ここ数年、コンビニでよく見かけるようになった変わり種おにぎり。卵かけ風ご飯や空揚げが丸ごと入ったものだけでなく、カップラーメン味やポテトチップス味などのコラボ商品も登場している。一方で、家庭で作るおにぎりといえば、梅干しやサケなどがいまだに定番だろう。マンネリ化しているともいえる家庭のおにぎりのバリエーションを増やす新商品が、2017年2月12日に発売される。

 味の素冷凍食品の「おにぎり丸」は、おにぎりの具材のみを冷凍した商品。凍ったままの具材を温かいご飯の上にのせて握るだけで、具材たっぷりでボリューム感のあるおにぎりを作ることができる。しかも中身はカレーやギョーザなど、おかずの定番メニューだ。しっとりとした食感と、冷めても食べやすい味付けを意識したというが、いったいどんな商品なのだろうか。開発担当者に聞いた。

「おにぎり丸」は「甘口ポークカレー」「おいしいギョーザ」「野菜たっぷりビビンバ」「甘くち麻婆豆腐」「ちいさな豚角煮」の全5種類。予想実売価格は各200円前後(編集部推定)
「おにぎり丸」は「甘口ポークカレー」「おいしいギョーザ」「野菜たっぷりビビンバ」「甘くち麻婆豆腐」「ちいさな豚角煮」の全5種類。予想実売価格は各200円前後(編集部推定)
「おにぎり丸」を使ったおにぎりを2つに割ったもの。炊きたてご飯なら15分ほど、温かいご飯なら30分ほどで中の具材が自然解凍されて食べられるようになる
「おにぎり丸」を使ったおにぎりを2つに割ったもの。炊きたてご飯なら15分ほど、温かいご飯なら30分ほどで中の具材が自然解凍されて食べられるようになる

丼ものを食べているような不思議な感覚

 「当初20種類以上あった候補の中から、日本人になじみが深くてご飯と相性が良い5種類の味を選んだ」と味の素冷凍食品 マーケティング本部 家庭用事業部 商品開発グループの金澤治氏は話す。

商品開発にあたった、味の素冷凍食品 マーケティング本部家庭用事業部 商品開発グループの金澤治氏(写真右)と笹枝由紀子氏(写真左)
商品開発にあたった、味の素冷凍食品 マーケティング本部家庭用事業部 商品開発グループの金澤治氏(写真右)と笹枝由紀子氏(写真左)

 まず実際に食べてみた。試食用に提供されたのは、コンビニのおにぎりとほぼ同サイズのもの。ギョーザやビビンバなど汁気が少ないものはともかく、カレーは解凍される過程で汁が漏れるのではという懸念があったが、実際に作られたおにぎりを手にすると、どこにもしみ出している様子はない。

 2つに割っても汁が垂れることはなく、ご飯の量と比べても具がぎっしりと詰まっているのが分かった。肝心の食感は、ご飯と具材のとろみがなじんでのみ込みやすく、丼ものを食べているかのよう。大人から子どもまで食べられるようにと辛みのある食材を使っていないので、どれも若干甘口に仕上がっている。だが、塩気が程よく効いていて味がはっきりしているので、冷めても食べやすかった。

「部活におにぎりしか持っていけない」子どものマンネリ解消

 液体は凍結すると固形化するので、カレーなど汁気が多いものを具材として扱えるのは冷凍食品ならではの強みだろう。自然解凍しても液体がしみ出さないように、粘度のコントロールを行うなど新技術を採用。また、屋外など水やお茶などがない状況でも食べやすいよう、なめらかな舌触りやのどごしの良さを意識したそうだ。

 屋外で食べるという想定や、子ども好みの味付け、ボリューム感を意識しているようにみえるおにぎり丸。メーンターゲットはスポーツをする子どもを持つ親としている。そもそも、商品を開発したきっかけは、部活動の規則などでおにぎり以外の弁当を持たせられないという消費者からの声だったという。

 同社が調査したところ、おにぎりであれば部活動中に屋外で簡単に食べられることなど、指導者側の事情や配慮によって弁当箱の使用が禁止されている部活動が近年増えていることが分かった。運動しておなかが減るのでおにぎりを3、4個持っていく子も多いなどスポーツをする子どもの喫食頻度が高く、「具材のバリエーションが少なく子どもが飽きる」「栄養バランスが気になる」という不満も浮き彫りになった。そこで、味のマンネリ化と栄養の偏りを解消するため、肉と野菜をバランス良く組み合わせたおにぎりの具の開発を考えたという。

 「肉と野菜の組み合わせにより、炭水化物を効果的にエネルギーに変えるビタミンB1も摂取できる。お米と総菜が一度に摂取できるパーフェクトフードとして訴求していきたい」と金澤氏は話す。

1箱4個入りで、パッケージはひとつずつ切り離して使える
1箱4個入りで、パッケージはひとつずつ切り離して使える
温かいご飯の上に冷凍のままのせて使う
温かいご飯の上に冷凍のままのせて使う

冷食の手抜き感を払拭するには「ひと手間」が必要だった

 だが、冷凍食品のおにぎりといえば焼きおにぎりというジャンルがある。おにぎりそのものを開発するのではなく、おにぎりの具材だけに目をつけたのはなぜなのか。その理由として「家庭でひと手間かける商品を作りたかった」と金澤氏は説明する。

 冷凍食品は低温の環境で加工・管理されており、雑菌の繁殖が防げることから「保存料を使っていないので、製造元としては安心・安全な商品だと自信を持っているが、消費者からは『既製品』『手抜き』などのネガティブイメージを持たれがちだった」(金澤氏)。

 だが、同社の代表的な商品であり、業界シェアトップの「ギョーザ」はフライパンで焼いたり、油で揚げたりなど家庭での調理が必要。そこでレンジで加熱する以外のひと手間が必要な商品を開発すれば、消費者にもっと受け入れやすくなるのではないかと考えた。「特におにぎりは作る人によってサイズや大きさが変わる。小さく握っても、大きく握っても構わないというところが魅力だと思う」(金澤氏)。

 調理が簡便な冷凍食品を買ったにもかかわらず、ご飯やラップを用意して握らなければならないというのは、一見面倒に感じられる。だが、できたおにぎりは各家庭のオリジナルだ。ひと手間かけることで既製品という感覚が薄れ、自分の料理として胸を張れること。この点は、既存の冷凍食品にはなかった新たな価値といえるだろう。

 また、おにぎりはスポーツ時だけではなく、塾の前の補食、受験生の夜食や朝食として食べられることもある。おにぎり丸の登場により、冷凍食品市場において「おにぎりの具」という新たなジャンルが拡大していく可能性はありそうだ。

(文/樋口可奈子=日経トレンディネット、写真/大高和康)

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