年の瀬も近づき、冬のボーナスで懐具合がちょっと温かくなった人も多いだろう。自分のためのご褒美を購入する人もいるかと思うが、その選択肢のひとつにおすすめしたいのが、ソニーが発売した、約3万円の腕時計「FES Watch」だ。

電子ペーパーを使った、いままでにないソニーの腕時計「FES Watch」。価格は2万9700円(税込み)
電子ペーパーを使った、いままでにないソニーの腕時計「FES Watch」。価格は2万9700円(税込み)

 FES Watchは電子ペーパーを採用した新感覚の腕時計。ソニー製でデジタルな風合いをかもし出しているので、一見すると「スマートウオッチ!?」と思ってしまう人もいるだろう。しかし、スマホなどとの連携機能は一切なく、あくまでも純粋な腕時計。むしろファッションアイテムといってもいい。

デザインが24通りに変化

 最大の特徴は、電子ペーパーの利点を生かし、ボタンひとつで腕時計全体のデザインを24パターンに変更できること。文字盤だけでなくバンド部分も含めたデザインを変更できるため、FES Watchひとつで複数の腕時計を持っているのと同じような感覚で利用できる。しかも、デザイン変更はボタンを押すだけでOK。物理的にバンド部分を取り替える従来の腕時計とは比較にならないほど簡単に変えられる。

 また、一般的なディスプレーと違い、素材を自由に曲げて利用できるうえに、形状が丸形なのも特徴のひとつ。硬質なプラスチックとは違って身体へのフィット感があり、腕時計としてのスタイルをそのまま残している。

FES Watchで選べるデザインパターン。24種類から選べる
FES Watchで選べるデザインパターン。24種類から選べる
同じ服装でも、デザインを変えるだけで印象が変わる
同じ服装でも、デザインを変えるだけで印象が変わる

 FES Watchは社内スタートアップを育成するソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」から誕生した。そのためこれまではソニーが同プログラムで設立したクラウドファンディングとEC機能を持つ「First Flight」など、一部のサイトでしか購入できなかった。

 しかし、2015年11月から一般店頭発売がスタート。現在は東京の「MoMAデザインストア」や「伊勢丹新宿店」のほか、関西でも雑貨や小物を取りそろえるセレクトショップ「KBFBOX」のグランフロント大阪店、西宮ガーデンズ店、名古屋PARCO店、博多阪急店で購入可能だ(詳細はこちら:http://fashion-entertainments.com/store.html)。

電池寿命は60日から2年に

 FES Watchの開発の原点は「好きなときに好きなデザインで楽しめるファッションアイテムを作る」ことにある。そこから電子ペーパーとファッションの結びつきに光明を見いだし、電子ペーパーを「紙」ではなく、身にまとえる「布」として捉えて開発した。

 開発の先頭に立ったソニー新規事業創出部 Fashion Entertainments プロジェクトの杉上雄紀氏が見据えているのは「ファッションがデジタル化される未来」。利便性優先のスマートウオッチとは違って、FES Watchは「身に着ける喜びが増すような存在にしたい」と杉上氏は話す。

 FES Watchを奇抜な形状にせず、あえて腕時計らしいデザインにしたのも「新しいスタンダードを作りたい」からであり、「今あるものが徐々にデジタルに進化していく過程を示唆する」のが狙いだ。

ソニー 新規事業創出部 Fashion Entertainments プロジェクトのリーダー 杉上雄紀氏
ソニー 新規事業創出部 Fashion Entertainments プロジェクトのリーダー 杉上雄紀氏

 FES Watchは腕時計の進化形だが、機能性や利便性で腕時計に劣っては意味がない。そこで、ポイントとなるのが「電池の持ち(=省電力性能)」だ。例えば一般的なスマートウオッチが、1〜2日程度しか持たないバッテリー性能によって時計としての使い勝手を損ねている。

 FES Watchが採用している電子ペーパーは、消費電力が少ないのが特徴だ。しかし、それはあくまでも液晶ディスプレーと比較したときの話。電子機器であることには変わりないため、そのままでは一般的な腕時計と同じように年単位で利用することはできない。

 実際、クラウドファンディングを始めた当初の試作機では、FES Watchはボタン電池1つで約60日しか持たなかったそうだ。しかし電気回路などを作り込むことで大幅に改良し、商品化された今では「約2年」まで延びた。

 また、電子ペーパーには、表示が切り替わっても前の映像が残像として残ってしまう「焼き付き」というウィークポイントがある。この問題についても、切り替わる柄の順番などを工夫することで解決したとのことだ。

■変更履歴
本文に誤りがありました。「クラウドファンディングを始めた当初の試作機では、FES Watchはボタン電池1つで約80日しか持たなかったそうだ」という文ですが、正しくは「FES Watchはボタン電池1つで約60日しか持たなかったそうだ」でした。お詫びして訂正いたします。該当箇所は修正済みです。 [2016/03/07 10:30]

実際の使い勝手は?

 FES Watchを実際に使ってみるとどうなるか。使用感を紹介しよう。

 横のボタンを押すと時刻が表示され、5秒前後で消えるのが基本操作。さらに、腕を下げた状態から時計を見る動作や、腕をひねる動作をすることで時刻を表示する「ウオッチアクション」機能を搭載する。既存のデジタル時計のように常に時刻を表示してくれるわけではないのは残念だが、ボタンを押さなくても時間は確認できるので、思ったほど使い勝手は悪くない。

 また、FES Watchは数字で「時」、針で「分」を表示する。この手法もやや特殊だが、実は一般的な時計の短針とほぼ同じように、数字の表示位置は時刻に合わせて移動するようになっている。例えば、3時であれば右横に、9時であれば左横に表示されるので、時間の感覚は意外とつかみやすいと感じた。

FES Watchは数字で「時」、針で「分」を表示する
FES Watchは数字で「時」、針で「分」を表示する

 また、着け心地は一般的なゴムベルトの腕時計に近いイメージで、バンド部分の硬さや質感はゴムとプラスチックのちょうど中間ぐらい。43gと非常に軽い点も魅力となっており、装着感はおおむね良好だった。

 さらに、これはある意味当然かもしれないが、FES Watchでデザインを変えると多くの人が興味を示してくれた。全体的なデザインはとてもシンプルだが、ギミックで注目を集めることは確実。会話のきっかけ作りなどにも重宝しそうだ。

今後はどう進化する?

 クラウドファンディングでニーズを探るところから商品化に成功したFES Watchは、今回ついに一般発売をするまでに至った。しかし、今後のさらなる改良進化も模索している。

 進化のひとつ目の軸となるのは、「デザインのバリエーションを増やす」というもの。柄のパターンを増やすのがもっともシンプルなやり方だが、杉上氏が着目しているのは質感。電子ペーパーで疑似的に質感を表現するだけでなく、別の方法で「本質的な質感を出していきたい」と意気込む。

 もうひとつの軸は「時計以外のアイテムにも幅を広げていく」という試み。電子ペーパーを布として捉えれば、洋服やカバンなどにも展開できるため、その可能性はかなり大きいといえる。

 普及までの道のりは平たんではないだろうが、「デジタルファッション」が当たり前となる未来もそう遠くないだろう。その第一歩がFES Watchなのだ。

(文/近藤 寿成=スプール)

この記事をいいね!する