2018年3月15日、東京・渋谷に宿泊施設「The Millennials Shibuya(ザ・ミレニアルズ シブヤ)」が開業した。特徴は、宿泊スペースに鍵がかからない「男女混合フロア」があることだ。

「The Millennials Shibuya」(東京都渋谷区神南1-20-13)。延べ床面積1361.28平方メートル。客室数120。客室単価は6000円前後。同施設運営するのはグローバルエージェンツ(東京都渋谷区)。同社はこれまでに宿泊施設を4棟展開しており、ミレニアルズブランドの施設は2017年7月に京都にオープンした1号店につぐ2号店目となる 
「The Millennials Shibuya」(東京都渋谷区神南1-20-13)。延べ床面積1361.28平方メートル。客室数120。客室単価は6000円前後。同施設運営するのはグローバルエージェンツ(東京都渋谷区)。同社はこれまでに宿泊施設を4棟展開しており、ミレニアルズブランドの施設は2017年7月に京都にオープンした1号店につぐ2号店目となる 

 ミレニアルズは旅館業法においては「簡易宿所」に分類される。カプセルホテルと同じ位置づけになるが、6フロアある宿泊フロアのうち4フロアを「オールジェンダー」と名付け、男女問わず利用できるようにしている。一般的なカプセルホテルは安全面を理由に男女別のフロアにする施設が多いが、なぜこのような仕様にしたのだろうか。

■変更履歴
キャプションに記載の住所に誤りがありました。
初出では「神南1-2-13」とありましたが、正しくは「神南1-20-13」です。
お詫びして訂正します。[2018/04/11 16:35]

男女混合グループやカップルから好評

スマートポッドは各階20室。タオル、歯ブラシなどのアメニティーは無料で提供されるが、パジャマは必要な人だけが有料でレンタルする仕組み
スマートポッドは各階20室。タオル、歯ブラシなどのアメニティーは無料で提供されるが、パジャマは必要な人だけが有料でレンタルする仕組み

 男女混合フロアを設けた理由について、施設を運営するグローバルエージェンツ(東京都渋谷区)は「海外からの利用客は男女混合グループも多い。また、男女のカップルからも隣り合わせた宿泊スペースが使えると好評」と同社の担当者は話す。安全面に配慮してフロア内に防犯カメラを設置しているが、気になる人は女性専用フロアを利用するといいだろう。

天井には死角ができないように防犯カメラを設置しているが、スマートポッド内は撮らないようにしているという
天井には死角ができないように防犯カメラを設置しているが、スマートポッド内は撮らないようにしているという

クッション性はいいが、ベッドの位置がやや高め

 客室フロアはグレーを基調とした落ち着いた内装で、カプセルの代わりに独自に開発した宿泊スペース「スマートポッド」を導入している。スマートポッドは多機能型の宿泊ユニットで、天井高2.3メートル、床面積3平方メートルのスペースの中にセミダブルのベッドが備え付けられている。ベッドの下には大型のスーツケースも収容でき、ベッドをリクライニングさせると足元にスペースができるので立って着替えることも可能だ。スクリーンを下ろすと個室になり、「カプセルというよりはビジネスホテルからバス・トイレを取り除いたイメージ」(同社)だという。

 スマートポッドの中に実際に入ってみた。天井が高いので圧迫感がなく、マットレスもほどよい反発感で座り心地がいい。ベッドの幅も広いので「狭くて眠れなかった」ということはなさそうだ。スマートポッドは完全な個室ではないので、モーニングコールやアラームなど音の出るものが使えない。そのため、あらかじめ起床時間をセットしておくと自動的にベッドの背もたれが起き上がることで起床をうながすという仕組みを採用しているが、これらの作業は全てチェックイン時に貸与されるiPodで操作できるという。

 唯一気になったのはベッドの高さ。筆者は身長160センチ弱だが、5センチのヒールを履いていても「よじのぼる」という感じになり、腰かけるのに苦労した。

腰かけると足が宙に浮いてしまった
腰かけると足が宙に浮いてしまった

 「ベッド下にスーツケースを収納できるようにしていること、リクライニング用の設備を入れたことで、ややベッドの位置が高くなってしまった。今後は改善も検討している」と同社の山崎剛社長は説明する。

 ただ、男性、特に欧米からの旅行客などで身長がある人にとってはむしろ使いやすい高さであるといえるだろう。5階のフロアにはスマートポッド内部に20人のイラストレーターやアーティストが装飾を施した「アートポッド」が設置されている。このフロアもオールジェンダーだが、カラフルでポップなイラストが多いので女性受けがよさそうだ。

「アートポッド」の一部。施設の公式サイトからアートポッドを指定して予約する。利用したいスペースが決まっている場合は、チェックイン時にリクエストできる(空きがある場合のみ利用可)
「アートポッド」の一部。施設の公式サイトからアートポッドを指定して予約する。利用したいスペースが決まっている場合は、チェックイン時にリクエストできる(空きがある場合のみ利用可)
各フロアにシャワーブースとトイレ、ランドリーがある
各フロアにシャワーブースとトイレ、ランドリーがある

 同施設のさらなる特徴は、その名前の通り「ミレニアル世代」をターゲットとしている点だ。ミレニアル世代については諸説あるが、同社は1980~2000年に生まれた人と定義としている。グローバルエージェンツの山崎剛社長は「ミレニアル世代は全世界の人口の約3分の1を占め、労働、消費の中心でもある」と話す。また、山崎社長も含め、ミレニアルズに関わる全てのスタッフがこの世代で構成されていることから「ミレニアル世代によるミレニアル世代のための施設」であると訴える。

 この世代の特徴について、山崎社長は「所有とシェアを合理的に判断して使い分け、身軽さや自由を求める人が多い。テクノロジーを駆使して情報を取り入れやすいし、『旅が特別なものではない』と考えている。また、多様な価値観も受け入れやすいのが特徴」と分析する。室内に眠る場所以外の余計な場所はいらないという考えからベッド中心のスマートポッドを開発し、施設の約25%をキッチンやコワーキングスペースとして開放して誰でも利用できるようにしたという。

4階にあるセルフキッチン付きのラウンジ。朝食時はキッチンでパンが提供されるほか、コーヒーメーカー、ビールサーバーも自由に利用できる
4階にあるセルフキッチン付きのラウンジ。朝食時はキッチンでパンが提供されるほか、コーヒーメーカー、ビールサーバーも自由に利用できる

 実は筆者もミレニアル世代にあたるが、世代間の共通認識のようなものをこれまであまり感じたことがなかった。ましてや1980年生まれと2000年生まれでは20歳も年が離れている。考え方や生活スタイルも違うのではないだろうか。

 「合理的で自由で多様性があるという3つのキーワードを施設のコンセプトとしたが、これは社長である自分が大事にしたいと考えているもの。自分がたまたまミレニアル世代であり、周囲の同世代に同じような価値観を持つ人が多いと感じている」と山崎社長。一方で、このキーワードを重視するのはミレニアル世代とは限らないとも考えているという。「一つ上の世代である40歳前後の人たちにも同様の価値観を持つ人は増えている。今後はさらに幅広い層にも浸透していくのでないだろうか」(同氏)。

(文/樋口可奈子)

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