が過激すぎて「ピー」音がたくさん入っており、かえって気になって何度も見てしまう作りになっていた。

 ビジュアルコメンタリーやオーディオコメンタリー自体は、ほとんどの映画DVDやブルーレイに付いている特典ではある。しかしその中に、「そこまでやるか」と思わされるものが増えてきている。特に顕著なのが海外作品だ。

『キングコング:髑髏島の巨神』
『キングコング:髑髏島の巨神』

『キングコング:髑髏島の巨神』は監督のオタク心さく裂

『キングコング:髑髏島の巨神』 (C)2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED
『キングコング:髑髏島の巨神』 (C)2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

 ここ数年で大きな反響を得た特典といえば、『キングコング:髑髏島の巨神』。そのすごさは、ひとえにジョーダン・ボート=ロバーツ監督のオタク心にある。

 目玉になったのが、監督のオーディオコメンタリーだ。監督が語る内容がマニアック過ぎる。ロケ中のハプニングや俳優たちのエピソードはもちろんのこと、巨大生物のデザインや、印象的なシーンが過去の何の作品に影響を受けているかを、事細かに説明しているのだ。

 例えば、冒頭でキングコングが突如現れるシーンは「ビデオゲームの『ワンダと巨像』(2005年発売の「PlayStation 2」用ゲームソフト)にインスパイアされている」とか、『新世紀エヴァンゲリオン』やスタジオジブリ作品への思いなど、実際に本編映像を見直しながら収録したコメントを聞いていると、劇場で見ていても、コメンタリーのためだけに繰り返し見たくなってしまう。

 実はこの映画は次回作でゴジラやキングギドラなど、東宝特撮怪獣が登場してフランチャイズ(シリーズ)化されることが決まっており、劇場公開直後からラストシーンに秘められた次回作への布石が話題になっていた。さらに、監督はモンスター映画や日本の特撮映画の大ファン。オリジナルの『キングコング』のファン層+モンスターアクション映画のファンに加え、日本の特撮ファンも巻き込み、反響が広がっている。

 このジョーダン・ボート=ロバーツ監督をはじめ、オタク監督による特典はかなりの見どころ、聞きどころがある。

ジョーダン・ボート=ロバーツ監督
ジョーダン・ボート=ロバーツ監督
『キングコング:髑髏島の巨神』
ブルーレイ2381円+税 DVD1429円+税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
(C)2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.,
LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS,
LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
ALL RIGHTS RESERVED

『ゲット・アウト』では「もう一つのエンディング」を監督が告白

『ゲット・アウト ブルーレイ+DVDセット』(C) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.
『ゲット・アウト ブルーレイ+DVDセット』(C) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.

 最近の監督オーディオコメンタリーでもう一つ強烈なのが、『ゲット・アウト』のDVD&ブルーレイ。この作品は、サスペンススリラー作品ながら今年のアカデミー賞にノミネートされたほか、日本でもスマッシュヒットを記録した。すごいのが監督の音声解説がついた「もう一つのエンディング」。実はこの映画の“ショッキングなエンディング”にはもう一つの脚本が存在し、しかもそれが撮影されていたという情報が劇場公開直後にリークされていた。そのことが、コメンタリーで語られている。

 そこで分かるのは、「もう一つのエンディング」は、DVDやブルーレイの特典用に作られたわけではないということ。「もう一つのエンディング」はドナルド・トランプの大統領選挙当選前に制作されていたが、公開当時の社会的な流れをくんだ監督が、悩みに悩んで公開版のエンディングにしたのだという。このエンディング・コメンタリーはまさにソフトならではの特典だと思わされる。

(C) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.
(C) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.
『ゲット・アウト ブルーレイ+DVDセット』
3990円+税
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
(C) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.


監督のコメンタリーあってこそ理解できる劇場未公開作『マザー!』

『マザー! ブルーレイ+DVDセット』【※PG-12】 (C) 2017, 2018 Paramount Pictures.
『マザー! ブルーレイ+DVDセット』【※PG-12】 (C) 2017, 2018 Paramount Pictures.

 また、日本では劇場公開が中止となった『マザー!』の特典も印象的だ。実はこの映画は第74回ベネチア国際映画祭のほか、世界中の映画祭に出品されながらも上映時に物議を醸し、日本では公開中止になった“問題作”。単なるサスペンスとは言い難い、聖書的な寓話とも受け取れるその内容を理解するには、かなりの読み解く力が必要。それを補ってくれるのが、ラスト23分の凄惨(としか思えない)シーンを含め、監督がシーンやストーリーに関する見解を語る特典映像なのだ。ある意味、特典あっての作品とも言えそうな内容で、そこまでして内容を理解してもらいたいという、製作側の意図も感じられる。

(C) 2017, 2018 Paramount Pictures.
(C) 2017, 2018 Paramount Pictures.
『マザー! ブルーレイ+DVDセット』※PG-12
3990円+税
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
(C) 2017, 2018 Paramount Pictures.

短編シリーズ特典のマーベルvs80分長尺特典のDC

『マイティ・ソー バトルロイヤル』 (C) 2018 Marvel
『マイティ・ソー バトルロイヤル』 (C) 2018 Marvel

 こうしたコメンタリーとは異なる際立った特典が付いているのが、アメコミ(アメリカンコミック)大手マーベル・コミックを実写映画化した作品群。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のMovieNEX(DVDとブルーレイ、デジタル配信用のパスコードを同梱したディズニー・スタジオ独自のパッケージ商品)だ。ユニバースというのは、アイアンマンもキャプテン・アメリカもそれぞれ映画があるけれど、同じ世界観を共有している映画シリーズのこと。

 その作品群の一つである『マイティ・ソー バトルロイヤル』のMovieNEX「“チーム・ソー”のその後……」が面白い。実はこれは、「“チーム・ソー”結成」(『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に収録)、「帰ってきた“チーム・ソー”」(『ドクター・ストレンジ』に収録)に続く、チーム・ソー・シリーズの第3弾で、マイティ・ソーに関するアナザー・ストーリーとしてファンの間で人気になっている。MCUの巨大な世界観と比べると、チーム・ソー・シリーズの日常感は爆笑レベル。



『ジャスティス・リーグ』 JUSTICE LEAGUE and all related characters and elements are trademarks of and (c) DC Comics. (c) 2017 Warner Bros. Entertainment Inc. and RatPac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.
『ジャスティス・リーグ』 JUSTICE LEAGUE and all related characters and elements are trademarks of and (c) DC Comics. (c) 2017 Warner Bros. Entertainment Inc. and RatPac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.


 マーベルのライバル、映画『スーパーマン』などを有するDCコミックのユニバース作品群、DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)も負けていない。新作『ジャスティス・リーグ』には大量の特典を収録しているのだが、その長さは約80分と、長編映画1本分に匹敵するほどのメイキング映像やシーン解説、未公開シーンなどを収録している(ブルーレイ版のみ)。DCEUはこれからフランチャイズ展開をしていくシリーズなので、ヒーローの数が増えていくにつれて、特典コンテンツも増えていくのではないかと思われる。

JUSTICE LEAGUE and all related characters and elements are trademarks of and (c) DC Comics. (c) 2017 Warner Bros. Entertainment Inc. and RatPac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.
JUSTICE LEAGUE and all related characters and elements are trademarks of and (c) DC Comics. (c) 2017 Warner Bros. Entertainment Inc. and RatPac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.
『マイティ・ソー バトルロイヤル』
MovieNEX(4000円+税)発売中、デジタル配信もあり
(c) 2018 Marvel

『ジャスティス・リーグ』
ブルーレイ&DVDセット(2枚組) 3990円+税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
JUSTICE LEAGUE and all related characters and elements are trademarks of and (c) DC Comics. (c) 2017 Warner Bros. Entertainment Inc. and RatPac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.




『キングスマン:ゴールデン・サークル』は特典が120分超

『キングスマン:ゴールデン・サークル 2枚組ブルーレイ&DVD』 (c)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『キングスマン:ゴールデン・サークル 2枚組ブルーレイ&DVD』 (c)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 特典映像の長さで言うなら、『キングスマン:ゴールデン・サークル』は120分超という豪華仕様。

 この作品の特典映像で特に力を入れているのがメイキングだ。派手なアクションシーンの裏側からキャストのコメントなど、たっぷりと収録されており、前作『キングスマン』と比べてどこがアップグレードしたかが分かるのもファン視点で良い。

 ところでこうした“特典競争”ともいえる特典コンテンツの充実は、なぜ進んでいるのか。







『キングスマン:ゴールデン・サークル 2枚組ブルーレイ&DVD』
3990円+税
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
(c)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

有料動画配信サービスの対抗策として充実化

 背景にあるのが、有料動画配信サービスの世界的な普及だ。それに応じてDVD・ブルーレイなどのパッケージ商品の需要は落ちており、例えば米国のレンタルDVD店舗は2000年代初頭まで最大手として9000店舗以上を運営していたブロックバスターが、現在は9店舗を残すのみ。

 そんななか、パッケージ商品は配信サービスと差異化しつつ、映画ファンにアピールするために特典を充実させているわけだ。だからこそ、大規模映画ほど本編の撮影と同時進行でメイキング制作チームが独自に動くようになっており、“豪華特典”として収録されるようになっている。

 ちなみに日本の有料動画配信サービスの利用者は2017年末現在で約1440万人。2020年には2000万人を突破するという見込みもあるが(ICT総研「2017年 有料動画配信サービス利用動向に関する調査」)、レンタル店は2008年の2969店から2017年の2184店と米国に比べれば減少率は低い(日本レコード協会の「2017年度CDレンタル店調査」)。販売用DVD・ブルーレイもまだまだ売れる傾向にあるが、それでも対抗策として特典の充実化は進んでいる。

有料動画配信サービスの利用者は年々増えている(ICT総研「2017年 有料動画配信サービス利用動向に関する調査」)
有料動画配信サービスの利用者は年々増えている(ICT総研「2017年 有料動画配信サービス利用動向に関する調査」)

 DVDやブルーレイを買ってまで映画を見る人の多くは劇場公開時にその作品のファンになった人、またレンタルで楽しむ人の多くは、劇場で見逃した人だろう。ホームエンターテイメントを手がける会社としては、前者にはその作品を愛し続けてもらいたい、後者には劇場公開時以上にコンテンツの魅力を伝えたい、というもくろみがある。飽きることなくずっと愛し続けてもらえるコンテンツに成長させるために、特典は必要不可欠なものなのだ。

(文/よしひろまさみち)

よしひろまさみち
映画ライター、編集者
音楽誌、女性誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『SPA!』『oz magazine』などインタビュー、レビューの連載多数。日本テレビ系『スッキリ!!』で月1回レギュラーの映画紹介のほか、テレビ、ラジオ、ニコ生などでも映画の紹介を手がける。
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