ヤフーは2015年12月15日、「一休.com」を運営する一休を完全子会社化するべく、TOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。高級ホテルやレストランなどの予約サイトとして知られる一休を買収するヤフーの狙いはどこにあるのだろうか。

ヤフーが一休をTOBで買収

 年の瀬になっても大きな発表が相次ぐインターネット業界だが、2015年12月15日にも大きな発表がなされた。それは、ポータルサイト「Yahoo! Japan」を運営するヤフーが、「一休.com」を運営している一休を買収すると発表したことだ。

 両社の発表内容によると、ヤフーが一休を完全子会社化するためTOBを実施。12月16日から来年の2月3日にかけて株式の買い付けを実施することで、一休の全株式を取得する予定だとしている。買収にかかる金額は約1000億に達すると見られている。

 一休が運営する一休.comは、高級なホテルや旅館、そしてレストランの予約に特化したWebサービスとして知られている。宿泊施設の予約や、レストランの予約サービスを提供しているサービスはいくつか存在するが、高価格帯の分野に特化し、かつそれらを統合的に提供しているサービスは少ない。そのため競争が激しい市場ながらも独自の存在感を発揮、確固たるポジションを築いている。

 ヤフーは今回の買収によって、その一休.comを手に入れることとなる。買収後も当面は一休.comのブランドや運営スタイルは維持していく方針とのことで、一休.comのサービスが急に大きく変化するわけではない。だが将来的には、ヤフーの既存サービスとの連携などが積極的に進められていくものと考えられる。

 しかしなぜ、宿泊・飲食のオンライン予約サービスを既に展開しているヤフーが、一休の買収に踏み切ったのだろうか。そしてヤフーは一休の買収で、何を狙おうとしているのだろうか。

ヤフーは12月15日に「一休.com」を運営する一休を買収すると発表した
ヤフーは12月15日に「一休.com」を運営する一休を買収すると発表した

飲食店予約サービスの拡大が大きな狙いか

 最大の狙いは、EC事業の強化であろう。実際ヤフーのここ最近の取り組みを見ると、EC事業の強化を積極的に進めているのが分かる。

 それを象徴しているのが、2013年に通販サービスの「Yahoo!ショッピング」と、ネットオークションサービス「ヤフオク」の出店料を、有料から無料にしたことだ。手数料を取らないことで出店店舗数を大幅に増やし、ストア自体の規模を拡大するという大胆な戦略転換を実施したことが大きな話題をもたらし、それが大きな成果へとつながっている。

Yahoo!ショッピングは出店料を無料にし、店舗数を大幅に増やすことで売り上げを高める戦略に出ている(ソフトバンク2015年3月期第一四半期決算説明会より)
Yahoo!ショッピングは出店料を無料にし、店舗数を大幅に増やすことで売り上げを高める戦略に出ている(ソフトバンク2015年3月期第一四半期決算説明会より)

 今年に入ってからは、さらにEC事業を積極化するヤフーの姿勢を明確に示す出来事が相次いでいる。8月には関連会社であった、オフィス用品通販大手のアスクルを連結子会社化して関係を一層強化。また10月には、グループ企業となるソフトバンクのスマートフォンでYahoo!ショッピングを利用する際、会員登録やID・パスワードの入力をすることなく買い物ができる「スマートログイン」「スマート決済」の仕組みを提供。スマートフォンで買い物がしやすい環境も整えてきている。

 こうしたなか、一休を傘下に収めようとする大きな理由は、飲食予約に関するEC市場の伸びだ。

 一休が提供するサービスのうち、宿泊施設のオンライン予約サービスに関しては、既に多くの人が利用する一般的なものとなっている。しかしながら飲食店のオンライン予約サービスは、海外ではOpenTable.comなどが多く利用されている一方、日本ではまだあまり普及が進んでおらず、市場開拓の余地が大きい。

 最近では飲食店予約サービスを手掛ける企業も増えており、ヤフーも同種のサービス「Yahoo!予約 飲食店」を展開している。だが一休は、国内における飲食店予約サービスの先駆け的存在であり、しかも高級店に特化して積極的に店舗開拓を進めてきた。そうした一休が持つノウハウや店舗とのコネクションは、飲食店予約サービスを拡大する上で重要になるとヤフーが判断したといえそうだ。

飲食予約サービスは、10年前の旅行予約サービスと似た状況であり、今後大きく伸びる可能性が高いとヤフーは考えているようだ(ヤフーの記者会見プレゼン資料より)
飲食予約サービスは、10年前の旅行予約サービスと似た状況であり、今後大きく伸びる可能性が高いとヤフーは考えているようだ(ヤフーの記者会見プレゼン資料より)

ECは広告が伸び悩む中での新たな成長エンジン

 ヤフーは「Yahoo!トラベル」など一休と同じサービスを展開しているとはいえ、対象としている店舗やターゲット層は一休と大きく異なる。同じ事業内でのバッティングが少なく、補完関係が築けることも、買収に至った大きな要因といえるだろう。

一休とヤフーのサービスとでは対象とする店舗や顧客が異なることから、サービス間のバッティングが少ない(ヤフーの記者会見プレゼン資料より)
一休とヤフーのサービスとでは対象とする店舗や顧客が異なることから、サービス間のバッティングが少ない(ヤフーの記者会見プレゼン資料より)

 ではなぜ、そもそもヤフーは一休などを買収し、EC事業の拡大を進めているのだろうか。その背景にあるのは、スマートフォンによる広告収益の構造変化だ。

 ヤフーは従来、パソコン向けのサービスを主体として展開してきており、近年まではYahoo! Japanの検索サービスからキーワード検索をした際に表示される「検索連動型広告」が広告事業を大きく伸ばしてきた。だがスマートフォンの普及が進み、スマートフォン上からYahoo! Japanを利用する人が増加するに伴って、その傾向に変化が起きているようだ。

 というのも、検索連動型広告の単価はスマートフォンよりもパソコンの方が高いことが多い。単純にユーザーがスマートフォンへ移行してしまうと、それだけで広告収入が落ちてしまうのだ。そのためヤフーも現在は、ポータルサイト上に直接表示するディスプレイ広告に力を入れることで、検索連動型広告の落ち込みをカバーしている状況だ。

パソコンからスマートフォンへのシフトによって、検索連動型広告の売り上げは減少傾向にある(ヤフー2015年度第2四半期説明会資料より)
パソコンからスマートフォンへのシフトによって、検索連動型広告の売り上げは減少傾向にある(ヤフー2015年度第2四半期説明会資料より)

 主力事業の1つである広告を大きく伸ばすのが難しい中、同社が今後業績を大きく伸ばすための伸びしろとして目を付けたのが、EC事業だったわけだ。そして今回の一休の買収も、業績拡大を見据えたEC事業拡大の一環となっているのである。

 無論、一休の買収が大きな成果をもたらすかどうかは、今後のヤフーの取り組み次第でもある。一休の買収が成立すれば、創業者の1人である森正文社長が退陣することを表明しているだけに、買収の成否にはヤフー側のかじ取りが一層大きな影響を与えることになるだろう。まずは一休の店舗や顧客を維持しながら、いかに自社サービスと連携させてユーザーメリットを打ち出せるかが、勝負になってくるといえそうだ。

(文/佐野正弘)

この記事をいいね!する