ラーメンなのに麺がない――。ラーメンの定義を根底から覆す、“麺なし”のラーメンを提供する店がここ最近急増している。その火付け役ともいえるのが、人気ラーメンチェーン「一風堂」だ。看板ラーメンである「白丸元味」の麺を抜き、豆腐を入れた「白丸とんこつ豆腐」の提供を2016年3月1日から3店舗で開始したところ、すぐに人気商品となり、提供店を9店舗に拡大。さらに2017年12月12日から2018年3月31日までの期間限定で、全国45店舗で提供している。
つけめんの有名店「六厘舎」の系列店で全国に29店舗を展開する「舎鈴」では、2016年8月から麺を肉に変更できる「つけ肉」を提供。当初は八重洲店1店舗のみだったが、現在は7店舗で提供している(2018年1月現在)。2012年からラーメンシリーズ「7種の魚介らーめん」を提供している「無添くら寿司」でも糖質オフシリーズ商品の1つとして2017年8月31日から「7種の魚介らーめん 麺抜き」(全4種)の提供を開始。
健康のために低糖質を心がけている人には朗報かもしれないが、ラーメンから麺を抜いたら単なるスープの一種。もはや「ラーメン」とは呼べない別の料理ではないだろうか。本当に麺抜きでもラーメンを食べたという満足感が得られるのか。
スープを味わうなら麺より豆腐!
一風堂は1985年に福岡市で「博多 一風堂」として創業。1995年に東京・広尾に東京1号店をオープンし、現在は全国で130店舗以上を展開している。
運ばれてきた白丸とんこつ豆腐の中身は白濁したスープに隠れていて、普通のラーメンと違いはそれほど分からない。豆腐はレンゲですくおうとするとホロホロとくずれる。ある程度の硬さがあったほうが、食べ応えがあるのではないかと感じながら口に入れると、軟らかい豆腐とスープの一体感で、まるで「ラーメンスープそのものを食べている」ような感覚。
豆腐を食べきったところで、ちょうどスープもなくなる。普通のラーメンよりも「スープを味わい切った」という満足度が高かった。難点は、「すする」「かむ」という食感の変化がないせいか、途中で少し飽きてくることだ。だがそれも、メニューの食べ方ガイドに従って、卓上に置かれている無料のトッピングを加えることで解消した。「スープを純粋に味わうなら、麺より豆腐!」という新発見をした思いだった。
もはや「麺なしラーメン」ではなく、新しい肉料理
ご飯を豆腐に替えたすき家の「牛丼ライト」、麺をブロッコリーに替えられるはなまるうどんなど、低糖質の食品への代替メニューを提供している店は増えている。だが、「麺の代わりに肉」というチョイスができるのは、おそらく舎鈴のみだろう。発売直後は1日あたり10~20食ほどしか出ていなかったが、ネット上で話題となったのをきっかけに、2016年9月上旬ごろからは1日に100食ほど出るようになった。「現在も八重洲店では毎日50食ほどの注文がある」(舎鈴を運営する松富士食品 営業企画部の平澤歩氏)というから一過性のブームではなく、固定ファンがしっかりついていることがうかがえる。
麺の代替ということでしゃぶしゃぶのようなヒラヒラの薄切り肉を想像していたが、かなり分厚い肉が入っている。ボリュームも多く、「全部食べきれるだろうか」という不安を感じたほどだった。使用しているのはスペイン産の豚肩ロース肉200g。バラ肉など脂の多い部位だと魚介類の香りが強いスープとの相性が悪いためだという。脂身の少ないしっかりした肉質だが硬くはなく、肉汁も多いうまみの強い肉だ。同じスープなのに、麺入りで食べているときと違う味わいに感じるのは、肉のうまみとの相乗効果だろうか。ボリュームのあるしゃぶしゃぶのような、新しい肉料理を食べている感覚。そのせいか、白飯が欲しくて仕方がなかった。聞けば、つけ肉にご飯を追加注文する人もかなりいるとのこと。もしかしたらこの店のスープは麺よりもご飯に合う味なのかもしれない。
麺なしなら「すしのシメにラーメン」もあり
回転ずしチェーンのサイドメニューでありながら、2012年の発売から3500万食販売しているという、「無添くら寿司」のラーメンシリーズ「7種の魚介らーめん」。新たに発売した糖質オフシリーズ「7種の魚介らーめん 麺抜き」は、麺の代わりにニンジン、チンゲン菜、モヤシ、キャベツの4種の蒸し野菜を使用。「らーめん麺抜き 醤油」「らーめん麺抜き とんこつ醤油」「らーめん麺抜き 濃厚味噌」「らーめん麺抜き 胡麻香る担々麺」の4種類を販売している。
人気トップだという「らーめん麺抜き 胡麻香る担々麺」を食べた。キャベツなどはかなりおおざっぱなザク切りだが、スープは予想以上に辛味が強く、本格的な味わい。しかし、もっと満足度が高かったのは、その後に食べた「らーめん麺抜き 醤油」だ。チャーシュー2枚と卵もトッピングされていて、見た目は普通のラーメンとほとんど変わらない。その上、スープは「これぞ醤油ラーメンのど真ん中」という味。すしをおなかいっぱい食べたあとなのにスープを最後まで飲みきってしまった。麺なしでも、「ラーメンを食べた」という満足感をこれほどまでに感じられることに驚いた。「すしのシメにラーメン」という夢も麺なしなら可能だし、「すしも食べたいがラーメンも捨てがたい」というときにも便利だろう。
客からの反応も良く、シャリの代わりに野菜を使った「シャリ野菜」などの糖質オフシリーズと合計し、発売後10日間で約100万食を販売したという。「『糖質制限しているため家族と一緒に回転ずしを楽しむことができなかったが、糖質オフシリーズがあるので家族そろって食事を楽しむことができた』という利用者の声もある。好評なので第2弾の提供を検討している」(くら寿司を運営する、くらコーポレーション広報宣伝部の本井啓貴氏)という。
今回、さまざまな麺なしラーメンを食べて、「麺がないラーメンはただのスープ」というイメージは一転。「麺なしだからこそ分かる味わいもある」ことを発見した。これまでのラーメンとは別の新しいメニューとして成立するのではないだろうか。とはいえ、ラーメン店にとっては麺あってこそのラーメンのはず。それにもかかわらず、麺なしラーメンはなぜ増え続けるのか。今回食べたラーメン店に話を聞き、その理由が見えてきた。次回の記事で詳しく紹介する。
(文/桑原恵美子)