大ヒットゲームの世界観を映像化した「バイオハザード」シリーズの最新作『バイオハザード:ザ・ファイナル』が、日本では世界最速、2016年12月23日に公開される。2002年に第1作が公開されてから足掛け15年、6作目にして最終作となった同作品のメガホンをとったポール・W・S・アンダーソン監督に話を聞いた。

 話題は、最新作の内容から、バイオハザードシリーズの歩みと共に進んできたデジタル化、3D化といった撮影技術、果てはVR(仮想現実)の可能性にまで及んだ。映像技術に造詣が深く、またゲーム好きでもあるアンダーソン監督は映像の未来をどう見ているのか。

『バイオハザード:ザ・ファイナル』は6作目にして完結編。ミラ・ジョヴォヴィッチ演じるアリスは、アンブレラ社の本拠、ラクーンシティの研究施設ハイブへと舞い戻る。そこで、アンブレラ社の最終目的、アリスが戦う理由が明らかになる
『バイオハザード:ザ・ファイナル』は6作目にして完結編。ミラ・ジョヴォヴィッチ演じるアリスは、アンブレラ社の本拠、ラクーンシティの研究施設ハイブへと舞い戻る。そこで、アンブレラ社の最終目的、アリスが戦う理由が明らかになる

――2002年に始まったシリーズもとうとう完結ですね。第1作からずっと関わってきた監督として、いまはどんな気持ちですか。

アンダーソン監督: 監督、プロデューサー、脚本家……6作品すべてにいろいろな立場で関わってこられたことを誇りに思っているよ。これだけ長く続いて、世界的に約10億ドルを稼ぎ出した作品に関われるなんて、そうそうあることじゃないからね。

 それと、この作品のスペクタクルな映像を作り出せたのは優秀なスタッフのおかげ。映像の出来にも満足しているし、スタッフにも感謝してる。もちろん、もう製作することがないと思うと寂しい気持ちもあるね。

――そもそもバイオハザードシリーズは、監督がゲームにハマって「映像化したい」という話になったとか。

アンダーソン監督: そうなんだよ、大ファンなんだ。ゲームシリーズの1と2はぶっ続けでやった。電話にも出ないので友達に心配されたくらい。ひげもそらないし、目も充血してるし、僕がアンデッドみたいになってたよ(笑)。それでこの素晴らしい体験は、ぜひ映像化するべきだと思ったんだ。

ポール・W・S・アンダーソン監督
ポール・W・S・アンダーソン監督

――VR版の最新作はプレーされました? 監督の年齢(51歳)でアクションゲームはキツくないですか? 私は52歳ですが、この手のゲームはちょっとつらいです。

アンダーソン監督: VR版はE3(Electronic Entertainment Expo、米ロサンゼルスで開催される世界最大級のゲームショウ)で試遊したよ。あれがキツイなんてパッション(情熱)が足りないな(笑)。やっぱり好きなことをやってこそだよね。映画でいえば、僕はアクション映画が好きだし、アクション映画を演出するのが好きだから続けられる。もう20年くらいになるけど、いまだに情熱を失ってないし、監督としての力量は当初より上がってると自分でも思うよ。

ゲームで始まったVR、映画にも導入される?

――ゲームの世界ではVRが登場しましたが、VR映画の可能性についてはどう思いますか?

アンダーソン監督: 技術が進歩すれば可能性はあると思う。映画は、どれだけその世界に入り込めるようにするかをずっと追求してきたんだ。例えば音声。最初はスクリーンからしか聞こえなかったものが、今ではサラウンドになり、頭の上を飛行機が飛んだり、銃弾が飛び交ったりするのをよりリアルに感じられるようになったじゃない? 映像も将来はそうなっていくだろうね。ただ、映画というのは観客が集団で楽しむもの、VRはヘッドマウントディスプレーを装着して個人で楽しむもの。ゲームにはとても向いているけれど、これが映画になるとどうかな。僕もいろいろ試しているんだけれど、VRが今後どうなっていくかは、ちょっと見ものだと思ってるよ。

――もしもVR映画を作ることになったら、どんな作品を作りますか?

アンダーソン監督: 自分がいままで歩んできた路線をたどるかな。アクション映画とか、ちょっと怖い映画とか。むしろ、そういう映画のほうがVRには合ってると思う、ラブストーリーなんかより。

――『バイオハザード:ザ・ファイナル』は余韻の残るエンディングでしたが、今回で本当に最後ですか?

アンダーソン監督: 残念ながら本当に最後だよ。この作品ですべての謎が解けるから、あらためて第1作から見直してみるのも面白いんじゃないかな。

 最新作では第1作に登場した敵の基地である「ハイブ」に戻るんだけど、第1作の公開は2002年だからね。当時の小道具なんて、もうないんだよ。例えば旧型のパソコンとか、コード付きの電話とか。仕方がないから3Dプリンターで作ったんだ(笑)。

――“ローテク”を再現するのに、“ハイテク”が駆使されたんですね。

アンダーソン監督: まぁ、派手なアクションがメーンの映画だから、見る人はあまり気にならないと思うけどね。第1作なんて、僕の感覚では1000年くらい昔の作品に思える。時代の進化ってすごいよね。

 そういえば前に『イベント・ホライゾン』(1997年)という作品を撮ったんだけど、その映画に出てくるコンピューターのキーボードをどうしようっていうことになって「スクリーンにキーボードがあったらいいのに」って話をしてたんだ。つまり、僕たちはiPadが登場する7年前にスクリーンキーボードを考えてたわけで、スティーブ・ジョブズを訴えるべきだと思ってる(笑)。

最新作の撮影ではあえて2Dに“回帰”した

――シリーズが15年続く中で、撮影技術もずいぶん進歩したと思います。監督にとって大きな変化は何でしたか?

アンダーソン監督: 毎回、最新のテクノロジーを取り入れているんだけれど、大きかったのは2010年に公開した4作目、『バイオハザードIV アフターライフ』だね。撮影がデジタルになり、かつ3D作品になったから。3D作品の撮影は、監督業をイチからやり直しかと思ったくらい違うんだ。撮影手法、フレーミング、あらゆるものを考え直さなくちゃいけないからね。

――最新作ではどんな取り組みを?

アンダーソン監督:実は今回、2Dに回帰するという大きなチャレンジをしたんだ。通常、3D作品を作るときは3D用の機材で撮るんだけど、『バイオハザード:ザ・ファイナル』は2D用の機材で撮って、2D作品を3D作品に変換しているんだよ。3D用の撮影機材はものすごく大きくて重い……機動力が高くないんだ。映像に臨場感を出したかったので、あえて小回りが利く2D用の機材を使ったんだ。

撮影中のアンダーソン監督
撮影中のアンダーソン監督

――2Dから3Dへの変換は難しいとも聞きます。

 2Dの映像を3Dに変換するときは、3Dの奥行きを表現するために、2Dの映像をレイヤーに切り分けていくんだ。手前に人物、その奥にテーブル、その向こうに壁、みたいにね。観客から自然に見えるように、それぞれの距離感を1フレームずつ設定していくんだから膨大な作業だよ。

 そういう作業はスタッフに任せてしまう監督も多いんだけど、それでは監督の意図とは違う、イマイチなものになってしまう。だから僕は3Dに変換することを前提に、3Dに精通した撮影監督を付け、3D化を意識したセットを作り、変換作業にもずっと立ち会った。そのために製作期間が4カ月延びたし、何カ月も暗い部屋にこもって作業するはめになったけれど、そのかいはあって素晴らしい映像が撮れたよ。

◇  ◇  ◇

 「観客は追加料金を払って3D作品を見るのだから、それにふさわしい映像にしなければいけない」と語るアンダーソン監督。言うまでもないが『バイオハザード:ザ・ファイナル』は、前作までを見ていない人でも楽しめるストーリー構成になっている。映像の迫力も満点なので、コーラとポップコーンを手に持って鑑賞するのはやめておいたほうがいい。

ポール・W・S・アンダーソン
ポール・W・S・アンダーソン
1965年3月4日、英国生まれ。ウォーリック大学で映像製作や文学を学び、『ショッピング』(1993年)で映画監督デビュー。ハリウッド進出作『モータル・コンバット』(1995年)でゲームソフトの映画化を成功させ、本作への礎を築いた。以後、『イベント・ホライゾン』(1997年)、『ソルジャー』(1998年)を経て、『バイオハザード』(2002年)で監督、製作、脚本を担当。同作は低予算製作ながら1億ドル以上の世界興収を上げ、シリーズ化。2017年12月13日公開の『バイオハザード:ザ・ファイナル』がシリーズ6本目。このほか、代表作として『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(2011年)、『エイリアンVS. プレデター』(2004年)などがある。

(文/堀井塚高、写真/稲垣純也)

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