「見て楽しむ」イベントから「アイドルを発見する」イベントへ。アイドルの祭典といえる大型夏フェスの目的が変わる様子を関連記事「アイドル新潮流 本格的楽曲派台頭で変わるイベント」 で紹介した。背景にあるのは、長らく続くトップアイドルの固定化と、下層に位置するライブアイドル(いわゆる地下アイドル)の上昇志向の鈍化という現状だ。これを打破する試みの一環として、前編では楽曲派の台頭とイベントの変化の例を挙げた。そうした層のアイドルたちがいま、新たな勢力としてアイドル界を活気づけている状況を俯瞰(ふかん)してみたい。

下層からトップに昇る道が見えない

 伸び続けるアイドル市場。2017年12月初頭に矢野経済研究所が発表した「『オタク』市場に関する調査」によれば、「2017年のアイドル市場規模は前年比12.3%増の2100億円」。日本のGDPが前年比1.8%増(みずほ総合研究所)であることを考えると、この市場の活況がよく分かる。一方で、トップアイドルが長らく固定化し、また、過度な競争の結果、上昇志向を失うライブアイドルたちが増加。新たなトップアイドルが育ちにくい土壌が作られている状況も見えている。

でんぱ組.inc。ディアステージがマネージメントする7人組アイドル。海外公演数も多く、2017年には日本武道館や大阪城ホールで公演した日本を代表するトップアイドルグループ(NewYear Premium Party 2018にて撮影)
でんぱ組.inc。ディアステージがマネージメントする7人組アイドル。海外公演数も多く、2017年には日本武道館や大阪城ホールで公演した日本を代表するトップアイドルグループ(NewYear Premium Party 2018にて撮影)

 従来、ライブアイドルからトップアイドルへの道筋はシームレスにつながっていて、アイドルはその実力や運営の手腕次第で集客を増しながらトップに上り詰めて行くシナリオが描けていた。ところが現在のアイドル界では、個々のアイドルの集客力が低下してトップアイドルへのチャレンジが困難になっている。

 そこで、このトップアイドルへのチャレンジをマスメディアやイベンターの力を使って加速させようとしたのが、アイドルの選抜企画である(関連記事「アイドル新潮流 本格的楽曲派台頭で変わるイベント」 を参照)。地上波テレビや夏フェスなどの大舞台にライブアイドルを立たせることで、より多くのアイドルファンに周知させ、将来的には一般認知までリーチを伸ばしていこうとする狙いだ。このトップアイドル予備軍のことを本稿では「中間層アイドル」と呼ぶ。ライブアイドルからは一歩抜け出したものの、いまだ一般の目には留まっていないアイドルたちのことである。

安定が停滞を生むライブアイドル

 もう少し詳細にそれぞれのアイドルについてその状況を見てみたい。まずは、ライブアイドルについて。

 従来のアイドルは、より大きなステージを目指す――すなわち、集客数を増やしていくことがそのまま収益の拡大と存続につながっていた。このため、アイドルを抱える事務所などは、多少無理してでもプロモーションにコストをかけて集客することに専念していた。

 現在のライブアイドルでは、従来当たり前だったこの論理が成り立ちにくくなっている。アイドルピラミッドの下層に位置し、数としてはアイドル界の大半を占めており、一見活発に活動しているように見えるライブアイドルだが、その実、ほとんどのアイドルがこの層から抜け出せない状況に陥っている。その理由は主に、過剰なアイドル数による熾烈な競争と、パイ(ファン)の取り合いでそれぞれが集客数を増やせないことにある。加えて、低コストでの運営が可能になったことにより、あえてリスク(集客増への投資)を取らない運営やアイドルが増えていることも無視できない。

先が見えないトップグループ

 次にトップアイドルについて見てみる。現在のトップアイドルでは長らくプレーヤーが変わらず、こちらも一種の停滞状態にあるといって良さそうだ。アイドル界全体を引っ張る役割のトップアイドル――AKB48グループ、モーニング娘。などを擁するハロー!プロジェクト(ハロプロ)、ももいろクローバーZを擁するスターダストプロモーションなどに所属するアイドルグループ――が、集客や興行成績で伸び悩んでいる。トップを行くAKB48グループは、乃木坂46・欅坂46の坂道グループが躍進する半面、「ファン離れが進んでいる」(業界関係者)と見る向きが多い。理由は、絶大な人気を誇った中心メンバーの相次ぐ卒業や、今年、視聴率が過去最低となったことにも表れている「AKB48選抜総選挙」人気の陰り、などが挙げられる。

 こうした将来の傾向を見越して、それぞれのグループ・事務所はファンの囲い込み策を強化してきた。AKBグループの運営元は早くから地方展開(48グループ)や新たな派生グループ(乃木坂46、欅坂46など)の創出を図ってきた。一方のハロプロやスターダストも、離れたファンを同じ運営事務所のアイドルグループに吸収する施策を採り、事務所全体としてファン数の減少を防ごうとしている。しかし、こうした施策にもかかわらず、従来、活躍のメインステージだったテレビを中心としたマスメディアにおける歌番組の減少や視聴率低迷などが、トップアイドルの先行きを不透明にしている。

アイドル界をけん引する「中間層」

 こうした状況の中、トップアイドルの予備軍となっている中間層アイドルが唯一、気を吐いている。アイドル横丁やTIF、@JAM EXPOといったメジャーな夏フェスに出演する多くのアイドルがこの層に属している。実際には100を超えるグループがあるが、例を挙げると、神宿、Party Rockets GT、バンドじゃないもん!、BiS、ベイビーレイズJAPAN、ベボガ!(虹のコンキスタドール黄組)、マジカル・パンチライン、まねきケチャ、愛乙女☆DOLL、わーすた……など。アイドルファンには有名でも一般人にはまだ認知されていないアイドルと言っていい。

 中間層にいるアイドルの活動自体は、下位のライブアイドルの活動とほぼ変わらない。違うのは、集客力とそれに応じた出演ステージ・イベントの規模である。集客数にして数百~1000人単位、ワンマンでSHINJUKU BLAZE(キャパシティー800人)やTSUTAYA O-EAST(1300人)を満たす能力がある。さらにこの層のトップグループでは、Zepp DiverCity TOKYO(2500人)やZepp Tokyo(2700人)を埋める実力さえ持っている。また、メジャーデビュー(メジャーレーベルに所属)しているアイドルが多いのも特徴だ。トップアイドルへの道のりが具体的に見えてくるので、全体的にモチベーションも高く、アイドルの中で最も活気がある。

 この層が、「現在のアイドル界を背負っている」(アイドル運営)と言っても過言ではない。収益的にはいまだトップアイドル層が市場の売り上げのほとんどを占めているが、市場の成長自体は、この中間層が引っ張っている。まさにアイドル界ではこれからリーダーとなっていく層である。

2011年に結成された楽器もできる6人組アイドル「バンドじゃないもん!」。2016年にはポニーキャニオンから2度目のメジャーデビューを果たし、WEGOとのコラボなどファッションアイコンともなっている(NewYear Premium Party 2018にて撮影)
2011年に結成された楽器もできる6人組アイドル「バンドじゃないもん!」。2016年にはポニーキャニオンから2度目のメジャーデビューを果たし、WEGOとのコラボなどファッションアイコンともなっている(NewYear Premium Party 2018にて撮影)
2016年に再始動したBiS。2014年に一旦解散となり現在は第2期メンバーで構成されている。マネージメントはWACKとつばさプラスの共同運営による。大規模アイドルフェスでトリを飾る人気グループ(NewYear Premium Party 2018にて撮影)
2016年に再始動したBiS。2014年に一旦解散となり現在は第2期メンバーで構成されている。マネージメントはWACKとつばさプラスの共同運営による。大規模アイドルフェスでトリを飾る人気グループ(NewYear Premium Party 2018にて撮影)

中間層アイドルの集客がカギ

 今後は、こうした中間層アイドルをいかに一般の視聴者にアピールして集客力を増していくかが、アイドル界全体の拡大のカギとなるだろう。それは結果として、ライブアイドルのモチベーションを喚起し、トップアイドルの停滞を打破することにもつながる。そのために、レコード会社や運営会社、関連会社など業界を巻き込んで、一般視聴者へのリーチを伸ばしていくことが必要だ。施策の1つとして、インターネットのストリーミングメディアのような、一般人をファンとして取り込める素地を持つ新たなメディアとコンテンツの創出が望まれる。また、こうした新体制に向けて業界の再編が進むのも、今年のアイドル界の特徴的な傾向になるだろう。

(文/野崎勝弘=メディアリード)

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