「怒り」は、人類が生き残るための本能だった

 柿木さんは、「人間が怒りの感情を持つのは当然のことなのです」と話す。

 「怒りという感情は、目の前の敵に対して、襲いかかるか逃げるかをカラダに実行させるために発生するものです。つまり、生存するためには欠かせないものなのです。怒りの発生自体を防ぐことはできません」(柿木さん)。地球の長い歴史のなかで、人間が敵から身を守り、淘汰されずに生き延びるためには、大脳辺縁系に生じる怒りの感情は不可欠なものだったのだ。

 ところが文明が発達するにつれ、そうした本能に近い感情を抑えることが必要になりはじめた。現代の私たちの生活においても、「怒りたいことがあっても、仕事で成果を出すためには我慢しよう」「顔を合わせたくない相手だけれど、人間関係でトラブルを起こさないためにも会うしかない」というように、感情をコントロールしなくてはならない状況が増えている。

 つまり、私たちの脳は、もともと備わっている「怒り」を、「理性」や「知性」で抑える働きをしている。生きていくために必要な感情を、人間らしく生きるためにコントロールしているという状態なのだ。

前頭葉は怒りにすぐに対応できない!

 怒りという感情が発生するのは自然なことで、それ自体を防ぐことは難しいということはわかった。その一方で、感情をコントロールする部位である前頭葉が怒りの感情をコントロールしている。では、実際に私たちが怒りの感情を持ったとき、脳科学の観点から見ると、どのようなアプローチができるのだろうか。

 「前頭葉は常に感情をコントロールする役割を果たしているのですが、実は、突発的に発生する怒りの感情には、すぐに対応できないのです。急には対応することはできないものの、実は『少し我慢している』と活動を始める、つまり、怒りの発生と理性の発動には時間的なズレがあるのです。ですから『ちょっと待つ』ことが、怒りを抑える最大のポイントになるのです」(柿木さん)

 では、前頭葉が動き出して、怒りを抑えるのにどのくらいの時間がかかるのだろうか。

 柿木さんによると、「科学的に明確に定義することはできないのですが、前頭葉が本格的に働きはじめるまでにかかる時間は3~5秒程度と考えられます」という。前回の記事で、とっさの怒りを鎮める対処方法に「6秒待つ」という方法を紹介したが、これには「脳のメカニズム」が関係していたわけだ。

 衝動に任せて怒ると取り返しのつかなくなる言動を誘発してしまうことは多いもの。それを防ぐためにも、カチンとくる出来事があっても「6秒間は待つ」姿勢が大切なわけだ。「『イラッ』『ムカッ』としたときは、まずは6秒待ちましょう。前頭葉が自然に活性化するまでの間、うまく時間稼ぎをしよう、というアプローチです」(柿木さん)