家事のなかでも特に調理時間を短縮したい人に人気なのが、肉や魚、野菜、調味料などがひとつにまとめられた「ミールキット」だ。カット済みの肉や野菜を炒めるだけなどという簡単な調理で主菜と副菜が完成するコンセプトが受け、仕事や育児に忙しい人に支持されてきた(関連記事「オイシックス『忙しいママ』への売り方 成功したマーケ術とは?」)。そんななか、コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンが関東の一部エリアで展開しているミールキットを強化すると発表した。

 同社のミールキット「食材セット」は宅配サービス「セブンミール」で提供しており、これまでは日替わりメニュー1種類のみだったが、2018年4月9日から揚げ物や和食、中華などの5種類から選べるようにした。前日の午前11時までに注文した分を翌日に受け取れる仕組みで、1食分、1人前から注文できる。2018年秋には全国で取り扱いを開始する。

セブン-イレブンの宅配サービス「セブンミール」で展開している「食材セット」。約20分で主菜と副菜が完成する、レシピ付きのミールキット。1日分、1人前から注文できる
セブン-イレブンの宅配サービス「セブンミール」で展開している「食材セット」。約20分で主菜と副菜が完成する、レシピ付きのミールキット。1日分、1人前から注文できる

トンカツの小麦粉も「卵と水に溶いた状態」でセット

 ミールキットは「主菜や副菜が20分で作れる」というのが一般的。だが、鮮度を保つためにあえて野菜をカットしないものもあれば、牛乳や卵など家庭に常備されいる食材は同梱しないものもあるというように、内容にはばらつきがある。セブン-イレブンのミールキットの特徴は野菜は全てカット済みで、家庭で用意するのは水や油、塩、コショウ程度だという。

 例えば「大葉とチーズのミルフィーユかつセット」は、トンカツにパン粉をつける前に使うバッター液(小麦粉を卵と水で溶いたもの)まで、液状で封入されている。家庭でバッター液を用意する場合、トンカツを揚げる枚数が少なければ溶き卵などが余ってしまうことがある。また、調理に慣れていない人はバッター液をどの程度使うのか分からないということもあるかもしれない。これなら廃棄ロスもなく、調理時に迷うこともないというわけだ。

バッター液(小麦粉を卵と水に溶いたもの)も液状でミールキットに同梱されている
バッター液(小麦粉を卵と水に溶いたもの)も液状でミールキットに同梱されている

 傷みやすい食材も同梱できる理由として、セブン・ミールサービス営業推進部の永井将人副総括マネジャーは「セブン-イレブンの専用工場は全国いたるところにある。注文を受けたエリアの近くの工場で作れるので鮮度が保てる」と説明する。弁当や総菜を作っている工場なので、食材の下処理のノウハウもあるという。

 また、ミールキットはセブン-イレブン店頭での受け取りも可能で、「リアル店舗という拠点があるのが一番の強みと考えている」と永井副総括マネジャーは話す。「ミールキットを頼む場合、配送料を無料にするために8000〜9000円程度の注文をしなければならないことも多い。また、働いていて家に不在なので宅配を受け取るのが難しいという人もいる」(同氏)。

 セブン-イレブンの店舗は全国に約2万店舗。ミールキットに興味があっても宅配での受け取りが面倒で敬遠していた人にとっては、大きな訴求ポイントになるだろう。

ミールキットで作成した「大葉とチーズのミルフィーユかつセット」(1人前、510円)。自宅で用意するのは水、油、コショウ、塩のみ。副菜は「ほうれん草と小松菜の煮浸し」
ミールキットで作成した「大葉とチーズのミルフィーユかつセット」(1人前、510円)。自宅で用意するのは水、油、コショウ、塩のみ。副菜は「ほうれん草と小松菜の煮浸し」

1人前キットでアクティブシニアを狙う

 だが、このミールキットの最大の特徴は「1人前から購入できる」という点だ。ミールキットは子どもを持つ働く世代をターゲットにしているためか、2〜3人前が1セットになっているものが多い。

 しかし、「夫の分だけミールキットを買い、自分は外食したり別のものを食べたりするという人もいる。1人前ミールキットのニーズはある」と永井副総括マネジャー。同氏によると、ミールキットの売り上げの約3割が1人前だという。たしかに、家族でも食事のタイミングがバラバラということもある。そういった状況で、出来合いの総菜だけを食卓に出すことに罪悪感がある人にヒットしているのかもしれない。

 特に高齢者はセブン-イレブンが得意とするターゲットだ。セブンミールのサービスを開始した2000年当初は、「コンビニに来店したことがない人の獲得を狙って、高齢者など“買い物弱者”といわれる人への取り組みを行った」(永井副総括マネジャー)という。今や弁当や総菜をコンビニで調達するという高齢者は珍しくない。「今は元気で健康な高齢者も増えている。(ミールキットの強化で)アクティブシニア層を積極的に狙いたい」と永井副総括マネジャーは話す。1人前のミールキットは、加工食品だけで食事を済ませることに罪悪感を感じる人にアプローチをする狙いもあるのかもしれない。

「スコッチエッグ・キャベツとチーズのトマトスープ」(1人前、510円)。半熟卵を合いびき肉で包み、パン粉をつけて揚げる
「スコッチエッグ・キャベツとチーズのトマトスープ」(1人前、510円)。半熟卵を合いびき肉で包み、パン粉をつけて揚げる
「ホイコーロー・野菜と春雨の中華スープ」(1人前、510円)
「ホイコーロー・野菜と春雨の中華スープ」(1人前、510円)
「豚肉じゃが・小松菜ともやしの胡麻和え」(1人前、510円)
「豚肉じゃが・小松菜ともやしの胡麻和え」(1人前、510円)

(文/樋口可奈子)

 

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