厳しく追い込むだけでは、本番に強い心は養えない

 重要な局面を前にして心が乱れているときに、周囲から「平常心で頑張れ!」「根性だ!」などと言われ、なすすべもなく困ったことがある人は少なくないだろう。そう言われて平常心を取り戻したり根性を出したりできるなら、苦労はしない。それができないから困るのだ。

 「日本では長年、根性主義やスパルタ主義が蔓延しており、口先だけで無茶に発破をかけるやり方が今も色濃く残っています。しかし、強い言葉で追い込まれたり厳しさの中で耐えたりしているだけでは、プレッシャーには打ち勝てない。逆境の中でも自分の心をコントロールする方法を習得しなければ、強さにはつながらないのです」(高妻さん)

 ただしその方法は、ピンチの時にだけ都合よく使える特効薬ではなく、毎日の鍛練があってこそ生きるもの。技術力や体力を高めるために日々のトレーニングが求められるのと同様に、メンタルの強さもまた継続的にトレーニングをしてこそ養うことができる、と高妻さんは言う。

苦しいときほど「笑顔」を意識すべし

 このシリーズでは、全5回にわたり、具体的なメンタルトレーニング法について紹介していく。そこで今回は手始めに、トレーニングや本番で心がけたいポイントである「笑顔」について解説しよう。

 「結果を出したければ、全身でプレッシャーを感じながら真剣な表情で頑張るべき」。こう思っている人は多いかもしれない。仕事や試合などの場においても、鬼気迫る形相で取り組む人ほど、やる気が評価される傾向にあるのも事実だろう。

 しかし、「メンタル強化を目指すうえでこの頑張り方は逆効果となる」と高妻さんは断言する。プレッシャーによって緊張した心身のままでは、発揮できる力が制限されてしまう。逆に、笑顔でリラックスしているほうが、冷静さを保って立ち回ることができ体もスムーズに動くからだ。

 「私がアメリカで出会ったプロ選手の多くは、苦しいときほど笑顔になって気持ちを落ち着けていました。そうすれば体の力みが抜けて呼吸も安定してくる。真面目な顔で心身に緊張を感じているときよりも格段に、パフォーマンスが向上するのです」(高妻さん)

 その笑顔の力を証明した高校野球のエピソードがある。