産みの苦しみは、己のためだけに

 ところが2011年、辻さんは映画の仕事をすっぱりやめた。いまは現代芸術分野に転向し、自分だけの作品作りに没頭している。

 「映画やドラマの仕事は、人から言われてやる仕事でしょう。それに不満を抱くようになったのでやめたんです」

 もう少し映画界で頑張ればアカデミー賞受賞も夢ではなかったのに……と第三者としては思うが、本人にはアカデミー賞などまったく眼中になかった。

 「受賞よりも、自分で作りたいものを作って評価されるほうが、喜びははるかに大きいし価値もあるんですよ。依頼による仕事ではないぶん、“産みの苦しみ”はいままでより大きいけど、その苦しみがすべて自分だけのもの、という感覚は、映画の仕事では味わえませんでした」

 芸術家としての活動は、まだ始まったばかり。だが、誰にも作れない作品を作り続けてやろうという熱意があれば、成功すると信じている。実際に、特殊メイクの技術を応用したリアルな胸像は、見る者を驚愕させ、作品の買い手も増えているという。

超リアルなリンカーン像。10万本以上の髪の毛は1本ずつ植え、皮膚の色は10回以上の重ね塗りで表現している
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