販売台数は下降するのにショー来場者数は増加の一途

 2017年3月24日(金)から26日(日)までの3日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)で「第44回東京モーターサイクルショー」が開催された。全155社のモーターサイクルおよびその関連メーカーが出展する国内最大規模の自動二輪の展示会だ。

 日本のモーターサイクル市場は長期的な需要の減少が続いており、1980年代のピーク時(販売台数)と比べるとわずか7分の1から8分の1ほどの数字にまで落ち込んでいる。しかし、モーターサイクル自体が消費者にそっぽを向かれているかというと、実はそうではない。東京モーターサイクルショーの合計入場者数は2012年以降(2011年は東日本大震災の影響で中止)、少しずつ増え続けているからである。今年は過去最高だった2016年からさらに1万人以上も多い14万6495人が来場するなど、その流れはいまなお加速中だ。ここ数年はどのブースも会場直後から黒山の人だかりとなっており、車体をゆっくり眺めることすらままならないほどの熱気である。

 このねじれ現象は通勤や通学といった実用目的でオートバイ(とくに原付)を求める層が大きく数を減らす一方で、はっきり「趣味」としてオートバイに乗る、または乗りたいユーザーの比率が相対的に高まっていることがあると推察される。

東南アジアを視野に入れた輸入車モデル、活気を取り戻した国内モデル

 また、現在のバイクシーンが目まぐるしく変化していることもユーザーの高い関心を呼んでいる要因だろう。国内の市場規模は小さくなったが、業界のグローバル化が進んだことで実に多彩な車種を選択できるようになった。ハーレー(米国)やドゥカティ(イタリア)、BMW(ドイツ)、そしてKTM(オーストリア)といった輸入車は信頼性向上やディーラー網が整備されたことでうんと身近になっているほか、巨大な二輪市場をもつインドや東南アジア(ASEAN)でのマーケット開拓を見据えた中排気量の新型車もラインナップに加わっている。例えば2015年に登場し、またたく間にドゥカティの人気車種となった「スクランブラー」はタイの工場で生産され、800㏄モデルと普通自動二輪免許で乗ることができる400㏄モデルが用意されている。

 一方ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4社は大型モデルと併せて、車検がなく維持のしやすい250ccクラスに意欲的な新型車を続々と送り込んでいる。つい10年ほど前は年を追うごとに厳しくなる排ガス規制などの影響でラインアップが激減していたこのクラスだが、現在はすっかり活況だ。今年、ホンダがリリースした250ccのアドベンチャーモデル「CRF250 RALLY」などは、同社のダカールラリー参戦マシン、「CRF450 RALLY」を受け継いだスタイルを採用するなど大型自動二輪免許を持っている人でも欲しくなる唯一無二の価値をもつ魅力的なモデルだと思う。

 そんな現在のトレンドも踏まえつつ、会場のなかで注目度の高かったモデルを紹介していきたい。

普通自動二輪免許でも乗ることができる「ドゥカティ・スクランブラー Sixty2」。現在、世界的な流行にもなっている“ネオクラシック”調のスタイリングが人気だ(写真提供:ドゥカティ)
普通自動二輪免許でも乗ることができる「ドゥカティ・スクランブラー Sixty2」。現在、世界的な流行にもなっている“ネオクラシック”調のスタイリングが人気だ(写真提供:ドゥカティ)
2017年2月に登場したばかりの「ホンダ CRF250ラリー」。オフロードバイクをベースに高速巡航時の快適性を高めるウインドスクリーンや大容量燃料タンクを装備。オンロード、オフロードを問わずに楽しめるこうしたモデルを近年はアドベンチャーバイクと分類している(写真提供:ホンダ)
2017年2月に登場したばかりの「ホンダ CRF250ラリー」。オフロードバイクをベースに高速巡航時の快適性を高めるウインドスクリーンや大容量燃料タンクを装備。オンロード、オフロードを問わずに楽しめるこうしたモデルを近年はアドベンチャーバイクと分類している(写真提供:ホンダ)

【ホンダ】エンジン共用化で価格を抑えて若者にアプローチ

ホンダ 「レブル500」
ホンダ 「レブル500」

 今年の東京モーターサイクルショーはどのブースも大勢の来場者でにぎわっていたが、ひときわ混雑していたのが注目モデルを数多くそろえるホンダブース。写真は近々市販予定の新型クルーザーモデル(起伏やカーブの少ない道を走行することに重点を置いたバイクのカテゴリー)「レブル500」。これまでこの手のモデルはハーレーに代表されるように昔ながらの空冷Vツインエンジンを搭載するのが常だったが、こちらはロードスポーツモデル(舗装路の快適走行を目指したオートバイ)から流用した水冷直列2気筒エンジンを搭載。エンジンを共用化して車両価格を下げ、若いユーザーにもアプローチしている。

ホンダ「レブル250 スタイルコンセプト」
ホンダ「レブル250 スタイルコンセプト」

 同一の車体にこれまたロードスポーツモデルから流用した水冷単気筒エンジンを搭載する250ccモデルも市販予定となっており、こちらはメーカー自ら大胆なカスタムを施した「レブル250 スタイルコンセプト」として出展されていた。メーカーが新型車の発表と同時にカスタムモデルも提案するのは近年のトレンドでもある。ユーザーのライフスタイルを反映できるアイテムの一つとしてモーターサイクルを提案する狙いだ。

オフロード走行可能な本格的なサスペンション搭載「X-ADV」

(写真提供:ホンダ)
(写真提供:ホンダ)

 こちらも市販が予定されている「X-ADV」。スクーターの利便性と近年流行のアドベンチャーバイクの走破性を兼ね備えた新しいカテゴリーだ。745㏄の水冷直列2気筒エンジンにホンダが独自に開発したオートマチックトランスミッションであるDCT(Dual Clutch Transmission)やオフロード走行にも対応できる本格的なサスペンションを備えている。

東南アジアで盛んな250ccのカテゴリーに投入!「CBR250RR」

(写真提供:ホンダ)
(写真提供:ホンダ)

 このところ国内4メーカーによる競争が激化している250ccロードスポーツモデル。巨大な二輪市場をもつ東南アジアでも盛んなカテゴリーということもあって各社かなり力の入ったモデルを投入している。

 ホンダはすでにCBR250Rというモデルをこのカテゴリーに投入しているが、さらにスポーティーに進化した「CBR250RR」も市販する。単気筒エンジンを搭載し、ルックスも比較的おとなしかったCBR250Rは、ヤマハやカワサキのライバルモデルに比べて正直見劣りした。しかし、こちらは新開発の水冷4ストローク直列2気筒エンジンを倒立フォークやアルミ鍛造スイングアームを採用するハイスペックな車体に搭載し、ひとクラス上ともいえる仕上がりを見せる。アグレッシブなスタイリングと相まって大変な注目を集めていた。

【ヤマハ】往年の名車をオマージュした新型車やカスタマイズ

 ヤマハブースの前面ステージ上では、すでに市販されているXSR900をベースにしたカスタムモデルが展示されていた。左は同社が提唱する新たな世界観「ファスター・サンズ」のコンセプトを反映したカスタマイズ。右は往年の名車「RZ250」をモチーフにした外装キットを装着したものだ。クルマのMINIやビートルのように、往年の名車をオマージュした新型車やカスタマイズも近年のトレンドの一つである。

人気のクルーザーモデルをベースにした「SCR950」

 こちらは5月25日に発売される「SCR950」というモデル。人気のクルーザーモデル「ボルト」をベースにスポークホイールやセミブロックタイヤ、アップハンドル、ゼッケンプレート風サイドカバーなど、往年のダートトラックレーサー風(平坦なダートコースを周回するレース)の意匠が施されている。

(文・写真/佐藤 旅宇)

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