民事再生法の適用を申請したプラスワン・マーケティング。同社は「FREETEL」のブランドでスマートフォンの製造・販売を手掛け、2017年11月には格安SIMの通信事業を楽天に譲渡していた。端末事業に専念することで再起を目指していたが、最終的には資金繰りの悪化で今回の結末に至った。負債は約26億円だった。

 プラスワン・マーケティングの2017年3月期の業績は売上高が100億5900万円、営業損益が53億8800万円の赤字だった。このうち、通信事業は売上高が43億2900万円であり、30億9000万円の負債を含め、楽天に5億2000万円で譲渡した。これにより、一定の余裕を確保できたはずだったが、1カ月程度しか持たなかった。

端末開発や店舗運営が依然として重荷

 改めて振り返ると、プラスワン・マーケティングを巡っては、楽天への事業譲渡前から不穏な噂が流れていた。「新製品がなかなか登場しない」をはじめ、「スマートフォンのファームウエアのアップデートが止まっている」「ユーザーが増えても携帯電話事業者と接続する回線(帯域)を増強しないため、クレームが殺到している」などだ。

 さらに「販売代理店への販促金の支払いが一部で滞っていた」「一部のフリーテルショップが開店後すぐに閉店した」といった苦しい台所事情も伝わり始め、2017年9月に楽天への事業譲渡を発表した。業界関係者によると、2017年7月以降は通信事業の身売り先を探していたとされる。

 こうした経緯を踏まえれば、取引先は自ずと離れていく。そもそも端末事業は格安SIMサービスを手掛けていたからこそ一定のボリュームを確保できていた面があり、通信事業を切り離せば当然、厳しくなる。楽天モバイルは2017年12月1日に開催した事業説明会でプラスワン・マーケティング製端末も取り扱っていくとして手を差し伸べる意向を示していたが、間に合わなかった。

 SIMフリーのスマートフォン市場はここにきて競争が激化している。最も勢いがあるのは中国ファーウェイ。台湾ASUSTeK Computerも依然として強く、シャープや富士通などの国内メーカー、中国レノボ傘下の米モトローラ・モビリティも拡販に力を入れる。これら大手と伍していくのは容易ではなく、プラスワン・マーケティングの破綻は時間の問題と見る向きが少なくなかった。

 一方、「2025年に出荷台数で世界一を目指す」(増田薫代表取締役)としていた海外への展開も緒に就いたばかりだった。当面は費用先行で持ち出しが多く、苦しい事業展開が想定された。子会社プラスワン・グローバルは2017年3月に総務省の官民ファンド(海外通信・放送・郵便事業支援機構、JICT)から最大15億円を調達したが、使途限定の支援になる。民事再生法の申請で今後の展開は見えていない。

 プラスワン・マーケティングによると、新製品こそ発表していなかったものの、内部で端末の企画や開発を続けていたという。「フリーテルショップ」をはじめとした販売網も楽天に譲渡したわけではなく、プラスワン・マーケティングに残ったまま。これらの費用負担が重荷となり、資金繰りの悪化につながった。結局、楽天への事業譲渡前に始まった負のサイクルから抜け出せなかった。

 同社は現在、ITサービスなどを手掛けるMAYA SYSTEM(東京・新宿)をスポンサー候補として事業の再生に向けた協議を進める。だが、置かれた状況は相当に厳しく、抜本的な戦略転換が必要となりそうだ。

「あれだけの規模で市場に残れない」

 プラスワン・マーケティングによる楽天への事業譲渡ならびに今回の経営破綻は、業界関係者に衝撃を与えた。2017年3月末時点で40万件超の契約数を誇り、格安SIM市場で業界5位に着けていたにもかかわらず、あっけなく破綻した。大手MVNOの幹部も「あれだけの規模で市場に残れない。同じ轍は絶対に踏まないと気を引き締めた」という。

 今回の一件から教訓として言えることは、「身の丈に合った取り組みを進める」という当たり前のことだ。「端末事業と通信事業の両方を手掛けることは理想的で良かったが、大手の端末メーカーでも実現できていなかった。MVNO市場が伸び盛りとはいえ、有名タレントを起用した派手な広告展開や独自店舗(フリーテルショップ)の大々的な展開と相当に無理があった」(MM総研の横田英明常務取締役)。

プラスワン・マーケティングは有名タレントを起用した派手な広告を展開していた
プラスワン・マーケティングは有名タレントを起用した派手な広告を展開していた

 歯車が狂い始めたのは、2017年4月21日に消費者庁の行政処分を受けてからだ。「業界最速」や「シェアNo.1」といった広告表示が優良誤認や有利誤認に当たると指摘を受け、顧客の獲得が思うようにできなくなった。事業の様々な部分で綻びが出始め、最終的には資金繰りの悪化で一気に転げ落ちた。

 これまでも一部で撤退や事業譲渡はあったが、大手の破綻は初めて。ただ、今回の一件は序章にすぎない。MM総研の横田常務取締役は「プロバイダーと同じ道をたどる」と指摘する。プロバイダーもインターネット接続ブームに乗って一時は数千規模のプレーヤーが参入したが、徐々に淘汰・集約されていった。「2018年はいよいよMVNOでも(撤退や事業譲渡の)動きが本格化する可能性が高い」(同)。

 携帯電話大手3社は格安スマホ対抗のガードを固めつつ、KDDI(au)やソフトバンクはサブブランドで市場を率先して奪いに来ている。MVNOは「大手も苦しくなってきており、中堅はさらに厳しい」(同)。「勝ち組」と「負け組」がはっきりと分かれてきており、そろそろ撤退や事業譲渡の決断を迫られるプレーヤーが登場しても不思議ではないというわけである。

 今後の課題は消費者保護だ。プラスワン・マーケティングは今回、「とりかえ~る」や「特別買取サービス」、「PREMIUM端末補償」の提供を中止するとした。通信回線の契約は楽天に譲渡したが、これらはプラスワン・マーケティングが継続してサービス提供していたものである。ユーザーが不利益を被るような事態が広がれば、MVNO全体の信用低下につながりかねず、丁寧な対応に期待したい。

(文/榊原 康=ITpro)

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