自分の行動の判断基準は“自分”

 日本をはみ出してハリウッドに進出し、特殊メイクアーティストとしての名声を得ながら、そこからもさらにはみ出して芸術家の道を選んだ辻さん。最後に、これまでの人生で最大の失敗はあるかと尋ねると、即座に「ある」と返ってきた。

 「もっと早く芸術に転向していればよかったと思います。やっぱり積み上げてきたものを捨てるのが怖くて、映画の世界にしがみついていたところがあるんですよね。いま思うと、踏み出せるタイミングは何度もあった。それを見極めきれなかったことが、自分にとっては大きな失敗です」

 変化や他者の目を気にする恐怖心が、自分の行動の判断基準になっていてはだめなことを痛感したと、辻さんは言う。

 「誰にでも、絶好のタイミングはあるはず。それを見極めて、どんどん動くべきだと、自分は思います。自分ももしずっと日本にいたら、きっと可能性に気がつかなかったと思うんです。いま考えると、ちょっと恐ろしいですね」

 辻一弘、46歳(※現在48歳)。ひとつ夢をかなえた先に、新たに生まれた夢。可能性を信じて、いまだばく進中なのである。

(取材・文/笹沢隆徳、写真提供/辻一弘)

辻一弘(つじ・かずひろ)
1969年京都市生まれ。1989年の日本映画『スウィートホーム』をはじめ、数々の日本映画に携わった後に渡米。『メン・イン・ブラック』『グリンチ』などを皮切りに多くの映画で特殊メイクを担当。2007年に独立し、2011年以降は現代美術のアーティストとして活躍中。2018年、英国映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』で、日本人として初めて第90回アカデミー賞「メーキャップ&ヘアスタイリング賞」を受賞。